──翌月の朝早くに、車で父の眠る墓苑へ向かった。
途中で花屋に寄って、大輪のカサブランカを選んで弔い用の花束にしてもらった。
──海を臨む丘陵に立つ墓標の前で、
「……父は、喜んでくれるはずです……」
白い百合の花束を供えて、静かに彼女へ告げた。
「私のことを、お父様が気に入ってくれたらいいんですけど……」
心もとなく返す彼女の手を取って握り、
「……もし父がいたら、きっとあなたを気に入って、『いい人だね…』と笑いかけてくれるんじゃないかと……」
あの人ならそんな風にも優しく笑って言うのではと思いながら、微笑みを返した。
……墓石に刻まれた、亡き父の名前をじっと見つめて、
「本当は父が生きていた時に、あなたのことを伝えたかったですね…」
呟いて、握った彼女の手にぎゅっと強く力を込めた。
「……先生、泣いていて…?」
私が父を偲んで泣いているのではと気遣って、顔を覗き込む彼女の頭に、
「……泣いてはいないですから」
手の平をそっと乗せる。
「私は、あなたが共にいてくれるのなら、もう泣くことなどは……」
そこまで言いかけて、
「違いますね…」
そうではないと思い直して、首をゆっくりと左右に振ると、彼女の両肩をつかんで向き直った──。
「……あなたがいてくれるから、泣くことがないのではなく……」
真正面からその瞳を見つめて、
「……そばにいてあなたを守るために、泣いてなどいられないのだと」
一途な愛情を言葉にして彼女へ伝えた。
「……嬉しいです」
彼女の頬をつたった涙の跡を、親指でそっと拭い去ると、
「……もう私は、君を泣かせるようなことなどはないと、父の前で誓うので……」
自身に柔らかな表情が自然と浮かび、ふっと穏やかな笑みがこぼれたのが知れた……。
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