テラーノベル
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あちらの方から家庭教師のヴァレンティナ・モレッティも来て、さらにキャーキャーと盛り上がっている様子だ。
リリアンナの表情は穏やかで、どこか晴れやかですらある。
王城での役目もひと段落ついたのだろう――彼女は、そう信じて疑っていない様子だった。
(……それでいい)
彼は、胸の内で短くそう呟く。
真実を告げるつもりはなかった。あの夜、王城ではなく花街へと呼び出されたことも、その裏で何が動いていたのかも。 少なくとも、今のリリアンナに知らされるべきことではない。
ランディリックが見つめる先、やや遅れてペイン男爵家の家紋を付けた馬車が、グランセール駅近くの空きスペースへ滑り込んできた。
馬車から降りるなりセレン・アルディス・ノアール――ことセレノ・アルヴェイン・ノルディール皇太子とともにランディリックの方へ近づいてきたウィリアム・リー・ペインが、手を挙げる。
「……遅くなった」
そう言って、ウィリアムは軽く肩をすくめた。
「出がけにちょっとトラブルがあって……」
そのすぐ後ろに、セレン・アルディス・ノアール――今この場では、ノアール侯爵家の名を名乗る青年が続く。
「まさか……」
「うん、そう。そのまさか……」
忌々し気に吐息を落としたランディリックに、ウィリアムも同様に吐息まじりに答え、セレンが申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「で、彼女は……」
「仕立て屋を呼んで、服の採寸をさせるって言ったらご機嫌で見送ってくれたよ」
要するに賄賂で買収したということだろう。
まぁ、ついてくるとごねられ続けても面倒だし、少々の出費で済むなら安いものだと思えた。
「請求はあとで僕の方に回して?」
ランディリックが言うと、「一応ランディの養女だもんね」とウィリアムが意地悪気に微笑んだ。
「やめてくれ」
ランディリックの心底嫌そうな声音に、セレンが「僕のせいで本当に申し訳ありません」としゅんとした。
「貴公のせいではありませんよ」
実際、彼の濡れ衣は張らせたのにそれをしなかったのはランディリックの独断だ。
(いずれあの女が僕の役に立つ。それを見越しての投資だからね)
そんなことを思っているだなんて表にはおくびも出さず、ランディリックはセレンをねぎらった。
***
会話がひと段落したところで、ウィリアムはふと視線を巡らせた。
「……リリアンナ嬢は?」
「ナディエルやクラリーチェ女史と一緒だ」
そう答えながら、ランディリックは視線で彼女らのいる方を示す。
少し離れた場所で、リリアンナがクラリーチェやナディエルと何やら楽しげに話し込んでいるのが見えた。
汽車に乗り込む前の、ほんの束の間の時間。
それでもリリアンナの表情は柔らかく、王都で抱えていた緊張の影は、もう見当たらない。
コメント
2件
ダフネ、相変わらずだね。
これからどうなるのかなぁ