次の日。
白河先生は校長へ自ら電話をし、明確な理由は言わず、ただ「休ませて欲しい」と頼んだらしい。
校長も許可を出したそうだが、「あんまり長期間休むのは良くないから、2学期に入ったら来るように」と言われたそうだ。
白河先生は、それにはとりあえず納得しているようだった。
私も学校には全く行けなくなってしまっているが、先生のために全力を注いだ。
そのおかげなのか、料理の腕は上がったし、先生の新たな一面を発見できた。
先生は、笑顔を少しずつ見せるようになった。
やっぱり先生の笑顔はかっこいいというか、「可愛い」。
顔から優しさが溢れている。
ある日
私は体調を崩してしまった。
白河先生は、「頑張っていたからね。お疲れさま」と言ってくれた。
『いつでも優しいなんて…もう神様だ!』と私は目に少し涙を浮かべて先生を見つめる。
先生は、頷いて、ニコッと微笑んだ。
その笑顔こそが良薬だった。
『こんな良い先生を傷つける人なんて…』 と思った。
その日の夕食に、先生は雑炊を作ってくれた。
中には、鮭とふわふわの卵、千切りののりが少し乗っけてあった。
「どう?美味しいですか?」
「うん!めちゃ美味しい!」と答えた。
先生は私のその言葉を聞くと、とても嬉しそうに笑っていた。
久々、先生の満面の笑顔が見れた。
優しさが溢れている先生の顔。
そして7月7日、 私の誕生日が来た。
先生は、私の大好きなチーズケーキを買ってくれた。
ろうそくをケーキに立てて、電気を消す。
私がろうそくを消すと、「おめでとう!」と先生が拍手しながら言ってくれた。
「本当、七夕が誕生日なんて、凛さん凄いよ!」
「自分の誕生日が自慢です」と笑いながら返した。
とにかく楽しかった。
その次の日の夕方、
先生に電話がかかってきた。
校長先生からだったらしく、「今から学校に行かなきゃいけなくなった」と。
「なにかあるの?」
「校長先生と面談しなきゃいけないって…」と言ってきた。
白河先生は、久々にカッターシャツとスーツに腕を通した。
『やっぱりこの格好が安心するし、一番先生らしい』と思いながら、久々に見惚れた。
「またかっこいいなんて思ってる?」と言ってきた。
『バレてるじゃん!』と思いながら、「うん!」と答えた。
「やっぱり!すぐ分かるよ」
「え〜!」などと言い合った。
けど、先生の頭の中は緊張でいっぱいなんだろうな…と思っていた。
先生が行ってからは、1人で久しぶりに過ごした。
少し寂しかったので、テレビを付けていた。
夜の8時頃にやっと帰ってきた。
玄関を開ける音がした。
私はすぐに向かった。
「ただいま!」と先生は元気に言っていたが、手にはハンカチを握っており、目元には涙を流した跡があった。
『やっぱり、泣いたんだ…』そう思った。
私は一番気になっている事を聞く。
「通知表とかどうするの?」と。
「大丈夫。代わりに入っている先生が全部付けるみたいだから。」と返ってきた。
『それなら安心だね』と思った。
夜中、ふと目が覚めた。
横を見ると、先生が居ない。
私は、リビングの方へ行った。
ドアの隙間からリビングの中をみると、先生がテーブルで何かをしていた。
30冊くらいだろうか。見覚えのあるファイルがある。
『あっ…通知表…!』と気づいた。
先生は、私が心配しないように嘘をついてくれたんだ…。
私はそっと立ち去り、布団へ入った。
その朝。
私は『先生に嘘は付いてもらいたくない』と思い、夜中の事を話した。
先生はもちろんビックリしており、「なんで…見たの…?」と聞いてきた。
「ふと目が覚めたら…先生…いなかったから…」
「ごめんなさい。また嘘ついちゃった…。だって…凛さんに心配かけたら悪いかなって…」と返ってきた。
私は、「本当の事を言ってもらったほうが、良い。」と言った。
白河先生は唇を噛み締め、今にも泣きそうだった。
私は『強く言いすぎた…どうしよう…』と思っていた。
その時、先生の目元から涙が落ち、テーブルに弾いた。
「ごめんなさい!強く言い過ぎちゃって…」と私はすぐに謝った。
先生は、「良いよ…。」と呟いた。
私は複雑な気持ちになった。
そして中学校の終業式の日。
朝、目が覚め起きると、先生がカッターシャツに着替えていた。
「今日、なにか要事があるの?」と私は聞く。
「いや…頑張って…行ってみようかなって思って…」と先生は答えた。
私にとっては意外な答えだった。
先生の口からそんな答えが出るなんて…。
「今日は、生徒は午前中だけだし…何かあったらすぐ帰ってくるから。」と先生は答えた。
私は「無理しないでよ。」と先生へ言った。
「うん。ありがとうね」と先生は言い、玄関を出て、そっと扉を閉じて行った。
そして夕方、薄っすらと車の音がした。
先生が帰ってきた!と思い、外に出た。