テラーノベル
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街灯がまばらな夜道、静寂を破るように規則正しい足音が近づいてくる。向こうから歩いてくるのは、見覚えのある同じ大学の曽野くんだ。オレンジ色の街灯に照らされた彼の横顔は、彫刻のように整っていて、思わず目を奪われる。「あ、曽野くんだ」と気づいた瞬間、彼もこちらに気づいたのか、ふわりと花が咲くような、いつもの優しい笑みを浮かべた。
「こんばんは。奇遇やなぁ 」
至近距離ですれ違う瞬間、彼が親愛の情を込めるように一歩踏み込んでくる。爽やかなシトラスの香りが鼻をくすぐり、不意の接近に鼓動が跳ねた。……けれど、次の瞬間。
熱い。
お腹のあたりに、焼けるような、それでいて鋭利な衝撃が走った。
「え……?」
視線を落とすと、自分の白いシャツが急速に赤黒く染まっていくのが見えた。そこには、彼の手によって深々と突き立てられたナイフ の柄がある。信じられない思いで顔を上げると、彼はナイフを握ったまま、大学のラウンジで談笑している時と全く変わらない、一点の曇りもない笑顔でこちらを見つめていた。
「……あはは、そんなに驚かなくてもええのに。せっかく綺麗に刺してあげたんやから」
彼はナイフを引き抜くこともせず、むしろ愛おしそうにゆっくりと、さらに深く押し込んだ。あなたの体が苦痛で折れそうになるのを、彼はもう片方の手で優しく、まるでお姫様を抱き留めるように支える。
「……痛いやんなぁ?辛いやんなぁ?ごめんなぁ、こんなに深く刺すつもりあらへんかったんよ。本当にごめんなぁ。……君がこんなに苦しんでるのを見るの、俺だって本当はすごく辛いんよ?痛いの痛いのとんでいけ。もうすぐ、楽になれるからな。」
今にも泣き出しそうな顔で私の頭を愛おしそうに撫でる彼の中では「苦痛を与えていることへの喜び」と「私を心から心配していること」が嘘偽りなく同立している様だった。
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大学のキャンパスは、いつも通りの喧騒に包まれていた。
講義開始前の騒がしい教室。彼はは窓際の席に座り、友人たちと談笑している。その姿は、昨夜の路地裏でナイフを握っていた男とは到底結びつかないほど、爽やかで、どこまでも明るいオーラを纏っていた。
「あ、おはよう!今日の講義、課題出てたっけ?」
隣の席の友人に屈託のない笑顔を向ける。彼の声は澄んでいて、昨夜の雨の匂いも、鉄錆のような血の香りも一切残っていない。
そこへ、一人の学生が慌てた様子で駆け込んできた。
「ねえ、聞いた!? 同じ学部のあの子、一週間前から連絡がつかないんだって。家族が警察に相談してるらしくて……」
教室が一気にざわつき始める。不安げな表情を浮かべる友人たち。
そんな中、彼はゆっくりと顔を上げると、驚いたように目を見開き、誰よりも先に、そして誰よりも「もっともらしい」悲しみの表情を作ってみせた。
「えっ、本当……? 嘘でしょ、前会った時まではあんなに元気そうだったのに」
彼は唇を噛み締め、信じられないという風に小さく首を振る。その瞳には、今にも零れ落ちそうなほどの「心配」が宿っているように見えた。
「……何か事件に巻き込まれたのかな。心配だね。あ、みんなで心当たりを探してみない?」
彼は自ら提案し、周囲の連帯感を高めていく。その場にいる全員が、彼のことを「仲間想いの優しいリーダー」だと改めて確信した瞬間だった。
けれど、彼は知っている。
あなたのスマートフォンが、今どこで、どんな無残な姿で壊されているか。
そして、あなたが今、誰の手の届かない場所に「保管」されているか。
ふとした瞬間に窓の外を眺めた彼の口角が、ほんの数ミリだけ、満足げに跳ね上がる。
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Xのポストを参考に書きました。殺人鬼役本当に似合いそうなのでオファー来てほしいですね