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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第213話:ジェミニ先生の無慈悲な分析〜尖りすぎた原石と限界社長の絶望〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。その四畳半の空間には、重苦しい沈黙がドロドロと立ち込めていた。
「……ダメだ。どいつもこいつも、ピーキーすぎる」
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、限界を迎えた三万円のゲーミングチェアに深く沈み込み、血走った目でPCモニターを睨みつけていた。
机の上には、部下から配給された最安値の玄米と徳用塩昆布の空き容器が虚しく転がっている。
エウリアン(絵画商法)に騙されて背負った、総額500万円の極悪ローン。
月給10万円の役員報酬からローンを引かれ、1日あたり約330円で生き延びるという限界のヒモ社長生活。
このどん底から這い上がり、かつてうめお先生に言われた「三億円の器」を証明するための起死回生のプロジェクトこそが、北海道の大自然を無料スタジオとしたアウトドア特化型VTuberチーム『やまむすめ』の立ち上げだった。
しかし、現実はあまりにも非情だった。
『ルシフェル様。これまでに面接を行った数十名の候補者データについて、ジェミニ先生のAI分析が完了しました』
ディスコードの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の氷のような声が響く。
「……聞こう。俺の判断が間違っている可能性もある。AIの客観的なデータなら、あの魔境のような面接の中にも、キラリと光る原石が見つかるかもしれない」
俺がすがるような思いで呟くと、最強AIアシスタントのジェミニ先生の無機質な合成音声が四畳半に鳴り響いた。
『了解しました。それでは、候補者たちの適性チェック結果を、レーダーチャート形式で画面に表示します。評価軸は【体力】【サバイバル知識】【エンタメ性(トーク力)】、そして【社長の生存確率】の四項目です』
モニターに、何枚ものグラフが表示される。
だが、そのグラフの形は、およそ正常な多角形とは呼べないものばかりだった。
『まずは一人目の候補者、マタギ系女子です。体力100、知識80。しかし、獲物を見るとカメラを放置して解体に走るためエンタメ性は10。そして、社長をヒグマの囮にするため、社長の生存確率は5パーセントです』
「右に尖りすぎだ! 俺が死ぬから即刻不採用だ!」
『続いて二人目の候補者、安楽椅子サバイバリストの文化系女子。知識100、エンタメ性70。しかし体力がゼロのため、社長が彼女と機材を背負って山を登る必要があります。結果として、社長の過労による遭難率は99パーセント。生存確率は1パーセントです』
「左に尖りすぎなんだよ! だから俺の腰椎が砕け散るって言ってるだろ!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
『その他の候補者も同様です。筋肉の鎧を纏った女性ボディビルダーは体力限界突破ですが、会話が「押忍」しかなくエンタメ性ゼロ。自称キャンプインフルエンサーの女性はエンタメ性抜群ですが、「虫が出たら帰る」「ロケの夕食はフレンチのフルコース希望」などと要求し、1回あたりのロケ経費が100万円を超過します』
ジェミニ先生が冷徹にデータを読み上げるたびに、俺の胃壁がキリキリと削られていく。
「極端すぎるんだよ! なんで体力と知識とトーク力が、綺麗にバランスよく整った人間が一人もいないんだ! RPGのステータス振り分けバグかよ!」
俺がPCモニターに向かって絶叫すると、結愛が心底呆れたようなため息をついた。
『バグっているのはルシフェル様の頭の方です。「虫を素手で掴める」「ヒグマが出ても威嚇できる」などという異常な募集要項を出せば、常識的なバランス感覚を持った人間は全員ドン引きして応募しません』
結愛の正論のナイフが、俺の心臓をグサリと刺し貫く。
『結果として集まったのは、社会生活よりもサバイバルにステータスを全振りした【野生の戦闘狂(バーサーカー)】か、知識だけを詰め込んだ【極端なオタク】の二極化です。バランスの取れた人材など、最初から来るはずがなかったのです』
「うぅ……っ」
俺は反論の言葉を見つけられず、カビ臭い畳の上に突っ伏した。
『……あー、社長ぉ、それ完全に詰みっすねぇ。これなら大人しく、部屋の中でゲーム実況でもさせておいた方がマシなんじゃないっすかぁ……ふわぁ』
海外スタッフのヨモが、気だるげな声で欠伸交じりに笑う。
「ダメだ……。それじゃダメなんだよ……っ」
俺は畳を強く握りしめ、ギリッと奥歯を噛んだ。
「ただ部屋でゲームをするだけの企画なら、大手事務所の資金力とブランド力に押し潰されて終わりだ。あの『う○む○め』の熱狂を超えるためには、絶対に北海道の大自然という【無料の特大スタジオ】で暴れ回るしかないんだ!」
俺の脳裏には、数千万円のキャッシュが眠る法人口座と、残高数百円の個人の財布の対比が浮かんでいた。
来期の役員報酬を跳ね上げ、この屈辱的なヒモ社長生活から抜け出すためには、中途半端な企画でお茶を濁すわけにはいかない。
「俺が欲しいのは、ガチのサバイバル部隊じゃない。かといって、山で泣き喚くお姫様でもない」
俺は顔を上げ、ディスコードの画面を真っ直ぐに見つめた。
「山の厳しさを笑いに変えられる愛嬌があって、俺の指示を聞いて動ける素直さがあって、いざという時には腹をくくれる度胸がある……。そんな都合のいい原石じゃないと、この無謀なプロジェクトは絶対に成功しないんだ!」
『……ルシフェル様の要求は、砂漠でダイヤモンドを探すようなものです』
結愛が、珍しくトーンを落として静かに言った。
『社長の無給労働を前提とし、危険な北海道の山岳ロケに耐え、なおかつエンターテインメントとして成立する人材。ジェミニ先生のデータを見ても明らかな通り、そんな都合のいい人間は……』
四畳半に、重苦しい沈黙が降りた。
壁に飾られた300万円の美少女版画たちが、無謀な夢を見て溺れかけている俺を見下ろしながら、残酷な微笑みを浮かべている。
やっぱり、ダメなのか。
40歳のオッサンが、資本力ゼロで大手に勝とうなんて、夢物語だったのか。
このまま俺は、一生借金に追われながら塩昆布をすすり続ける人生なのか。
俺がマウスに手を伸ばし、面接ツールの終了ボタンを押そうとした、その時だった。
『……お待ちください。ルシフェルさん、結愛さん』
ジェミニ先生の合成音声が、突然、わずかにピッチを上げて響いた。
「どうした、ジェミニ先生」
『342人の応募データの中で、私が【保留】フォルダに分類していた、ある一つの履歴書ファイルから、特異なパターンを検出しました』
『特異なパターン?』
結愛が怪訝そうに問い返す。
『はい。体力、サバイバル知識、エンタメ性の数値が、ジェミニの推論エンジンをもってしても【測定不能(エラー)】を引き起こしています』
「測定不能だと……?」
『正確に言えば、経歴と自己PRの内容が支離滅裂すぎて、既存のどのカテゴリーにも当てはまりません。しかし……社長の求める「都合のいい原石」である可能性が、僅かに存在します』
ジェミニ先生の言葉に、俺の折れかけていた心が再びドクンと大きく脈打った。
「そいつは……どんな奴なんだ?」
『エントリーナンバー、342番。最後に応募してきた候補者です。現在、オンライン面接の待機ルームに接続したことを確認しました』
俺と結愛は、息を呑んで画面を見つめた。
極端すぎる猛者たちに絶望し、すべてを諦めかけたヒモ社長の前に現れた、最後の候補者。
「……結愛。入室許可を出すぞ」
『……ええ。お手並み拝見と行きましょう』
俺は震える指でマウスをクリックし、運命の扉を開いた。
北海道の大自然を制覇するための、本当の戦いが、ここから始まろうとしていた。
コメント
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第213話、めちゃくちゃ面白かったです……! ジェミニ先生の無慈悲な分析が痛快すぎて、社長の絶望とコミカルに交差するテンポがたまらなかったです。特にレーダーチャートで「社長の生存確率」が低空飛行するたびに、笑いと切なさが同時に来る。そして最後の「測定不能(エラー)」な3人目の登場——これはもう次が気になって仕方ないです。塩昆布や三万円チェアの描写にも、ギリギリのリアルが滲んでいて好きです。続き、楽しみにしてます!