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#幻想郷入り物語
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コメント
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はー、なるほど。カレンが「こんなことしなくても行ったのに」って言葉、すごく良かったですね。あの場にいた全員が固まったのも納得です。彼女の中で確かに変化が起きている——それがアルビスにも周囲にも伝わった瞬間だなあと。そして最後のタピオカ! 元の世界の単語が聖皇帝の口から出てくる衝撃、カレンの二度見する気持ちがよくわかります。この先どうなるのか、すごく気になりますね。
リュリュを先頭に、カレンはアルビスの待つ食堂に向かっている。
不本意ではあるが厨房に寄って、アルビスのプティングも新しく用意した。どうしてもアルビスに食べてほしいからじゃない。単なる義務感からそうしただけ。
でもトレーに乗せた新しいプティングには、前のやつとは違いフルーツが添えられている。
「……あまりものを乗せただけだから、それだけだもん……」
言い訳みたいに呟くカレンは、自らそれを運んでいる。これだって、別に他意はない。
さすがに二度も顔にプティングをぶちまけられたら、アルビスがキレると思ってのことだ。
一方、アオイは「ん~ふふ~んっ」と、鼻歌が聞こえてきそうなほど足取りが軽い。
傍から見れば、使用人のようにトレーを持つ本妻と、手ぶらでウキウキあるく側室の姿は異様なのだろう。
すれ違うメイドたちは、カレンたちに深く腰を折るが、「ん?」という表情を隠せずにいる。
それを気にしたら負けだと自分に言い聞かせ、カレンはリュリュの背中に視線を固定して歩き続けた。
たくさんの角を曲がって到着した食堂は、中に入る前から重苦しい空気が伝わってくる。
すぐに扉を開けようとするリュリュを止めて、カレンはトレーを持ったまま深呼吸をする。
「……ってか、なんで私が緊張しなくちゃいけないの?」
「僕の代わりにしてくれてるんじゃない?」
「違うけど、そういうことにしとく。ってことで、リュリュさんお願いします」
「かしこまりました」
カレンに一礼したリュリュは、うやうやしく扉を開ける。
最初に視界に入ったのは、皇族専用の食堂に相応しい長テーブルと小ぶりのシャンデリア。次に窓辺に立つアルビスと、いつもの側近二人。
ここまでは想定の範囲内だったのだが、他にも使用人が数人いて、カレンは目を丸くする。
「っ……!こ、これは……どういうこと??」
「来てくれて感謝する」
戸惑うカレンを余所に、窓辺に立っていたアルビスは、大股でカレンの元に向かってくる。
数日ぶりに会ったアルビスは、プティングまみれになったとは思えないほど、相変わらず美しい。
「こちらに座ってもらえるか?」
アルビスはカレンの目の前に来ることはせず、豪奢な長テーブルの真ん中で足を止めると椅子を引いた。
そこには、ランチョンマットとデザートスプーンが用意されている。
「え……?なんで──……ちょ、ちょっと!アオイ」
状況が飲み込めず戸惑うカレンの背を、アオイはグイグイ押す。そして強引に、アルビスが示した席に着席させた。
「何?なんなの??」
キョロキョロするカレンの視界に、一列に整列した使用人が映り込む。
彼らは総じて顔色が白く、かなりの緊張を強いられているのがわかった。
それと、もう一つわかったことがある。
ちっとも怒っていないアルビスと、わざわざ用意された席。加えて、達成感に満ちたアオイの表情。それらを総合すると──
「……アオイ、私のこと嵌めたね?」
ギロリと睨んで問い詰めれば、アオイは素早くリュリュの後ろに隠れた。だが、選んだ相手が悪かった。
リュリュは無情にもアオイの首根っこを掴んで、カレンの元に連行する。
逃げ猫のように捕まえられたアオイは、観念したのかシュンとして俯いている。
「ねえ、アオイ。こういう時、なんて言うの?」
カレンが覗き込みながら問いかければ、アオイはおずおずと口を開いた。
「……ごめん……なさい……」
「ん、いい子」
怒りが消えたカレンは、苦笑しながらアオイの頭に手を伸ばす。
ふわふわの綿毛のような髪をわしゃわしゃ撫でながら、思ったままを口に出す。
「こんなことしなくても、行ったのに。私」
アルビスのことを許すことも、本当の夫婦のように仲睦まじくすることもできない。
でも以前とは違い、用事があるなら、そこに出向くことはやぶさかではなくなった。
このカレンの心境の変化は、とても大きい。しかし当の本人は、僅かな変化だと思っている。
「それで、ここに呼びつけたのは何?」
アオイの頭から手を離して、アルビスに尋ねたけれど、彼から返事はなかった。
信じられないといった感じで、カレンを凝視したまま固まっている。
不思議に思ったカレンは辺りを見渡すが、更に首を傾げることになった。
硬直していたのは、アルビスだけじゃなかったのだ。
リュリュも、シダナも、ヴァーリも、アオイさえ、カレンを見つめたまま言葉を失っている。
「何?……ど、どうしたの??」
居心地悪さを感じたカレンに、最初に声をかけたのはヴァーリだった。
「やべぇ、カレン様の発言で明日は雪が降るかも──っ痛!」
あ゛?と、カレンが凄もうとする前に、ガンッ!という音がしたと共に、ヴァーリが頭と脛を押さえて蹲った。
彼の足元には小さな花瓶が転がっているから、それが頭に当たったのだろう。
それと、蹲るヴァーリの隣にいるシダナが、さりげなく足の位置を戻しているから、脛を蹴った犯人は間違いなく彼だ。
そんな推測を立てたカレンだが、見て見ぬふりをして、もう一度アルビスに声をかける。
「で、用ってなんなの?」
二度目の問いでやっと我に返ったアルビスは、視線を使用人に向けた。
すぐに使用人の一人が、すごすごと銀色の丸い蓋──クローシュが乗ったトレーを運んでくる。
なんだか高級レストランみたいだなぁーと、カレンは庶民的な感想を持ちつつ、使用人がクローシュを開けるのをじっと待つ。
ガチガチに緊張した使用人がクローシュを持ち上げると、繊細なデザインのガラス食器が出てきた。
物音立てずに、それがカレンの目の前に置かれる。ガラス食器には、何やらデロンとした半透明の物体が盛り付けてあった。
「なに……これ……?」
興味半分、不気味さ半分で、カレンはアルビスに問いかける。
「これは……」
一度言葉を止めたアルビスは、コホンと小さく咳払いをして、こう言った。
「タピオカだ」
「っ……!?」
元の世界の単語が異世界の聖皇帝の口から紡がれ、カレンは驚いて、驚きすぎて、アルビスを二度見した。