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第一章 護衛の名前
K-Tがまだ、自分の名前を持っていなかった頃。
施設では、彼を番号で呼んでいた。
名前は余計なものだと教えられた。名前があれば、誰かに呼ばれたとき振り返る。誰かに覚えられれば、弱点になる。護衛に必要なのは、命令を聞き、対象を守り、任務が終われば消えることだけだった。
「立て」
床に倒れていたK-Tは、左手をついて起き上がった。
右頬から血が落ちている。訓練用のナイフで浅く切られただけだが、血は目に入り、視界を赤く染めていた。
正面には、年上の訓練生が三人いる。
一人は木製の警棒を持ち、二人は短い刃物を握っていた。
K-Tは周囲を見た。
正面に三人。
左側に壁。
右側に閉じた扉。
背後に、負傷して倒れている別の訓練生。
逃げ道はない。
教官は何も言わずに見ている。
「対象を守れ」
それだけが命令だった。
K-Tは倒れている訓練生の前に立った。
「どけ」
警棒を持った男が言った。
K-Tは答えなかった。
男が踏み込む。
警棒が頭を狙って振り下ろされた。K-Tは一歩だけ横へ動き、相手の手首をつかんだ。勢いを利用して引き寄せ、肘を打つ。
警棒が床に落ちる。
左から刃物が来た。
K-Tは身を屈め、刃を避けながら相手の膝を蹴った。男が体勢を崩す。そこへ、もう一人が背後から迫った。
K-Tは振り返らず、床に落ちた警棒を蹴った。
警棒は滑り、男の足に当たった。
わずかな隙ができる。
K-Tは振り返り、男の胸を押し飛ばした。
三人が倒れる。
K-Tは倒れた仲間の前から動かなかった。
教官が腕時計を見た。
「終了」
訓練室に、荒い息だけが残った。
「なぜ攻撃を続けなかった」
「対象の安全を優先した」
「敵を倒せば、より早く終わった」
「対象に近すぎた」
教官はK-Tを見た。
「敵を倒すことより、対象が生き残ることを選んだか」
「そうだ」
「護衛としては正しい。兵士としては不十分だ」
K-Tは何も言わなかった。
教官は彼の頬の傷を見て、淡々と続けた。
「いずれ、お前はその判断を後悔する」
K-Tは床に落ちた警棒を拾った。
「必要なら、また判断する」
教官はわずかに目を細めた。
それが、K-Tという名前を与えられるきっかけになった。
その日から彼は、番号では呼ばれなくなった。
K-T。
意味は知らされなかった。
記号のような名前だった。
だが、K-Tにとっては十分だった。
呼ばれれば振り返る。
命令されれば動く。
守る対象がいれば、その前に立つ。
それだけでよかった。
施設での訓練は、日を追うごとに厳しくなった。
近接戦闘。銃撃。刃物への対処。爆発物。建物内の制圧。負傷者の運搬。敵に囲まれた場合の撤退。
K-Tは、どの訓練でも上位にいた。
だが、彼が最も優れていたのは戦闘ではなかった。
状況を整理することだった。
建物に入った瞬間、窓の数を数える。
部屋に入れば、出入口の位置を確認する。
車両に乗れば、燃料、タイヤ、周囲の障害物を確認する。
誰かと会話をしていても、視線の動きや手の位置を見ている。
危険が起きる前に、危険が起きた場合のことを考える。
「お前は、いつも逃げ道を探しているな」
ある日、車両訓練を終えた教官が言った。
K-Tは装甲車のエンジンを切った。
「退路は必要だ」
「勝てる状況でもか?」
「勝っても、全員が無事とは限らない」
教官は答えなかった。
その考えを、彼は好ましく思っていなかった。
組織にとって、護衛とは敵を排除するための道具でもあった。対象を生かすことは重要だが、敵を倒し、命令を達成することも同じくらい重視されていた。
K-Tは、そこだけが違った。
任務の成否より先に、人間の生存を計算した。
だから、仲間と呼べる人間ができるまでに、少し時間がかかった。
最初に話しかけてきたのは、メバルだった。
昼の食堂で、K-Tが一人で食事をしていると、向かいの席に座った。
「そこ、空いてる?」
「空いている」
「じゃあ、座るね」
メバルは返事を待たず、トレーを置いた。
K-Tは食事を続けた。
メバルはしばらく彼を見ていた。
「本当にしゃべらないんだね」
「必要がない」
「でも、食事中に一言くらい話してもいいでしょ」
「必要なら話す」
「それ、話さない人の言い方だよ」
K-Tは黙った。
メバルは笑った。
その笑い方が、K-Tには少し不思議だった。
施設の人間は、笑うときでも周囲を確認していた。誰かに見られていないか、相手に弱みを見せていないかを考える。
メバルは、何も考えずに笑っているように見えた。
それが危険なことなのか、K-Tには分からなかった。
その後、カキ、ミステー、マサカゲ、アオノも同じ班に配属された。
カキは冗談が多く、ミステーは機械に強かった。マサカゲは無口だが判断が早く、アオノは車両の扱いに長けていた。
五人は、K-Tを含めて六人の護衛班になった。
最初の共同訓練で、K-Tは全員に指示を出した。
「カキは左。ミステーは後方の通信。マサカゲとアオノは対象を中央へ。メバルは――」
「私は?」
「俺の近くにいろ」
メバルが眉をひそめた。
「それ、指示?」
「そうだ」
「理由は?」
「危険だからだ」
「誰が?」
「全員」
カキが横から口を挟んだ。
「つまり、K-T以外は全員危険ってことか?」
「違う」
「じゃあ、K-Tが一番危険?」
K-Tは答えなかった。
訓練開始の警報が鳴る。
仮想敵が建物内へ侵入し、護衛対象を狙う。
K-Tは先頭に立った。
だが、敵と接触してもすぐには攻撃しなかった。
まず後方を見る。
メバルたちの位置。
対象の位置。
退路。
窓。
階段。
そのすべてを確認してから、初めて銃を抜いた。
「敵、二人。正面」
K-Tが言う。
「俺が止める。対象を移動させろ」
「また一人で?」
メバルが聞いた。
「必要だからだ」
「それ、禁止にしない?」
「何が」
「その言い方」
K-Tは答えなかった。
敵が角から現れる。
K-Tは一人を撃ち、もう一人の攻撃を盾で防いだ。盾を押し出し、相手の体勢を崩す。背後からカキが回り込み、敵の武器を奪った。
「ほら、俺たちも役に立つだろ」
カキが言う。
「分かっている」
「なら、もっと頼れよ」
K-Tはカキを見た。
「必要なら頼る」
「その必要が、永遠に来ないんだよな」
訓練終了後、教官は班全員を集めた。
「K-T。単独行動が多すぎる」
「効率がいい」
「お前が負傷すれば、班全体の効率が落ちる」
「負傷しない」
「それを決めるのは、お前ではない」
K-Tは黙った。
メバルが横から言った。
「K-Tは、私たちを信用していないわけじゃないと思います」
教官がメバルを見る。
「なら、なぜ一人で動く」
「信じてるからじゃないですか」
K-Tがメバルを見る。
「何を言っている」
「自分が危険になれば、私たちは助けに来る。だから、私たちを危険に巻き込まないようにしてるんでしょ」
K-Tは何も言わなかった。
メバルは、少しだけ笑った。
「違う?」
「……違う」
「じゃあ、どうして?」
「説明する必要がない」
「ほら、そうやって逃げる」
K-Tは視線を逸らさなかった。
何かを隠しているとき、彼は目を逸らさない。
ただ、黙る。
それをメバルは少しずつ理解していった。
数か月後、K-Tは専用武器の開発許可を得た。
拳銃や刀だけでは、彼の戦い方に合わない。
通信、情報収集、近接防御を一つにまとめた装備が必要だった。
K-Tは古い型の携帯端末を分解し、内部構造を作り変えた。
外装には特殊素材を使う。
落としても壊れない。
撃たれても通信機能を維持する。
アンテナは伸縮式にして、警棒として使えるようにする。
他人の端末にかざせばデータを転送でき、敵の通信を逆探知することも可能にする。
ミステーが設計図を見ながら言った。
「これ、本当に電話?」
「通信機能はある」
「でも、ハッキング機能まで入ってる」
「必要だ」
「アンテナが警棒になる理由は?」
「近距離で武器を失った場合に使う」
「防水は?」
「当然」
「耐熱は?」
「必要な範囲で」
カキが横から覗き込んだ。
「これ、落としたら怒られる?」
「壊れない」
「そうじゃなくて、K-Tが怒るかどうか」
K-Tは端末を手に取った。
黒い外装。
余計な装飾はない。
画面の端に、小さく自分の識別番号が表示されている。
「名前をつけたら?」
メバルが言った。
「必要ない」
「でも、専用武器なんでしょ」
「ガラケーでいい」
「名前、適当すぎない?」
「機能が分かる」
メバルは呆れたように笑った。
その笑い声を聞きながら、K-Tは端末の電源を入れた。
小さな画面に、六人の連絡先が表示される。
カキ。
ミステー。
マサカゲ。
アオノ。
メバル。
そして、自分。
K-Tはしばらく画面を見ていた。
「どうしたの?」
メバルが尋ねる。
「何でもない」
「またそれ」
K-Tはガラケーを閉じた。
このとき、彼はまだ知らなかった。
この端末が、後に彼へかけられる冤罪の中心になることを。
この六人の連絡先が、組織にとって最大の脅威だと判断されることを。
そして、右腕を失うほどの事件を経た二十年後。
このガラケーの設計思想を受け継いだ装置が、未来のゲームを管理することを。
その夜、K-Tは施設の屋上にいた。
街の灯りを見下ろしながら、ガラケーで周囲の通信を調べている。
メバルが階段を上ってきた。
「やっぱりここにいた」
「何か用か」
「探した」
「必要ない」
「必要あるよ。明日の任務の説明、聞いてないでしょ」
「資料を読んだ」
「一人で?」
「そうだ」
「みんなで確認したほうがいいと思う」
「問題ない」
メバルはK-Tの隣に立った。
彼は少しだけ距離を取った。
「ねえ、K-T」
「何だ」
「いつか、本当に誰かを頼ることはある?」
K-Tは街を見た。
夜の道路を走る車。
遠くの信号。
ビルの屋上に設置された監視カメラ。
逃げ道は、いくつあるか。
敵が来たら、どこへ移動するか。
そんなことを考えながら、K-Tは答えた。
「必要なら」
「その必要が来るといいね」
「来ないほうがいい」
メバルは少し黙った。
「そういうところだよ」
K-Tは彼女を見た。
「何が」
「自分が傷つくことを、悪いことだと思ってないところ」
「任務に支障がなければ問題ない」
「右腕を失っても、同じこと言いそう」
「失わない」
「そういう意味じゃない」
メバルはため息をついた。
K-Tは返事をしなかった。
屋上の風が吹く。
彼の黒い制服の裾が揺れた。
そのとき、施設内部の警報が鳴った。
二人は同時に振り返った。
赤いランプが点滅している。
通信が入る。
《緊急警戒。内部システムへの不正アクセスを確認》
K-Tはガラケーを開いた。
画面に、見覚えのない通信履歴が表示されていた。
管理権限への接続。
最高機密区域への侵入。
そして、K-Tの個人識別コード。
メバルが画面を覗き込む。
「これ、K-Tがやったの?」
「やっていない」
「でも、記録は……」
「偽装されている」
K-Tは短く答えた。
「誰かが俺の端末を使った」
「誰が?」
「調べる」
その瞬間、施設の奥で爆発が起きた。
床が揺れた。
警報が一斉に鳴り響く。
無線から、複数の叫び声が聞こえた。
《重要データが流出!》
《K-Tを拘束しろ!》
《対象班も確保しろ!》
メバルが息を呑むK-Tは画面を閉じた。
「俺たちも?」
メバルが聞く。
「そうだ」
「何もしてないのに?」
「証拠は、そうなっている」
K-Tは屋上の扉へ向かった。
「待って。どこへ行くの?」
「確認する」
「一緒に行く」
「危険だ」
「分かってる」
K-Tは扉の前で足を止めた。
「下がれ」
「嫌」
「命令だ」
「聞かない」
メバルの声は震えていた。
だが、足は動かなかった。
K-Tは彼女を見た。
自分一人なら、施設から脱出することはできる。
しかし、メバルを残せば組織は彼女を拘束する。カキたちも同じだ。
それなら、全員を連れて逃げるしかない。
「……来い」
メバルは少し驚いた。
「いいの?」
「退路を確保する」
「それ、私を連れていく理由になってない」
「必要だからだ」
「はいはい」
二人は階段を下りた。
施設内は、すでに混乱していた。
警備員が廊下を走り、非常灯が赤く点滅している。遠くで銃声がした。
K-Tは壁際を進みながら、ガラケーを操作した。
「カキたちは?」
「通信が切れてる」
「位置は?」
「分からない」
「地下訓練区画」
K-Tは即答した。
メバルが振り向く。
「どうして分かるの?」
「非常時の配置」
「私たちがそこにいるって?」
「カキは出口の近い場所を選ぶ。ミステーは通信設備を探す。マサカゲとアオノは負傷者を移動させる。お前は――」
「私は?」
「全員を探す」
メバルは黙った。
当たっていた。
地下訓練区画に着くと、カキが警備員二人を相手にしていた。
ミステーは端末に接続し、施設内の扉を開閉している。
マサカゲとアオノは、負傷した訓練生を支えていた。
「K-T!」
カキが叫ぶ。
「何が起きてる?」
「知らない。突然、俺たちが反逆者扱いだ」
ミステーが端末から顔を上げた。
「K-Tの識別コードで、機密データが大量に送信されてる。しかも、送信先が外部じゃない」
「どこだ」
「組織の中枢サーバー」
K-Tは画面を見た。
自分の端末を経由して、組織の内部データが別の場所へ転送されている。
その中には、護衛班全員の訓練記録と個人情報も含まれていた。
「誰かが、俺たちを消そうとしてる」
ミステーが言った。
「違う」
K-Tは画面を拡大した。
「消すだけなら、データは流さない」
「じゃあ、何をする気?」
「追跡させる」
データの中に、偽の逃走経路が混ぜられている。
K-Tたちがそこへ逃げたように見せかけ、組織の部隊を誘導するための情報だった。
だが、その先には施設の幹部区域がある。
犯人は、K-Tを犯人に仕立てたうえで、組織の中枢へ向かわせようとしている。
「罠だな」
マサカゲが言った。
「そうだ」
K-Tはガラケーのアンテナを伸ばした。
黒いアンテナが、短い警棒へ変形する。
「それで、どうする?」
カキが聞く。
K-Tは周囲を見た。
仲間。
負傷者。
閉じた扉。
使える車両。
地下区画から外へ出る通路。
「ここから出る」
「幹部区域へ行かないのか?」
「行けば、全員が拘束される」
「逃げるのか?」
「今はそうする」
メバルがK-Tを見る。
「冤罪を晴らさないまま?」
「証拠が必要だ」
「どこにあるの?」
K-Tは画面を見た。
「組織の中枢」
カキが顔をしかめた。
「結局、行くんじゃないか」
「俺一人で行く」
「それは却下」
メバルが即答した。
「これは私たち全員の問題でしょ」
「お前たちは関係ない」
「家族でもないから関係ないって?」
K-Tは黙った。
メバルは一歩近づいた。
「私たちは、K-Tが犯人じゃないって知ってる。だから逃げるなら一緒に逃げる。戦うなら一緒に戦う」
「危険だ」
「何度も聞いた」
「死ぬ可能性がある」
「K-T一人なら、もっと高い」
「俺は――」
「自分が犠牲になれば全部解決すると思わないで」
K-Tは言葉を止めた。
カキが小さく息を吐く。
「メバル、よく言った」
「お前も黙っていろ」
「俺まで怒られた」
ミステーが操作を続けながら言った。
「外部への通信経路を一つ確保した。車両庫へつながる。そこから出られる」
アオノが頷く。
「車は使える。装甲車が二台、輸送車が一台」
「装甲車を使う」
K-Tが言った。
「でも、正門は封鎖されてる」
「正門は使わない」
K-Tは施設の見取り図を開いた。
「北側の整備用トンネルを抜ける」
マサカゲが見取り図を覗き込む。
「そこは崩落している」
「全壊ではない」
「通れるのか?」
「俺が確認する」
「また一人で?」
K-Tはマサカゲを見た。
マサカゲは無表情のまま続ける。
「今のは、全員の意見だ」
K-Tはしばらく黙った。
「分かった。アオノ、車両。ミステー、通信。カキ、負傷者の移動。マサカゲ、後方警戒。メバルは――」
「全員の位置を確認する」
メバルが先に言った。
K-Tは頷いた。
「行く」
地下区画を出た直後、廊下の奥から銃声が響いた。
K-Tは即座に防弾盾を構えた。
銃弾が盾に当たる。
「伏せろ!」
彼は盾を前に押し出し、仲間を壁際へ移動させた。
敵は四人。
武装した警備員が階段の上に並んでいる。
「K-T、武器を捨てろ!」
「断る」
「組織への反逆行為を確認した。お前たちは全員拘束する」
K-Tは返事をしなかった。
右手で拳銃を構え、左手でガラケーを操作する。
その画面に、敵の通信経路が表示された。
K-Tはアンテナを伸ばし、先頭の警備員が持つ端末へ向けた。
データ転送。
敵の端末に、一瞬だけ黒い画面が表示される。
「何をした?」
「お前たちの位置を送った」
次の瞬間、施設の別区画から警報が鳴った。
警備員たちが振り返る。
その隙に、K-Tは階段を駆け上がった。
一人目の銃を蹴り落とし、二人目の腕を盾で打つ。三人目が刃物を抜くが、K-Tはトンファーで手首を押さえ、壁へ叩きつけた。
最後の一人がメバルへ銃口を向ける。
K-Tは、ほとんど反射的に動いていた。
銃声。
K-Tの盾が弾丸を受け止める。
同時に、彼は警棒を投げた。
アンテナが警備員の手に当たり、銃が落ちる。
メバルが拾った。
「撃てる?」
「撃たない」
「なら、下がれ」
K-Tは敵の懐へ入り、肘を打ち込んだ。
警備員が倒れる。
そのとき、廊下のスピーカーから声が響いた。
「K-T」
低く、落ち着いた男の声だった。
仲間たちが動きを止める。
K-Tだけが、スピーカーを見上げた。
「お前は、守る対象を間違えた」
組織のトップの声。
顔も姿も見えない。
ただ、施設全体に声だけが流れている。
「お前が仲間を連れて逃げれば、彼らも反逆者になる。お前一人で罪を認めれば、彼らは助かる」
メバルがK-Tを見る。
K-Tはスピーカーから視線を外さなかった。
「俺が守る相手は、俺が決める」
「その判断が、何人を殺すと思う?」
「数えるのは後だ」
「違うな。お前は、数えることから逃げている」
K-Tの左手が、ガラケーを強く握った。
「今は話している時間がない」
「そうやって何も説明せず、仲間を置いていくのか?」
スピーカーの声が、わずかに低くなる。
「お前はいつか、守るためにすべてを失う」
K-Tは仲間たちを見た。
カキは拳銃を握っている。
ミステーは通信端末を抱えている。
マサカゲとアオノは負傷者を支えている。
メバルは、まっすぐK-Tを見ていた。
「K-T」
「何だ」
「行こう」
「危険だ」
「分かってる」
メバルは、彼の右側に立った。
「でも、今度は置いていかない」
K-Tは何も言わなかった。
スピーカーから、最後の声が響く。
「その選択を、後悔することになる」
K-Tはガラケーの画面を閉じた。
「後悔は、任務が終わってからだ」
彼は北側の通路へ向かって歩き始めた。
仲間たちが続く。
誰も知らなかった。
この日から、K-Tたちは組織に追われる逃亡者になる。
家を破壊され、銃を撃たれ、殺し屋に狙われ、何度も死にかけることになる。
K-Tが右腕を失うのは、まだ先のことだった。
そして彼らを追い詰める組織のトップが、二十年後のK-T自身を生み出すことになる。
黒いスーツ。
存在しない右腕。
ノイズに覆われた顔。
ゲームマスター。
Xと名乗る男の、最初の過去は。
この夜から始まった。
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**はる。だわ。** 第一話、めっちゃ良かった…! 訓練シーンの緊張感が半端ないし、K-Tの「逃げ道を探す」戦い方、めちゃくちゃ刺さったわ。メバルとの会話も好き。「必要だから」しか言わないK-Tを、メバルが少しずつほぐしていく感じが丁寧だった。冤罪の流れもスピード感あって、続きが気になりすぎる🔥 ラストの“X”への伏線もゾクッとした。このガラケーが未来のゲーム管理装置になるって展開、SF好きとして待ち遠しい! 次話、楽しみにしてる📱
#異世界転生
K-Takasaka
49
#人狼