テラーノベル
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ことの発端は、ほんと些細なことだった。
らっだぁの揶揄いがちょっとだけ度を超えて、 なるせが拗ねて、怒って、口にした。
「……お前もう俺に触んの禁止だから!!三日間!!、 俺に近づいてくんな!!」
普段は自分から、甘え倒してくるくせに。
そんな宣言をしたなるせに、
らっだぁは一瞬だけ驚いたあと──
「いいよ、別に。
──いいけどさ、そんなん我慢できんのお前に? 絶対無理な方に千円かけるわ笑」
そう言われて、なるせはムキになって言い返した。
「は!?できるわ!それお前だから!!」
その夜。
2人ともベッドにいるのに、空気が変だった。
らっだぁはいつも通りスマホをいじってて、
──なるせはその隣で固まってた。
いつもなら、もうとっくに後ろから抱きついてる時間。
でも今日は、
(…こっち向かねぇかな。てか、触ってほし
……っいや、違う。俺が“しばらく触んな”って言ったんだっつーの……!)
ぐるぐる頭の中で後悔が渦巻く。
寝返りも打てない。目とか合わせたら絶対崩れてしまう。
そんな中、らっだぁの方がふと声を出した。
「なんか静かじゃない?
──もしかして、…“触んな”って言ったの後悔してる?」
……図星すぎて心臓止まるかと思った。
「してねぇよっ…ば〜か……」
「ふ〜ん。
──じゃあ、ほんとに触んないね?」
たった一言で、なるせの喉が詰まる。
苦しい。
本当に、冗談じゃなく苦しい。
自分で言ったせいだけど。
らっだぁがこんなにも余裕だなんて思わなかった。
時間だけが過ぎて、もう深夜。
なるせは布団の中で、息を殺してた。
そっと目だけ向けたら、らっだぁは仰向けに寝転んで、
ただ静かに天井見てた。
それが、なんかもう、
めちゃくちゃ泣きそうになって──
「……らっだぁ」
か細い声に、らっだぁはすぐに反応した。
「なに」
「……っ、…もう、むり。……触って…」
ちょっとの沈黙。
そのあと、ゆったりとした声で。
「……だーめ」
──世界、終わったかと思った。
「……っ……っいじわる……!」
ぽろっと涙が落ちる。
止まらない。たぶん涙腺、バグってる。
声出さないようにしても、震えが止まらない。
「……っ、なんで……もう、 おれの負けでいいから……」
らっだぁは一瞬黙ってたけど、
数秒後、そっと布団が動いた。
そして──やっと、腕が伸びてくる。
「泣くなよ。ごめんって笑」
ギュッと引き寄せられて、
らっだぁの胸元に顔を押しつけた。
そのまま髪を撫でられながら、
なるせはまだちょっと泣いてた。
「……泣きたくなかったのに…っ」
「んー笑……でも泣いてるの、まじ可愛いいからなぁ、 もうちょい焦らせばよかったかも」
「……ひどいょ……」
冗談っぽく言う声とは裏腹に、
指先はとても優しくて。
濡れた頬をなぞって、顎を引いて、
口づけが落ちる。
唇を離すと、なるせが小さく、抗議の目を向けた。
「………もっと…」
「お前がお触り禁止とか言ったくせに?」
「もう俺の負けでいいから…お願い……
…いっぱいして……」
それから、やっと許された抱擁もキスも、全て、 溶けるように甘く、夜に沈んでいった。
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