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昼食が終わったのは、夕方の気配が漂い始めた15時過ぎ。
お店の人がルーンセラフィス教の信徒だったため、私たちはここでも色々とサービスを受けることになってしまった。
エミリアさんも建前上は断っているんだけど、最終的にはその厚意に甘えることになった……という感じだ。
「美味しかったですね、さっきの店!」
「えへへ、わたしの行きつけなんですよ♪
いつもはこんなサービスは無いんですけど、今回はずいぶん久し振りでしたので」
「なるほど、ずっと王都を空けていましたからね。
……さて、次は冒険者ギルドに行くのですが、場所はどの辺りですか?」
「はい。王都には冒険者ギルドの本部と、それ以外に支部があるんですが――」
「うわぁ、さすが王都」
まさか、冒険者ギルドが複数あるだなんて。
今までは1つの街に1箇所だけだったから、これは少し予想外だ。
「ここから一番近いのは本部ですね。
30分ほど歩いたところにありますよ」
「では、そこに向かいましょう。
ジェラードさんの所在照会もしたいんですけど、全部まわらないといけませんか?」
「いえ。所在照会は本部と支部で情報を共有しているので、どこでも大丈夫です。
登録した当日は情報が回っていない場合もありますが、1日も経てばちゃんと伝わっているはずです」
「なるほど、しっかりしてますね」
時間差があるということは、定期的に職員さんが行き来しているのかな?
目に見えないところで頑張って働いている人がいる。
そういうところは、元の世界と何ら変わりは無いんだね。
そんなことを思いながら歩いていると、道の向こうに何やら立派な、大きい建物が見えた。
人の出入りは無いものの、とても重厚な外観をしている。
「エミリアさん、あの建物は何ですか?」
「あれは王立図書館ですね。凄い量の蔵書があるんですよ」
「へー、調べものに良さそうですね」
「でも、あそこに入るのは資格がいるんです。
わたしは一応持っていますが、一般の方はなかなか取得できないんですよ」
「え、そうなんですか?」
「基本的には、国益をもたらす有能な人材にしか与えられない資格なんです。
それに、本の持ち出しも一切禁止されていますし」
「うわぁ、何だか凄いところですね。
でもエミリアさんはお持ちなんですね。有能な人材!」
「そうだと良いんですけどね……」
しかしそんなに厳重な管理をされている図書館であれば、私にとっても貴重な情報があるかもしれない。
私もその資格、欲しいなぁ。
「……もしかして、プラチナカードでどうにかなったり……しませんか?」
「うーん、どうでしょう。
王国としては国外の方を入れたくないと思うので、どこの所属か分からないプラチナカードの場合は……うぅーん」
……む、これは予想外。
プラチナカード万能説が崩れ去った瞬間である。
確かに『身分の高さ』は保証されるけど、敵か味方かまでは分からないからね。
つまり『身分の高い敵』である可能性を否定できないから、街の出入りのように、ホイホイと許可を出すわけにはいかないだろう。
「それでは王都で何か目立った成果を上げて、資格をもらうしか無いですか」
「そうですね、特例という形で何とか認めてもらうことが出来れば……。
どこかの組織に所属して、そこの後ろ盾を得るのが早そうですけど」
やっぱり『組織に所属』っていうのが一番問題だよね。
仮にこの街で凄いことをやって認められたとしても……それだけでは、敵か味方かは分からない。
まずは所属、これが大切なんだろう。
「仕方ないので、これは置いておきましょう。
そのうち、どこかに縁が繋がったら積極的に食い込むことにします」
「そうですね。
あ、何か調べたいことがあれば、できる範囲でわたしが調べてきますので」
「それはありがたいです!
今は具体的には無いので、何かあったときはよろしくお願いしますね」
「はぁい」
歩いていただけで、せっかく減ったやることがまた増えてしまった。
全部こなせる日は果たしてやって来るのだろうか……。うーむ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく歩いていくと、冒険者ギルドの本部に到着した。
今まで見てきた冒険者ギルドよりもずっと大きく、そして人もそれ以上に往来していた。
「……すごく立派な建物ですね。
それに、たくさん冒険者もいて……」
「さらに支部が2つ、ありますからね。
王都の懐の広さ、お分かり頂けましたでしょうか!」
そんなことを言うエミリアさんは、少し自慢顔だ。地元愛、羨ましい。
……さて、それはそれとして受付に行こう。
今回は冒険者ランクの更新もあるから、ルークとエミリアさんも一緒に三人で。
「すいません、いくつかお願いしたいのですが」
「はい、いらっしゃいませ。ご用件は何でしょう」
「えぇっと……所在照会と、荷物の受け取りと、冒険者ランクの更新をお願いします」
「かしこまりました。
このままこちらで承ります」
「はい、それでは――」
受付のお姉さんと、しばらくやり取りを続ける。
やっぱりここも事務的だね。そんなことを思うたび、私はケアリーさんに会いたくなってしまう。
まずは1つ目、ジェラードの所在照会は特に問題なく終わった。
私たちが泊まった宿屋とは違うところだけど、距離的にはここから1時間といったところだ。
2つ目、荷物の受け取り……ガルーナ村発、ミラエルツ経由のガルルンの置物の話だ。
これは無事に届いているらしいので、後ほど受け取ることにしよう。
そして3つ目は……待望の、冒険者ランクの更新!
私がFランク、ルークがD-ランク、エミリアさんがD+ランクのところ――
私がE+ランク、ルークがC-ランク、エミリアさんがC-ランクに上がった!!
……私は最下層のランクだったから上がり幅は大きかったけど、エミリアさんについては1段階のみ。
さすがにCランク辺りまで行くと、簡単には上がらないみたいだね。
でもミラエルツのひと月で、それだけ上がれば十分なのかな?
「エミリアさんはあまり上がりませんでしたけど、ルークは結構上がったね」
「ルークさんも、Cランク冒険者!」
「マイナスが付いていますけどね……」
そうは言うものの、ルークも嬉しそうではある。
ずっと停滞していたDランク台を、ようやく脱することが出来たのだ。
次の目標は、Bランク台!
「アイナさんもしっかり上がりましたよね。もうすぐDランク台ですよ!」
「ふふふ、もう底辺冒険者とは言わせません!」
……別に、言われたことは無いけど。
「さて、それじゃ私はガルルンの置物を受け取ってきますので、二人はどんな依頼があるかを見てもらえますか?」
「分かりました」
「はーい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいまです」
「あ、お帰りなさい」
ガルルンの置物を受け取ったあと、依頼の掲示板を眺めていたエミリアさんに声を掛けた。
ルークはもう少し離れたところで色々と見ているようだ。
「ガルルンの置物、どうでした?」
「11個、届いていました!
確認のために1つは包みから出しましたけど、あとはまだ見てないので……今晩みんなで、一緒に見てみましょう。
あ、いや。ジェラードさんがいるときの方が良いかな、折角だし」
「そうですね、楽しみはみんなで共有しましょう!」
「ジェラードさんはガルーナ村で先に見ちゃってると思いますけど……。
それにしても1つ大きいのがあって、これがやたらと気になりました」
「大きい……んですか?
早々にジェラードさんと合流して、早く見てみたいです!」
「今日、ジェラードさんの泊まっている宿屋に行ってみます?」
「そうですね……。となると、早めに冒険者ギルドを出ないといけませんね。
宿屋はここから1時間くらいのところですし」
「ではルークを呼んで――
……って、丁度良くこっちに来ました」
「アイナ様、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。
今日はもう、ジェラードさんの泊まっている宿屋に行っちゃおうかと思うんだけど……大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「了解!
ところで何か良い依頼はありましたか?」
「今までの街と違うものであれば、下水掃除とか施設管理とか……王都ならではのものがありましたよ」
「そ、そういうのは要らないかな……。ルークは?」
「私は魔物討伐の依頼しか見れていませんが、遠いところの依頼が多かったのが印象的でした。
王都からガルーナ村くらいの距離のものもありましたし」
「へぇ……。それって片道で2週間くらいの距離だよね?
さすが王都、いろいろあるものだね……」
「強い冒険者がたくさんいますからね。
地元でどうにもならない依頼は、ここまで回ってきてしまうんです」
「なるほど……。時間を見ながら、そういうのを受けてみるのも良いかもですね。
受けたくなったらまた来ましょう」
「はーい。それでは今夜の宿にご案内しますね!
そこも大きいところなので、満室ということは無いとは思いますが……少し急ぎましょう!」
「分かりました、案内お願いします!」
「よろしくお願いします」
用件を済ませた私たちは、ジェラードの泊まっている宿屋に向かった。
それにしても、ここから1時間か……。
街が大きいだけあって、いちいち行き来に時間が掛かってしまうなぁ。