TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「おーい日下部ー、ちょっと来て」

放課後、席を立つ生徒がまばらな中で、蓮司の声が教室に響いた。

教壇に立った蓮司は、無邪気な笑みを浮かべて日下部を手招きする。


日下部は無視する。


「来いって。ちょっとだけでいいから。──な?」


その声が妙に通る。教室の残り少ない空気を、全部蓮司が握っていた。

周囲の視線が、じわじわと日下部に集まる。


日下部は舌打ちを飲み込んで、前に出る。

教壇の段差を上がる瞬間、その足元に蓮司の手が伸びた。


──パン、と音を立てて、軽く尻を叩く。


「……なにしてんだ、おまえ」


「え? ノリじゃん。怒るなよ〜、かわいいな」


笑いが起きる。気まずさではなく、“盛り上がる場”のように。


「なあ、みんな知ってた? こいつさ──」


蓮司は教壇から背後のクラスに向けて、堂々と声を上げる。


「遥のこと、ずっと気にしてんの。目で追ってんの、バレバレ」


「本人は“無関心装ってます”みたいなツラだけど、内心じゃぐっちゃぐちゃ」


「なあ?」


蓮司が日下部の肩に手を置く。ぐっと力をかけ、軽く揺さぶる。


「おまえ、好きなの? 遥のこと」


笑ってる。軽く。砕けた声で。

だがその手の位置と声の大きさは、“見せ物”を作ることに長けていた。


日下部は黙っていた。

答えないのが最も正しい選択だと知っていたから。


けれど、蓮司はそれを許さない。


「黙るってことは──図星か?」


クラスに、笑いとざわめきが広がる。

無言の羞恥が、日下部の皮膚を内側から剥がしていく。


(やめろ……)


遥は、座ったまま、その光景を見ていた。


──目が合った。


一瞬だけ。


でも日下部は、遥から目を逸らした。


(……まただ)


(また、俺は……)


蓮司がさらに言葉を重ねる。


「てか、遥の方も気づいてるよな? こういうの」


「鈍そうで、あいつ意外と察しがいいし」


そのとき、遥がわずかに動いた。

立ち上がるかに見えたが、机に手を置いたまま、踏みとどまった。


その震える手に、誰も気づかない。

蓮司は、振り返って遥を見やる。


「なあ、遥──おまえ、どう思う?」


「こいつ、おまえのこと“そういう目”で見てたら……さ」


「気持ち悪い?」


一瞬、空気が凍る。


その言葉を、遥は胸で受け止めた。

日下部の顔を見ることができなかった。


蓮司は笑う。


「ま、俺は好きだけどね? こういう湿った三角関係」


「壊れてんの、悪くないし」


その言葉を最後に、蓮司は軽い足取りで教壇を降りた。

教室の空気は微妙な笑いと、沈黙と、見て見ぬふりで塗り固められていく。



この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚