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「……流石、私の娘だ」
スラリと高い背に銀色の長髪。
その手には、氷の盾と氷の剣――冷気をまとい、周囲の空気さえ凍りつかせる。
グリード代表の騎士にして【神の使徒】。
伝説の勇者の血を継ぎ、そして何より――ユキの父。
____キールは【目撃護】を発動し、娘を包み込むように守っていた。
「え……」
ユキはただ呆然と見上げる。
「邪魔だ、タナトス……私の娘に近づくな」
「フシャァァァ!?」
タナトスの鋭い尻尾を、キールは片手で掴むと一瞬で凍り、無造作に振り回して投げ捨てた。
「え、えと……」
その視界をふいに遮るように、ルコサが笑顔で割り込んでくる。
「やっ、久しぶり未来の救世主」
「あ……あの時の……」
「覚えててくれたんだね。おー、直接結界を張ってるとは驚いた。変わるよ」
「え、あ、はいです」
ルコサがユキの代わりに魔法陣へ魔力を注ぐ。
透明だったドームは青白く輝きを増し、密度が一気に濃くなっていった。
「す、すごい……です、その……えと」
「ん? なんだい?」
「お礼は……またパンツですか……?」
その瞬間、空気が一変した。
氷の花が音もなく咲き、周囲の地面が瞬く間に凍りつく。
「ちょ!? キーくんストップストップ! 違うから! もらってないから!」
「……お前が変態なのは知っている。だが――私の娘に手をかけたとなれば……殺す」
「ひいぃい!」
「ユ……キは……」
「ユキ!」
緊張感の糸が切れたように、ユキはふらりと崩れ落ちる。
キールは素早く支え、片腕で抱きかかえた。
「これを……飲め」
キールはピンク色の液体の玉をユキの唇に流し込む。
魔法でコーティングされた表面は唾液で溶け、中から激しい甘味を放つ液が広がる。
「……ん……」
喉を通った瞬間、ユキの体温が上がり、全身を熱が駆け巡る。
「……はぁ……はぁ……」
「すぐ楽になる。少し休め」
「さて、と……じゃあクロ、オリバ。あの白髪の子の援護を頼むよ」
「はいよ。可愛い後輩と共闘ってやつだな」
「あいつ……昔、俺に喧嘩売ってきた奴か」
「はっ、男はそれくらい負けん気がねぇとダメなんだよ」
「フッ……」
「それと――タナトスは一体だけ生かしておいて」
「安心しろ、皆殺しにしてやる」
「いやいや、だからダメなんだって!」
言い合いながらも、2人はジュンパクの元へ走り、援護に入っていった。
「ユキ……」
キールの腕の中で、徐々に顔色が戻っていくユキ。
「もう安心だ。魔力のほとんどを使い切っていた……これは命を削って結界を張っていたのと同じだ」
「責任感が強いのは親譲りだな」
「それって君の事?それとも――」
「……どっちもだ」
結界内のタナトスをおおよそ狩り尽くしたころ、ユキがゆっくりと目を開ける。
「っ! 寝ちゃった!です!」
「おはよう〜」
「ユキ……ユキ!」
キールは思わず娘を強く抱きしめた。
「な、何です!? 変態さんです!?」
「ユキ、私だ!」
「……あ、あの時のおじさん!? 離れるです!」
「お……おじさん……」
「ぷっ……」
「……」
「ち、ちょ!? キーくん!? 俺の体温下げるのやめて!?」
キールは落ち着いてユキの両肩に手を置いて真っ直ぐに目を見て話す。
「今はまだ、信じなくていい……だけど、君には力がある」
「力……です?」
「そうだ、君の中にはまだ眠っている【伝説の勇者】の魂がある、それを今引き出すんだ」
「む、難しい事はユキには解らないです……」
目を逸らすユキにキールは柔らかい笑顔で頭を撫でた。
「ふにゅ」
「難しく考えなくていい、誰かを護る、誰かの為に戦う、誰かを思う……その想いを力にするんだ」
「誰かを……」
ユキは目を閉じて思い出す……
モグリ邸のみんな。
自分に戦いを教えてくれたリュウト達。
初めて恋をする程カッコよくて好きになったヒロユキ。
小さい頃から育ててくれたミロク。
そして……将来の目標になったアオイ。
________ユキの周りの気温が高くなりだした。
「フッ……」
確信したキールはユキから離れルコサの隣に行く。
「成功したみたいだね」
「元々素質は十分備えていた、後は背中を押してやるだけだ」
「ふふっ、さて、と、クロ〜オリバ〜そのヘロヘロな子連れて来て〜」
ルコサの声は決して大きくないが2人はそれを聞いてジュンパクを気絶させて持ってくる。
「コイツはどうする?」
「あー、他の人と同じで休ませておいて?ここまで来ると何があるか分からないから」
「あいよっと」
これでアカネ、あーたん、ジュンパク、アンナは強制的に【限界突破】を解除された状態で意識を失う。
「残りは5体……」
オリバルのその数字はこの結界の中に居るタナトスの数。
タナトス達は一斉に此方に走って来ている。
ユキは目を閉じたまま言う。
「ユキは、みんなを……護る為に戦うです」
ユキを取り囲むように炎が舞い上がり包む……そして__
「____【武器召喚】」
炎から出てきたユキの両手には真っ赤に燃える2本の剣が握られていた。