テラーノベル
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あれから数日が経った。
何事もなかったように振る舞うのは、意外と簡単だった。
Snow Manとしての仕事はいつも通りで、岩本くんも変わらずそこにいる。
だけど、俺の中では、何かが確実に変わっていた。
視線がふと引っかかる。
ステージ袖、食事中、車の中。どんなに自然に振る舞っても、無意識のうちに岩本くんの動きを目で追ってしまう。
——あの身体が、縛られていた。
——岩本くんが服従していた。
あの画像が、何度も頭の中で再生される。
目を閉じなくても、脳裏に焼きついて離れない。
「……あのさ、岩本くん」
仕事の合間の休憩時間。
たまたま2人きりになった廊下で、何気ないふうを装って声をかける。
岩本くんはペットボトルの水を飲んでいた手を止め、こちらに目を向けた。
「ん?」
「あの時の……ごめん、まだちょっと気になっててさ」
「……何が?」
わかってるくせに、と言いたくなる。
でもその表情はいつも通りで、嘘のない目をしていた。
「その、“誰にも言わないで”って言ってたやつ。あれ、どういうやつなの?」
岩本くんの喉仏が、かすかに上下した。
少し間を置いて、低い声が返ってくる。
「……ただの趣味みたいなもんだよ。俺は、そういうの向いてるってだけ」
「向いてる?」
「命令されたり、ああいうことされるのが好きって話」
冗談でもなく、照れたふうでもなく、事実だけを淡々と述べる声。
その言い方が、逆にリアルだった。
「へぇ……俺にはちょっと想像つかないな。岩本くんが命令される側って」
「そっか」
短くそう答えて、岩本くんは目を逸らす。
その首筋のあたりが、わずかに赤くなっているように見えた。
その瞬間、自分でも気づかないくらい、口元がわずかに緩んだ。
怖いものを覗き込むような気持ち。
けれど引き返せない衝動。
俺は、もう少しだけ踏み込んでみた。
「岩本くん、次のオフの日、ちょっと会えない?」
「……なんで?」
「俺なりに、“ちゃんと岩本くんの秘密”守りたいから。」
言い訳みたいな理由だった。
だけど岩本くんは何も言わない。
しばらくしてから、小さくうなずいた。
「わかった。……場所は、任せるよ」
きっと言葉の意味を察したんだろう。
その声には、どこか諦めのような響きがあった。
そうだ、俺は試してる。
岩本くんがどこまで見せてくれるのか、自分の“命令”でどこまで従ってくれるのか。
それを確かめるために。
——”あの顔”、もっと見せてよ。岩本くん。
その日の夜、俺は初めて“ロープの結び方”を検索した。
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