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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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「こんな所に有ったんだ」
和也は嬉しそうに人形に付いている紐をつまみ、みんなの前に差し出した。
「可愛い人形……この人形どうしたの?」
彩が興味深々に和也に訊ねる。
「これは俺のお宮参りの時に、親が知らないおばあさんから貰ったらしいんだ。『この人形はこの子の強い願いを受けて奇跡を起こします。お守りとしてずっと持たせてください』って」
拓馬は和也の言葉を別世界の出来事のように現実感の無いままに聞いていた。
――あの人形は車に吊るしていたお守りだ。あれも和也の物だったなんて……。
「親も信じた訳じゃないけど、捨てる訳にもいかずにずっと持たせてくれたんだ。それにほら……」
和也は人形を自分の顔の横に持ってきた。
「顔も良く似てるだろ?」
「ホントだ、よく似てる。ちょっと見せて」
彩が嬉しそうに和也から人形を受け取る。
拓馬は和也の写真を見た時に懐かしさを覚えた理由が今分かった。和也の顔に人形の面影を思い浮かべたのだ。それぐらい人形は和也に似ていた。
「拓馬のお陰だよ。一年程前に失くしてしまって探してたんだ。最近CDで聴く事無かったから、ケースの奥に落としていたのに気付かなかったよ」
「そ、そうなのか……それは良かったな……」
拓馬はそういうのがやっとで、今日立て続けに分かった彩と和也の繋がりの深さに驚き動揺していた。
勉強は再開されたが拓馬は気持ちの整理が出来ず、ケーキの事、RCの事、人形の事などが次々頭に浮かび集中出来なかった。
勉強会は六時で終了し、和也の母に夕飯を勧められた。だが、拓馬は家で用意しているからと丁寧に断った。明菜も拓馬に合わせて一緒に帰る事にして、彩一人を残して二人は和也の家を出た。
途中、落ち込んだ拓馬は口を開くのが億劫で無言のまま自転車を漕ぎ続けている。
「今日は送ってくれないの?」
二人の帰路の分かれ道で、無意識に家の方に向かおうとした拓馬を明菜は呼び止めた。まだ六時半で、七月初めの今は十分に明るい。
「ああ、ごめん。そうだな、送るよ」
拓馬は自転車を方向転換して明菜の横に並ぶ。
「ありがとう。そう言えば私の家の夕飯は遅いのよね。時間を持て余すから、ちょっと公園で時間つぶしに付き合ってくれない?」
拓馬が顔を上げると、明菜は優しい笑顔を浮かべていた。
「ああ、もちろん構わないよ」
拓馬はわかっていた。明菜は頼むように言ってくれたが、本当は落ち込んでいる自分の様子に気付き心配してくれているのだ。
二人は自転車を公園の入り口に止めて、前と同じベンチに座った。
「ありがとうな」
拓馬はベンチに座るなり礼を言う。
「私が誘ったのになぜ礼を言うの?」
「俺もそこまで鈍感じゃないよ。俺の事を心配してくれたんだろ?」
「自覚があるって事は理由があるのよね? 隠し事はしないでよ。もう私達は共犯者なんだから」
明菜の言葉には、内容以上に優しい響きがあった。
拓馬は少し考えて「俺にもう一度空メールを送ってくれないか」と頼んだ。
明菜がメールを送ると「雨上がりの夜空に」が拓馬の携帯から鳴り出した。
「この曲は俺と彩の思い出の曲でさ、ドライブで聴いたり、カラオケで一緒に歌ったり、喧嘩した時に仲直りの為に使ったり……俺達を繋ぐ絆だと思ってたんだよ……。でも今日聴いたら、彩は知らないって。和也の好きな歌だったんだ」
拓馬は明菜の顔を見て無理に作った笑顔を浮かべる。
「……彩はどんな気持ちで俺と一緒にこの曲を聴いていんだろう……彩にとってこの曲は俺との絆じゃなくて、和也との絆だったんじゃないかって……」
拓馬は携帯の着信音を止めた。顔には深い悲しみが浮かんでいる。
「それにあの机の下から出てきた人形、あれは彩がお守りにって俺の車に吊り下げてくれたものなんだ。彩は俺の車に乗りながらずっと和也の事を思い出していたんだよ……」
「そんな事があったの……んっ?」
明菜は何か思いついたような声を上げた。