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ピコン。 薄暗い生徒用玄関。コンコンとローファーにかかとを入れていると、どこからか通知音が鳴った。
スマホを持ってる三人からじゃないと靴箱の隅に寄ってカバンの中をまさぐるけど、私なんかにレンラクしてくるはお母さんぐらいしかいないだろうと、気分がどんよりとする。
今日はパート休みだって言ってたしな。
あー、全てがイヤだ。
コートを貫通して刺してくる冷気も、キーンと鳴る頭も、悴む手も。何痛みとか感じちゃってんのって、イライラする。
「……っ!」
声を出さなかった自分だけは褒めてあげたい。
その名前がスマホに表示されるのがあまりにも懐かしく、その文字列を見るだけで胸が締め付けられてくる相手。
麗華、からだった。
……何これ?
名前の下に続くのは文章ではなく、なんかよく分からない英文字で、一目で内容は把握出来ない。
ホントなら今すぐタップしたいけど、うっかり友達に見られてしまったらという、どこまでも浅ましい考えから指を引っ込め、三人の方に目をやる。
みんなが通る玄関だっていうのにスマホを見せ合って、どのルートでカフェ巡りをするか話し合っているようだ。クツを履き替えたい子たちがメイワクそうな顔をしているのに、まったく気にも留めずに。
一軍の子や、同じぐらいの子にはしっかり気をまわすのにね。
まあ、それに対して「どこうよ」と言わない私も私だけど。
一瞬なら大丈夫かとスマホをタップすると最後のやり取りは八月三十一日で止まっていて、胸が締め付けられていく。
また視界がボヤけてきた目を強く瞬きをして乾かし、下に目を向けると先程送られてきたのは、PDFと書かれたデータ? みたいなものしかなかった。
何だろう?
怪しいデータは無闇に開かない方が良いとはさすがに知っていたけど、私の指は勝手にタップしていた。
それぐらい麗華からの連絡が気になって、何より心の奥から湧き出てくる嬉しさが抑えられなくて。
……えっ?
騒がしかった玄関が、一気に静まり返ったのかと錯覚してしまった。
それぐらいの衝撃だった。
え、待って! 何で麗華が持ってるの!
吐く息は熱く、体がフワフワとして、寒さとは違う震えが全身を駆け巡っていった。
「……して、返して!」
ハッとなり声がする方に顔を向けると、そこにいたのは麗華で、なんて言うか、泣きそうな顔をしているように見えた。
「え、なに……を?」
意味が分からずスマホをギュッと握りしめると、麗華はこっちに向かって手を伸ばしてきた。
「わっ!」
近付いてきた手に思わず身を引いてしまうと、体がフラッとしてしまい、気付けばドタっと音を立てて地面に尻もちを付いてしまっていた。
不意に顔を上げると目の前には麗華がいて、口元に手を当て真っ青だった。
「あ、ご、ごめん……」
慌てて伸ばしてきた麗華の手を跳ね除けたのは、金属の指輪を付けた手だった。
「アンタ、どうゆうつもり!」
尖った声が玄関口で響き渡り、別のクラスや学年の子たちまで、こっちに寄ってきた。
「文のことずっとジロジロ見てきて、そうかと思えば突き飛ばしたりとかして! 怖いんだけどっ!」
えっ、突き飛ばしてきた?
思わず麗華の方を見ると目を泳がすだけで否定も何もしなくて、ホントだと思うと、手とお尻に付いているコンクリートがやたら冷たく感じた。
「マジ、サイテー! 行こっ!」
呆然となる私は三人に立ち上がらせてもらい、手を引かれて学校を後にする。
麗華……、どうして?
どうしてこんなことするの?
私の味方でいてくれると言ってくれたよね?
あの言葉は、ウソだったの?