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「いやぁすまねぇ、しかし本当にいいのか?
助けてもらった上に獲物まで」
あの巨大海獣―――
巨大セイウチというらしいのだが、
それを私が無効化した後、ドラセナ連邦の船団が
トドメを刺し、
何とか獲物を浜辺まで引っ張ってきて、
解体していた。
そこで分け前を好きに決めて欲しいと
言われたのだが、
「あなた方が一番被害を被っていた
ようですし……
それを考えると一番もらう権利があるんじゃ
ないかなあ、と」
それを聞いた黒々とした口ヒゲに筋肉質の体の、
海賊の見本みたいな男、シルヴァ提督が首を
ひねって、
「まあよくわからねぇ理屈だが、ありがたく
頂いておくよ。
確かにこっちも被害甚大って状況だしな。
ちょっとでも取り返さなけりゃ
やっていけねーし。
だけどよ、恩人だからこそ言っておくが、
巨大セイウチは結構高値なんだぜ?
皮も牙も超がつくほどの高級品だ。
獣油もよく燃えるってんで燃料として
重宝され、高く取り引きされるんだが」
さすがに何も無しでは気が引けるという事か。
そこへ童顔のアジアンチックな妻と、欧米風の
顔立ちの妻の二人が割って入り、
「とは言ってもねー。
こんなに大きいの持って行けないもん」
「それに我らにはあまり時間が無い。
すぐ戻らねばならぬしのう」
偵察、という事で来ている事もあるが―――
ランドルフ帝国にある大使館には、数日内に
戻ると言ってあるのだ。
とてもじゃないが、解体を待っている
時間は無い。
そこで私は少し考えて、
「じゃあ、お肉を少し切り分けて頂けますか?
2,30人分くらい。
それと……」
私はいったん一呼吸置いて、
「可能な限りで構いませんので、ここで
何をしていたのかを教えてくれませんか」
その言葉に、シルヴァ提督他周囲にいた
ドラセナ連邦の面々がピタッ、と動きを止め、
「あー、偵察だ偵察。
ランドルフ帝国が辺境大陸の国々と、
合同軍事演習をやるって聞いてな。
その情報収集に来ていたんだ」
「提督、それは」
部下であろう一人がたしなめるように話すが、
「バカ野郎!!
すでに俺たちは見つかっているんだよ!
しかも助けてもらっているんだ。
それに、あちらは軍用のワイバーンを
持っている。
これだけ図体のデカい船、それも数隻で
近付いているんだからよ。
遅かれ早かれ見つかっていただろう」
彼は一括して部下を黙らせる。
「ドラセナ連邦には、ワイバーンのような
飛行戦力はいないのですか?」
私が質問すると、
「軍で使おうって話は出ているが―――
まあまだ計画段階だろう。
大鷲なら扱っちゃいるが、それに乗って
どうこうってのもなあ。
よほどの命知らずじゃねえと。
俺がしゃべる事が出来るのはこのくれえだ」
シルヴァ提督の口ぶりからすると……
どうも飛行戦力については、あまり警戒して
いないようだ。
実際、前回アルテリーゼで近付いた時は―――
風魔法との組み合わせで、異様に飛距離の長い
矢でけん制されたからな。
(■195話
はじめての ついせき(どらせなれんぽう)
参照)
つまり、現存する防空能力で対応可能と
考えており……
その自信から、飛行戦力についてはさほど
危険視していないのだろう。
だからこその偵察だったんだろうけど、
巨大セイウチという海中からの攻撃には
無力だったようだ。
まあそれはこの世界、どこの国も事情は
似たようなものだろう。
しかしこの認識だと、しつこく偵察や情報収集に
船を送り込んで来そうだな。
そこから武力衝突、戦争になるような展開は
避けて欲しいところだけど―――
「ランドルフ帝国とは国交があるんですよね?
それならばいっそ……
合同軍事演習を観戦させて欲しい、と
申し入れてみたらどうでしょうか」
私の提案に彼を始め、その部下らしき人たちも
ポカンと口を開けるが、
「いや、まあ―――
見せてくれるってんなら、そりゃそれで
いいけどよ」
そう彼が答えると、
「そりゃ無理でしょう!
軍事機密ですよ!?」
「交易上の関係があるだけで、同盟国って
ワケでも無いんですから……!」
と、口々に部下たちが正論を言い立てる。
「やるだけやってみたらどうでしょうか?
案外―――
あっさり見せてくれるかも知れませんよ?」
「まあ、言うだけならタダだしな。
わかった、やるだけやってみよう。
連邦の上にも進言してみるよ」
そこで私たちは話を終え……
お土産に巨大セイウチの肉をもらって、
鬼人族の里へ帰った。
「ふむ。そういう事であったか。
それでランドルフ帝国に急ぎ戻らねば
ならないと」
鬼人族の里へ戻った私たちは事情を説明し―――
翌日にはいったん帝国の大使館に戻る事に。
「巨大セイウチの肉、ありがとぉ頂くわ」
鬼人族の長夫婦―――
ヤマガミさんとシャーロットさんがお別れの
あいさつをすると、
「ラッチ~!
また里まで来てね~!」
「ピュー!」
二人の娘であるパチャママさんもまた、
ドラゴンの子供との別れを惜しんでいた。
「あと桜の苗木も……
感謝する。
先祖の言い伝えで聞いていた木が、
まさか手に入るとは―――
いずれ里でも桜の花見が出来るよう、
大切に育てよう」
鬼人族の里には梅があり、それを見て花見自体は
行われていたようなのだが、
さらに梅を超える見事な木があると、先祖から
伝え聞いていた。
恐らく、この世界に初めて来た鬼からの
伝承だろう。
「では、公都『ヤマト』組の鬼人族のみなさん、
『乗客箱』に乗ってください」
私が一時里帰りしていた彼らに声をかけると、
「行って来るよー」
「またすぐ帰って来るから」
「次に来る連中は早めに決めておいた方が
いいぞ。
あそこは学ぶものがいっぱいあるからな」
それぞれ、別れのあいさつを交わし……
まずは帝国の大使館へと飛び立った。
「久しぶりだな、というのもおかしいか」
「届いたネギトロ丼とタラコ丼食べたよー。
いや、ありゃ美味しかった!
船も定期的に入って来るようになったし、
これからもどんどん頼むよー」
大柄な体を鎧に包んだ、短い黒髪に半開きの
目をした将軍と―――
黄色に近い、ブロンドの長髪をした女性と
丸テーブルに向かい合って座る。
帝国武力省将軍、ロッソ・アルヘン様と、
魔戦団総司令、メリッサ・ロンバート様だ。
二人は『ゲート』の存在を知っているので、
当然私が、それを使ってランドルフ帝国と
ウィンベル王国を行き来している事も
承知している。
なので、前述のような言い方をしたのだろう。
「お久しぶりです……
という事にしておきましょう。
実はお話があって来ました。
ドラセナ連邦の事です」
そこで二人は崩していた姿勢を正す。
「ドラセナ連邦か。
最近、連中の主力商品である奴隷の売買が、
帝国内で厳しくなったからな。
そろそろ何かやらかす頃だと思っていたが」
「そうでなくても、合同軍事演習も近いからね。
で? ドラセナ連邦と何かあったのかい?」
そこで私は先日、彼らの船を巨大セイウチから
助けた一件を説明した。
「情報収集に来ていたか。
諜報機関も動いているのだろう」
「腐ってもこの大陸クアートルの、列強四国の
1つだし。
そりゃ座視してはいないでしょうよ。
で? 警戒を勧めに来てくれたの?」
帝国武力省将軍と魔戦団総司令の言葉の後、
「いえ、彼らにランドルフ帝国に対し、
いっそ軍事演習を観戦させて欲しいと
申し入れたら?
そう提案したんです」
「は?」
「ほえ?」
自分より若い男女が同時に疑問の声を上げる。
「そしてそれを受けるよう、動いて
欲しいんです」
「いや、しかし―――」
「あー、かつてそちらがやったように、
実力を見せつけて戦争回避するって事?」
アルヘン様の後に、ロンバート様が理解を
示すが、
「だが、結局は訓練部隊が向かう事になったでは
ないか」
将軍がすかさず消極的に事実を述べる。
確かに、正式な使者に軍事力を見せたにも
関わらず……
二百隻からなる大船団がウィンベル王国に
攻めてきたのだ。
(■172話
はじめての かいせん(らんどるふていこく)
参照)
「あれは新型兵器が完成した、という事情も
あっての事でしょう。
それに戦力を見せつければ、その分析や対応に
時間を要します」
「まあそうだねえ。
あの訓練部隊だって、いろいろと意見が
割れた上で―――
ああいう形での出動になったんだし」
そこでアルヘン様は両腕を組んで、
「確かに、使者が持ち帰った情報は、
好戦派の頭を冷やし、慎重派の意見を
補完した。
自分も実験用の一部隊ならと黙認したが……
全戦力で打って出るなど思いもしなかったな。
そういう意味ではアリ、か」
「一番マズいのは判断材料が一切無い事です。
それに演習を見せたところで、それが全てとは
思わないでしょう。
むしろこれだけの事が出来るのであれば、
もっとすごい秘密兵器があるかも―――
そう相手が考えてくれれば御の字かと」
その後しばらく、二人と私とで話し合いを続け、
もしドラセナ連邦から合同軍事演習の観戦の
申し入れが来た場合、これを受け入れるよう
根回しをしてくれる事となった。
話が一段落したところで私が一礼し、
席を立とうとしたところ、
「あ、そういえばシン殿」
「?? 何か?」
ロンバート様に呼び止められ、そちらの方へ
振り向くと、
「生で食えるようになった魚とさー、
納豆のいい組み合わせって無い!?」
そうだった。
この人確か納豆狂だったわ。
「ええと、海の生魚の刺身に……
納豆を一緒に載せて混ぜて食べる方法も
ありますよ」
マグロ納豆丼のような食べ方を教えると、
彼女は満面の笑みとなり―――
それを見て男性の将軍は苦笑していた。
「は?
ランドルフ帝国が演習観戦を認めただと?」
三日後……
ドラセナ連邦の首都島・レイブン―――
木製の風通しのよさそうな、南国らしい
巨大な建築物の中で、アラサーと思われる
真っ赤な長髪を持った女性が部下の報告を
聞いていた。
「つーかそもそも連邦、帝国に観戦なんて
打診していたっけ?」
「は、はい。
シルヴァ提督がランドルフ帝国に立ち寄った
際、物は試しにと提案したらしいのですが。
交渉の末に通ったとの事で……
事後承諾になるが、人員を送って欲しいとの
事です!」
そこで彼女は片足を組んで座っていた
姿勢を崩し、
「せっかく見せてくれるってんだ。
行かない手は無いねぇ。
このアタシ自ら出向くとするか」
「じょ、女帝イヴレット様がですか!?
そ、それはさすがに……!」
その言葉に部下が驚いて反発するも、
「だって最近さあ。
奴隷売買、上手く行ってねーんだろ?
お得意先がどう変わったのか、この目で見て
確かめてみねぇとな。
ドラセナ連邦のトップとして、さ」
文字通り、連邦の最高権力者である彼女の
言葉に、それ以上表立って反論する者は
誰もおらず―――
彼女を中心として、使節団一行が組まれる
運びとなった。
「え? ドラセナ連邦の女帝が来る?」
私がその事を聞いたのは、帝国内の大使館で
ウィンベル王国および連合各国の参加人員を
受け入れるための、手伝いをしている時だった。
「ああ。王宮に出入りしている商人が口を
すべらせてな。
後で正式に通達が来るだろうが」
『ゲート』で同じようにランドルフ帝国に
やって来たライさんが、一緒に荷物を運びながら
語る。
「何人くらいで来るんでしょうか」
「それがよ、文官・武官合わせて20名ほど
らしい。
よっぽどキモが座っているんだな、その女」
戦争するのではないにしろ……
護衛を含めてその人数は、確かに心もとない
だろう。
「まあお前さんの言う通りになったわけだが。
せいぜい、その女帝を驚かせてやろうや」
「そうですね。
海上とはいえ、こちらの戦力をほぼ見せる
わけですから」
実際、軍事演習に参加するのはウィンベル王国を
始めとした連合各国。
人種は人間を始め―――
船上は獣人、魔狼、羽狐、鬼人族、
海中はラミア族、人魚族、ロック・タートル、
空はドラゴンにワイバーン、魔族、ハーピー、
そして天人族と白翼族も代表を寄越していた。
ちなみにフェンリルのルクレセントさんと
グリフォンのミマームさんは、本国の許可が
下りなかったので不参加であるとの事。
「スクリューは人力式にして何とかなったし、
あとはあの最終兵器ゴーレムがどれだけ
度肝を抜くかだな」
前国王の兄・ライさんが言う通り、
今回向こうの大陸からやって来る船は、
手動スクリュー方式となっている。
帆を張らず、風魔法無しでも動ける動力。
人力とは言っているが、それを動かすのは
身体能力に優れた獣人で、しかも身体強化も
つくのだ。
速度は恐らく、ティエラ王女様の風魔法による
船の速度に、やや劣るくらいだろう。
そして最終兵器レムちゃんは……
改良に改良を重ね、通し番号で28号と呼ばれる
レムちゃん用武装ゴーレムが完成したそうで、
多分全部そちらに話題は持っていかれるん
だろうなあ―――
と思っているとライさんが、
「そういや、公都で例の花が咲き始めたぞ。
ほれ、天人族からもらったとかいう」
「あ、桜ですか。
あれが満開になると見事なんですよね。
私の世界では『花見』と言いまして、
その下でお酒を飲むのが風流とされています」
それを聞いたギルド本部長はニッ、と笑い、
「そりゃあいいな!
今回の合同軍事演習が終わったら、それで
一杯やろう。
おーし、楽しみが出来たぜ!」
そして私たちは準備に勤しみ……
『その日』を迎える事になった。
「編隊で飛行しているぞ!
あれがワイバーン部隊か!」
「ハーピーに有翼族―――
いや、ただの人間らしき者まで飛んでいる!」
ランドルフ帝国と、辺境大陸の各国連合との
合同軍事演習当日。
南方のドラセナ連邦始め、大陸クアートルの
北側の国・大ライラック国、
東側の国・モンステラ聖皇国……
そして帝国の属領の主だった者を集めて、
その軍事力を思う存分披露していた。
演習そのものは、相互敵対という想定ではなく、
共同で標的となった船や対象にそれぞれ攻撃を
仕掛けるというもので、
「海面にも何かいる……!?
あれがラミア族と人魚族―――」
「巨大な亀の魔物までいるぞ!」
「あの船上にいるのは何だ?
まさか、あれが噂に聞く魔狼ライダーか!」
海上戦力のみが水上で最強だと思われていた
この世界で、海中や航空戦力を初めて見た面々は
衝撃を受け……
次々と驚きの言葉を口にしていた。
「さて……新兵器のお披露目といくか」
周囲の軍人たちとは異なり、白衣を着こんだ
緑の短髪をした三十代後半の男―――
アルトル・ムラトは眼鏡をクイ、と直し、
「上空へ向け新型対空飛翔体、発射。
及び海中へ対水中魔導爆弾、投下」
「対空飛翔体、発射!!」
「対水中魔導爆弾、投下!!」
彼の乗っている船から、十発ほどのロケット弾の
ようなものが上空へ向かい、
同時に船の両側から、海中に樽のような物体が
次々と投げ込まれた。
それを海岸の観戦席から見ていた各国の
使者たちは、
「あれが飛翔体か。
対空能力もすさまじい」
「しかし、海に投げ入れたのは何なのだ?」
空へ煙の尾を引いて上がっていく飛翔体に比べ、
海中に没したそれは当然視界に入らず、
その効果のほどを窺っていると、
「うわっ!?」
「海の中から水柱が―――」
「す、水中で爆発する魔導爆弾だと!?」
高さ十メートルになろうかという水柱は、
爆音と同時に観客たちの目にもその威力を
焼き付け、
「対空・対水中能力まであるという事か」
「ランドルフ帝国の技術がここまでとは」
「しかも水中戦力のある同盟国までいる。
戦うとしたら、攻守ともに厄介な相手に
なるぞ、これは」
各国はそれなりの技術者や軍事知識のある
人間を送り込んで来ている。
その彼らから見ても、今までの認識を超えた
脅威である事を、認めざるを得なかった。
「さてさて……
お膳立ては終わりました。
あとは主役にお任せしましょうか」
アストルは自分に与えられた別の区画に
浮いている、目標物となる船団に目をやる。
「あれは―――
我が帝国でも無理でしょうか?」
部下が上司である彼に問うと、
「無理だねえ。
スクリュー技術とやらは何とかなると
思うけど……
操縦者ともども、帝国―――
いや、クアートル大陸のどの国でも
再現は不可能だよ」
呆れと悔しさ、半々の感情でムラトは、
その海上を見つめていた。
「終わったのか?」
「いや、まだ残っている船があるが……」
観戦席がざわつき始め、まだ船が浮かんでいる
一区画に視線が集まると、
「!?」
「何だ!?」
「水中から何か飛び出したぞ!?」
私は同じ観客席から、その光景を見ていた。
「おー、アレが」
「レムちゃん用新型武装ゴーレム―――
『レムちゃん28号』じゃな」
「ピュイッ」
海中から飛び出し、あまつさえホバリングの
ように空中に浮かんでいる。
『レムちゃん28号』……
パック夫妻がその心血を注いで作った、
ゴーレムのレムちゃん専用の人型ロボット兵器
である。
そして巨大な腕を横回転させるようにして、
その場で各目標船にガトリングのような
連射攻撃を行い、
「な、何なのだアレは……」
「水中から飛び出し―――
空中で海上目標を攻撃、だと?」
「これは陸海空、水中……
どこに所属する戦力と言えばいいのだ?」
半ば放心気味に、観戦していた使者たちは
その光景を見つめる。
空を飛べるのだから、当然地形制限は受けない。
陸上に対する攻撃も可能だ。
そしてパイロットはゴーレムなので、
呼吸などの制限は受けない。
その気になれば、二日でも三日でも潜り続けて
いる事が出来る。
地球の兵器で言えば、ハープーンミサイルが
一番近いか。
しかしあれも海中発射から海上もしくは
陸上の―――
予めインプットされた目標に向かうだけに
過ぎず、
海上から空中へと場所を移した後、自律して
自由攻撃を行うのは、こちらの世界だけでなく
あちらでも、反則とも呼べる性能だった。
また、ランドルフ帝国では想定通り、
水中への攻撃……
いわゆる爆雷を開発したが、
それも、水中に何か対象がいる、という
確証が持てなければ使えない。
(すでに水中用の魔力感知器を作っているかも
知れないけど)
また水中を自由移動する対象に、質より量で
対抗するという、ある意味合理的な方針では
あるが、
それとて無限というわけでも無いので、
一方的なアドバンテージとはならないだろう。
「おーい、あそこは?」
そこでいかにもな女海賊といった服装の女性が、
ある方向を指差す。
確かこの人がドラセナ連邦の女帝―――
イヴレット様とか言っていたっけ。
さすがに一国のトップなので、それなりの
貴賓席が設けられ、同等の身分の人間が
集められた場所におり、
ここから少し離れているが、その声は
海風をものともせず良く聞こえた。
隣りにいた、接待兼世話役のティエラ王女様が、
やや焦りながら書類をめくり、
「えっと、あそこは攻撃対象の船の予備を
集めておいている場所です。
今回の演習は終了ですので、もう必要は
ありませんが……」
パープルの長髪を眉毛の上で揃えた王女は、
書類と彼女の間を視線を行ったり来たりさせて
説明する。
「ほー、じゃあ。
あれ、ちょっと余興で使いたいんだけど
構わないか?
いい物見せてもらったお礼になぁ♪」
「は、はあ。
それは構いませんけれど」
ティエラ王女様の答えを聞いた彼女は
立ち上がると、その右手を頭上に掲げ、
「……ん?」
「何だ?」
「急に空模様が」
見ると、先ほど女帝イヴレット様が指差した
海上……
その上にいつの間にか、黒い雲が
集まり出していた。
そしてそこだけ局地的に雨が降り始め、
その雨を降らせている雲が連続的な
光を放ち始めた。
「(各国の使者が集まっているのなら、
ちょうどいい。
ここで1つ―――
ドラセナ連邦の怖さってのも知って
もらわないとねぇ)」
ドラセナ連邦に……
『一人の軍隊』、
ロッソ・アルヘン帝国武力省将軍や、
『星を降らせる者』、
メリッサ・ロンバート魔戦団総司令のように、
『二つ名』のついている人物はいない。
事実、ドラセナ連邦にはそれだけの強力な
魔法を使う使い手がいないという事。
しかし、最高権力者である彼女だけは例外で、
海賊を前身とする連邦は、実力でトップを決める
『掟』となっており、
最高実力者にして戦力である彼女は、
『雷嵐を呼び起こす者』
という『二つ名』があった。
だがこれは、いわばドラセナ連邦の『切り札』
でもあり、厳重に情報が秘匿されていたのだが、
海賊の『舐められたら終わり』という性質が、
この合同軍事演習への対抗心を燃え上がらせ、
実行に移させてしまっていた。
「あれ、雷雲?」
「魔力を感じるが……
まさか、あの者が発動させておるのか?」
「ピュウ~?」
メルとアルテリーゼが、女帝イヴレット様の方へ
振り向き、
「いやちょっとマズくないか?
海中にいるラミア族や人魚族って、
全員上がっているのか?」
私の言葉に、妻二人が『あちゃー』という
表情になる。
このまま雷魔法が発動したら―――
もし海中にまだ誰かいたのなら、ただでは
済まないだろう。
私は思わず、その女帝イヴレット様の元へ
駆け出した。
「すいません! 通してください!!」
「シン殿!?」
幸い、ティエラ王女様が気付いてくれたようで、
警備兵に命じて通してくれ、
「女帝イヴレット様!
あの雷雲、貴女の魔法ですか?
まだ海中にラミア族か人魚族がいるかも
知れませんので、中断してください!」
「ええっ!?」
私の言葉に王女様が驚くが、当の本人は
涼しい顔で、
「あぁ?
そりゃお気の毒に。
でもアタシ、ちゃーんと許可取ったよ?
ちゃーんと。
『構いませんけれど』って、この王族に
言われたんだから」
女帝は意地悪そうに笑い……
対照的にティエラ王女様は顔を青ざめさせる。
「第一、アンタこそ誰よ。
このドラセナ連邦の女帝であるアタシに
指図するなんて」
「こ、この方はウィンベル王国所属の冒険者、
シン殿です。
今回の合同軍事演習の特別顧問で―――」
そういえばそんな肩書をもらっていたっけ。
しかし、そうしている間にも、雷雲は今にも
雷を落としそうで、
仕方なく私はティエラ王女様を手招きで呼び、
それで察した彼女はさりげなく私と女帝
イヴレット様の間に移動する。
そして私は小声でティエラ王女様を盾に
するようにして、魔法の主である彼女に
向かい、
「雷雲を呼ぶような……
そして任意に発生・発動させるような
魔法など、
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、先ほどまでゴロゴロと
鳴っていた雷雲が消え去り、
「へ?」
女帝イヴレット様もそれを自分の目で
確認したのか、間の抜けた声を上げ、
「魔法の中断を聞き入れてくださり、
感謝いたします。
海中・海上の安全確認が取れ次第、
余興をして頂きますので、それまで少々
お待ちください」
私が能力を使った事をティエラ王女様が
わかったのか、女帝に向かって頭を下げる。
そしてすぐに、合同軍事演習に参加した者たちの
人数・帰還確認が行われ、
全員の引き上げが報告されると同時に、私は
女帝イヴレット様の能力を元に戻し、その場を
後にした。