テラーノベル
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気がつけば、深い闇の中にいた。
あたりを見渡しても、一切の光が感じられないから自分がどこに立っているのかもわからない。
とりあえずふらふらと彷徨っていると、一筋の光が垂れてきた。
光の方向へと足を向けると、そこに数人の人影が見えた。
まっすぐに伸びた光を囲むように立っている。
ローブとツナギとどこかの民族衣装を組み合わせたような、袖無しの黒い服を身につけている。
フードのようなものもついていて、皆一様にそれで顔を隠している。
それぞれ体格も背の高さも性別も違うようだが、皆一心にその円い光を見つめていて不気味だ。
突然、彼らが一斉に光に向かって跪いた。
途端に、俺の体は指一本動かせなくなってしまった。
まるでここにいてくれとせがまれているように。
少しして、彼らは跪くのをやめて頭を垂れたまま綺麗に自分たちの描く円を広げるように動いた。
そして器用に爪先立ちのまましゃがみ込み、瞑想をしているようなポーズを取った。
あの体制はしんどくないのだろうか。
よく見れば、手や首をかすかに動かしている。
一瞬の後、彼らは再び体を右に左に上に斜めに動かし始め、ゆらゆらと踊っているようだ。
寸分の狂いもなくぴたりとひとりひとりの動きが合っているこの光景は、正直恐ろしい。
立ち上がってはまたしゃがんで、くるくる回ったかと思えば止まったまま手だけを動かしている。
不規則でいて、それでいて規則的な踊り。
怖いのに、なぜか惹き込まれて目を逸らせない。
波打つように揺らぎ、闇と光の境目を縫うように舞う彼ら。
なぜか、囚人のように見えた。
囚人たちは夢を見ているかのように、何かに操られているのかと思うほどに意識が感じられない。
なのに、無意味にも見えるその動きには、確かに感情がこもっているように思える。
それが何なのかはわからない。
けれど、怒りと悲しみと寂しさを混ぜた祈りは、きっとこんな味がするんだろうなと、ふと思った。
苦いようで、そこには純粋で絡み合うことのない何かが眠っているんだろう。
囚人たちの舞踏をしばらく見ていると、ほのかな耳鳴りが聞こえ始めた。
それは音のようで、まっすぐに聴こうとすることを拒むものだった。
何かレコードのように軌道に乗った形かと思えば、どうにも形容しがたい流れをしていた。
言うなれば、音のない音。見ることのできない光。
そんな感じの、この世のありとあらゆる矛盾をくっつけて混ぜて引き伸ばしたような音だった。
それでも囚人たちはどうやら、その不規則とすら言えないような音楽に合わせて踊っているようだ。
なぜなのかも、その音楽も、俺には理解し得なかったけど、ひとつだけ考えることができた。
これは、死者のメロディー。
消えかけの、無意識だったり誰かに遺した言葉だった音。
ずっと、ずっと前から紡がれてきた、願いと祈りの言葉。
あれは祈りだ。救いを乞う、あまりにも身勝手な祈り。
知らないはずなのに、俺はこの旋律を知っている。
いつのまにか、耳鳴りをメロディーとして捉えられるほどには慣れてきていた。
すると、ずっと俯いていた囚人たちが突然、その顔を隠していたフードを取った。
相変わらず俯いたままだけれど、そこには何か意思のようなものを感じた。
声が聞こえた。
口ずさむような、熱唱しているような、讃美歌のような歌が。
それが、死者のメロディーをなぞっていることはすぐにわかった。
雨が水面に波紋を広げるように、輪唱は闇に広がっていった。
それに合わせて、囚人たちの踊りも輪唱のように連なる。
死ぬとき、人間はこんな場所にいるのかもしれない。
光の中心にあったのは、願いだったのか、代償だったのか。
嗚呼、このままずっと、ここで浸っていられたらいいのに。
―――――蒼亥、様―⋯⋯⋯
⋯⋯⋯
頭がふわふわとする。
それに合わせて、体がゆらゆらと揺れる。
…揺れる?
「レウさんっ!」
夢。
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