テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

奏でた僕らの恋

一覧ページ

「奏でた僕らの恋」のメインビジュアル

奏でた僕らの恋

5 - ひとりでなんて 💛💜

♥

209

2025年06月18日

シェアするシェアする
報告する

「一段飛ばしの階段」の💛サイドのつもりで書きました。










その日の夜のことだった。

仕事終わり、駅までの近道として普段であれば通ることとはない繁華街を足早に歩いていると、よく知る顔をそこで見かけた。


そいつは、俺の知らない奴と親しげに腕を組みながら、目が痛くなるような光を放つ安っぽいホテルに入っていった。


知らないふりなどできなかった。

見ていないふりもできなかった。


だって、俺はそいつのことが好きだったのだから。




いつからふっかに惚れていたかなんて、もう覚えていない。

気付けばいつだって隣にいて、なんでも話せる奴で、誰よりもかけがえのない存在になっていった。今更離れることなど考えられなくて、できることなら今以上の関係になりたくて、いつか、折を見て自分の気持ちを伝えられたらと思っていた。


友情が信頼へと変わったあと、恋慕と表裏一体になった。

恋慕は少しの劣情を孕ませて、ひとりでに膨れ上がっていった。


この気持ちは正しいのか、間違っているのか、そんな些細なことにこだわっていた矢先、あいつが誰かと親密な電話をしているのを偶然聞いてしまったことがあった。



「えー、今日?今日は夜遅くまで仕事だよー…。」

「…終わる時間?あー、まだ読めないけど、多分日付回った頃かな」

「…それが終わったら?無理だよぉ、、そんな疲れた状態で抱かれたりしたもんなら、俺死んじゃうもん」

「…じゃなきゃもう会わないって、、なんで、、やだ…」

「…ぁ、まって!会う!会いに行くから!ごめん、だから会えないとか、、言わないで…」

「…うん、うん、わかった…。こないだのとこね。じゃあ、また後でね…って、、、切れちゃった…。」

「はぁ、、いっつも自分勝手だな、この人。今日で終わりにしようかなぁ。」


「…なんで、愛してくれなかったの……。」

そう呟いたそいつの独り言は、体がちぎれてしまいそうな程に痛かった。



付き合っている奴がいるようだが、どうやらうまくいっていないのかもしれない。しかしどこか違和感の残る言い回しだった。

「今日で終わってしまうのかな」であれば分かるのだが、「今日で終わりにしようかな」というのはどういうことなのだろうか。


しかし、その疑問以上に抑え切れないほどの嫉妬が俺の体中を駆け巡っていた。

それでも、ふっかが愛している人を恨むことなど、俺にはできなかった。

俺はただのメンバーで、ただの「友人」なんだから。



愛情が重たいと他人から言われる通り、俺は御多分に洩れず、諦め切れずに毎日を過ごしいていた。その間にも、ふっかの相手は次々に変わり、俺の知らない誰かといつだって会っているようで、やり場の無い激情は吐き出せないまま、大きくなるばかりだった。


でも、ふっかは、いつも寂しそうだった。


恋人と別れたような雰囲気で目を腫らしてきたかと思うと、次の日には幸せそうに誰かとメッセージのやり取りをしているのだ。しかし、その翌日には、またどんよりとした顔をしていた。


ふっかは幸せなのだろうか。


この言葉は俺の中へ浮かび、下へ下へ沈んでいった。



またある日のこと、俺の隣で不快そうな顔をしながら誰かとやり取りをするふっかに、思わず声を掛けた。

スマホに目を向けたまま「んー?」と返事をするふっかに聞いてみる。

ずっと聞きたかった。


「なんか悲しそう?」と。


「んぁ?俺が?」

「うん。なんかあった?」

「…べつに、なんもないよ…っ?」

そう言いながら一筋の涙がふっかの頬を伝った。


やっぱり、幸せそうじゃないじゃん。

しかし、ふっかは自分が泣いていることに気付いていないようだった。

それに、なんでも話せると思っていたあいつは何も言ってはくれなかった。


俺に打ち明けられないこと、まだあったんだ。


一度浮かんだ言葉と気持ちは取り消せない。

頭を殴られたような強い衝撃が鈍く全身に響いて、繰り返し痛んだ。


こいつが話さないのなら、俺からは何も踏み込めない。


ティッシュで鼻をかんだふっかは、

「一服行くけど、照、、付き合う?」と聞いてきたので、ついて行った。


ふっかは何を求めて、こんなことを繰り返しているのだろう。



俺の時間は、ふっかの寂しそうで悲しそうな顔を見る度に動きが止まってしまう。

毎晩、答えの出ない謎めいた考え事が、繰り返し続いている。

何も答えてくれなければ、俺はもう何も聞けない。

分かり合えているのかどうか、そんなこと誰にもわからない。その問いに対する答えはどこにもない。

それなら隣にいて、ただ、ふっかの隣に身を置くことだけでもいいからさせてほしい。



優しいものってとても怖い。

いつか音を立てて崩れて、消えてしまうようなそんな感覚になって、泣きそうになる。

ふっかがいつか、どこか俺の知らない場所へ、何も言わずに行ってしまうような気がするんだ。

だって、ふっかはいつだって誰よりも優しい人だから。


誰も傷付くことがないようにと、そんな気持ちなんかで一人で抱え込まないで。

それなら、どうか、俺にその痛みを分けて。




次の日、ふっかの両手首に残る青紫色の痣を見た。

こいつが望んで出来たものでないことくらい、ふっかの表情を見ればすぐにわかった。

いつもの、あの、寂しそうな顔をしていたから。


俺の恋情はいつになれば終わりを迎えるのだろうか。その頃にはきっと、凍りついた俺の翼は溶けることも開くこともないまま、飛べずに落ちていく気がしていた。


ふっかは、あとどれだけ歩けるのだろうか。

愛を求め、愛を探し、傷付けられて、傷付いて、そんな終わりの見えない旅をずっと続けているこいつは、一体いつまで正気でいられるのだろうか。

堕ちて壊れていくふっかを秒読みして待っているような、そんな感覚に、こちらが先に狂ってしまいそうだった。

でも、きっと、ふっかは世界の果てだったとしても、求めているものがある限り、行くって言うんだろうな。


俺が掛ける言葉も、そこに滲ませた愛情もふっかに届くことはないまま、そんなもの全て振り払って。



ふっかの愛に終わりが来るとき、ふっかが愛を失う日、その訪れがいつなのかを、あいつはよく知っている。悲しいほどに。

そもそも、ふっかにちゃんと愛情を注いでいるのかも疑われるような奴らだ。

ふっかをずっと見てきた俺の予想だが、恐らく、あいつは愛情というものを履き違えている。たった数時間、数分言葉を交わしたような奴と、なし崩しに始まったものなどに、一体何が生まれるというのだろうか。都合よく性欲の捌け口になっているようなものではないか。


なのに、どうしてふっかはまだ探そうとするの?

いつだって同じやり方で、同じように傷付いているのに、なぜ今日は大丈夫だと毎日寂しい期待をしながら、一人で歩き続けるの?


本当は、お前自身が誰よりも一番、愛というものを信じていないくせに。



そして、時は今に戻り、俺はホテルの前から一歩も動けず、ふっかとあの男の睦み事が終わるのを、身を切られるほどの思いをしながら待っていることしかできなくなっていた。

一緒にホテルに入っていく相手に、とてつもない嫌悪感を抱いた。

ニヤついた目で、ふっかをじっと見ながら、頭を撫でていた。


そんな汚い手でふっかに触らないで。

そんな澱んだ目でふっかを見ないで。

そんな低俗な気持ちで触れていい奴じゃない。あんたもきっとふっかのこと愛さないんだから。


だったら、俺が大事にする。

絶対に離さない。泣いてやめてと言われたって、絶対に離してあげない。

頭の先からつま先まで、ふっかの全部に俺の愛を注いであげる。




そんなことを考えていると、先ほど見たあの男が飄々とホテルから出ていった。

軽い足取りで駅へ向かうその後ろ姿が腹立たしくて、蹴り飛ばして二度と歩くことなど出来ないようにしてやりたかった。

15分ほど経って、ふっかが出てきた。

宿泊ではなく、休憩で全てが終わるということですら、俺には理解できなかった。

一夜を共にするほどの時間も寄越さない、その時間すら金銭で示そうとはしないような奴に、どうして体を許すことができるのか。


後ろから「ねぇ。」と声を掛ければ、振り向く愛しい人。

俺のことが誰だかわかっていない様子だった。

また目が腫れている。またダメだったのかな。


「なにしてんの?こんなとこで。」そう問いながら、つけていたマスクを外せば、ふっかは驚いたように絶句していた。

混乱と戸惑いと、怯えを滲ませた目が忙しく泳ぐ。

きっと待っていても、質問の答えは返ってこないだろう。


手を引いて、ふっかを攫った。




家に帰る道中、ふっかが何か喚いていたけれど、これまでの嫉妬、怒り、愛情、苦悩、そんなもので腹が煮えたぎるように熱く、なにも耳には入ってこなかった。


寝室の扉を開け、ふっかをベッドに放り投げる。

逃げてしまわないように上から覆い被さり、両の手首を掴んで自由を奪った。



言いたいことがたくさんあった。

でも、うまく出てこないものの方が多くて、言葉なんてなにも紡げないまま、ふっかの目を見ていた。それだけで喉が熱くなった。


「…俺じゃダメなの?」


ただ、ただ。それだけだった。

それだけが、俺の口から出てきた。


そのあとすぐ、堰を切ったように、今までふっかに思っていたことの全てが流れるように言葉となって吐き出された。


「前から、ふっかが知らない人とそういうことしてるの、なんとなく気付いてた。ずっと見てたから。最初はちゃんとその人たちと付き合ってるんだと思ってた。それならしょうがないって、なんとか諦めようとしたけど、いつもふっか幸せそうじゃなかった。」


「ふっかを幸せにしない奴に、もうふっかを渡したくない。俺がふっかにあげる。幸せも、笑顔も、何もかも俺の全部。好きだよ、、ふっか……。俺を選んでよ…。」


止まらなかった。


「…俺、もうそんな価値ないよ?」


と全てを諦めたような目をするふっかに少し腹が立って、そんなことを言う唇を塞いだ。



優しいものはとても怖い。

俺の下で、今にも崩れてしまいそうに、それでいて、どこかこの行為に安心しているような顔で、甘い嬌声を響かせるふっかを見ていると、すごく怖くなった。

ふっかはすごく優しい奴だから、この時間を、この行為を赦してくれている気がするんだ。明日になったら、俺を傷付けない方法で忽然と痕も残さず、何事もなかったようにしてしまうんだろうと思うと胸が焦げつくように苦しくなった。


このままふっかが消えてしまったらどうしよう。

壊れてしまったらどうしよう。

お願いだから、どこにも行かないでよ。


その優しい心で、一人で愛を探そうとなんてしないで。

一人でなんて踊らないで。

寂しさと虚しさの炎に焼かれているのなら、声をあげてよ。

俺の名前を呼んでよ。俺を選んでよ。


今日だけでもいいから。

これが最後でもいいから。


誰にも傷が付かないようになんて、独りで苦しまないで。

どうか、その寂しさの中で俺を一緒に踊らせて。








情事の余韻を滲ませたふっかは、換気扇の下で煙を吐きながら、俺を呼んだ。


「なに?」と返事をすると、ふっかは、「全部くれるってほんと?」と聞いてきた。

なんのことだか咄嗟の事で分からずにいると、「俺に全部くれるって言ったじゃん、さっき。」と言った。そして、


「なら、照の愛、俺にくれない?」と言った。


「俺に教えてよ、愛ってなんなのか。好きってどういうものなのか。」

「俺も貰った分返すから、返し方も教えて?」


俺を選んでくれた。そのことが嬉しくて、切なくて、涙が止まらなかった。




ふっかを大事にしたい。ちゃんと愛させて欲しい。

まずはきちんと段階を踏まないと。



「俺と付き合ってください。」

「っ!?そっから始めんの!?」

「順番あるでしょ。」

「さっきすっ飛ばしたのは誰だよ。」

「それはそれ!今から始めるの!!!」

「はいはい、、。」

「返事は?」

「………っ、だぁぁぁぁぁぁ!!よろしくお願いします!これでいい?!」


照れているのか、少し怒ったように返事をしたふっかに、よくできましたと伝えるように、口付けた。





























お借りした楽曲

私とワルツを/鬼束ちひろ様



この作品はいかがでしたか?

209

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚