テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#元カレ
まぁ
12,388
世羅 鈴🎨🎤
305,052
#普通
野々さくら
206
芙月みひろ
442
「うわぁ~、オシャレなお店知ってるんだね」
「一回しか来たことないんだけどねぇ」
気後れしながら入店したのは、以前友達三人と来た渋谷の喫茶店で、パフェが美味しいと評判のお店だった。
バナナ、チョコ、ストロベリー、キャラメル、抹茶と定番から、お店のオリジナルもあり、タブレットに映し出される画像に胸が躍ってしまう。
だけど私は麗華が気になり、チラチラと見てしまう。
何を選ぶのか、何を目的にそれを選んだのか。気になって気になって、仕方がなかったからだ。
「私、苺が好きなんだよね。ストロベリーパフェにしよっかな」
麗華はピッとタップして、二人で見ていたタブレットをサッと渡してくれる。
「苺、いいよねぇ」
タブレットを受け取り、私もストロベリーにタップして注文確定しようとすると、麗華はポツリと聞いてくれた。
キャラメルにしないのって。
「えっと」
「あ、勘違いだったら、ごめん。じっと見てたからさっ」
麗華はハハッと笑いながら出されたお水をコクコクと飲んでいるけど、それは図星だった。
「キャラメル頼んでいい?」
「当たり前だよ、なんで私に断り入れるの?」
なんでか、それは「映え」のためだ。
ストロベリーは見栄えや色映えも良く、写真に撮る定番とされやすい。
一方、チョコやキャラメルは色合いが暗く、「映え」には高度な技術がいるらしい。
本当にそうなのかは知らないけど、私たちのグループでは暗い色は注文NGと決まっていて、私はいつも我慢していた。
一番好きなのはキャラメル味だったのに。
「お待たせしました」
店員さんが持ってきてくれたのは、こないだ途中までしか食べれなかったパフェで、あの時の罪悪感が湧き出てくる。
「わぁ、美味しそー。……あ、撮る?」
麗華は持っていたスプーンをパッと止め、少し恥ずかしそうにそう聞いてくれた。
「あ、撮らないよ」
「良かった……、私こうゆうの疎いからさ、妹と一緒にカフェ行った時に食べて、写真撮ろうと思ってたのにぃーって言ってたことあってさぁ」
苦笑いを浮かべる麗華に、思わず頷いてしまった。
麗華もそうゆう経験あるんだって。
互いに持つのはスマホではなくスプーンで、言う言葉は「映え」ではなく「美味しい」で、幸せな時間が過ぎていく。
「妹さん居るんだ?」
「うん。今、中二でさ、SNSと推し活が好きな子で、あのアイドルのレイが好きなんだ。確かに良い歌だよね」
「……あ、そうだね……」
途端に私の声は萎んでいく。
麗華には本以外のことを話してほしくない。何、この気持ちは。
心の奥で沸き立つモヤモヤ感に気付いた私は、唇をキュッと噛み締める。
「文?」
「あ、ううん」
こんな気持ちを悟られたくない私は、ただ笑う。
そうだよね、少しは流行りの話もしないと引かれてしまうから。
麗華と過ごす時間は、空白の原稿用紙を埋めてくれるような、空っぽな心を埋めてくれるような、そんなかけがいのない時間だった。
夏休み最終日の昼下がり。ランチタイムが終わり客足が落ち着いた喫茶店に来店した麗華と私は、誰もいないことをいいことに小説談義に花を咲かせまくる。
「『くだらないゴタク並べてる時間があるなら、一文でも書きなさいよぉ! この拗らせもネタにしてやる! ぐらい言ってみなさいよ! この執筆狂がぁ!』って場面がグッときたなぁ」
「分かる! 一見突き放しているように見えるんだけど、実は何よりの激励だったと最後で分かってくるんだよね」
互いに読了した本の感想会は熱く、片方が読んだことのない本が話題になったら、いかにネタバレをしないようにその話を薦めるか、それも楽しくて仕方がなかった。
あれからも週一で会っては、本屋さんや、近所の公園、散歩とかもしてみたけどとにかく暑くて、近所の喫茶店に寄ったというわけだった。
だけどここはイマドキ要素とか全くなく、だからってレトロ感とかを醸し出しているわけでもない、ただの古い喫茶店だ。
「ごめんね、こんな店連れてきて」
「え、何で? ご飯は美味しいし、落ち着いて、すっごく良いじゃない? パフェも楽しみだし」
「そう言ってくれると助かるよ……。だってさ、建物古いし、メニューとか何十年前って感じだし、それにオシャレとか全く縁がなっ……うぎゃあ!」
頭にゴーンとした衝撃が落ちてきて、思わず変な声が出ると、次は不機嫌な声が落ちてきた。
「悪かったね、古臭い店でぇ! アンタのパフェはアイスなしだからね!」
「うわあ、ごめんなさい! とってもステキなお店ですぅ~!」
「次はないからねぇ!」
「はいっ!」
喫茶店のママさんにより頭に当てられていたステンレスのお盆はようやく離され、一部始終を見ていた麗華は大笑いしてくれた。
「ホント、馴染みのお店なんだね」
「子どもの頃から来てるから、おばちゃん容赦なくて」
「そうゆうのいいじゃん」
「そうかな?」
麗華はお父さんの仕事の都合で、二、三年おきぐらいに転校しているらしい。だから馴染みの地域、馴染みのお店とかがないらしい。
ずっと東京の、この下町みたいな温かな地域に住んでいた私にとって、それは想像出来ないぐらいだった。
言い尽くせないほどの苦労があったんだろうなって。
「はい、おまたせ!」
おばさんは麗華にはにこやかにパフェを置いてくれるのに、私にはドンっ! と置き睨みを効かしてくる。
アイス抜きの刑は免れたけど、いつもよりキャラメルソースが少なく、まだ根に持ってるようだ。
「いやあ、すっごいボリュームだね」
「そうそう、映えとかは無縁なんだけど美味しくてボリューミーだから、おじさんの本屋さんで本買って、ランチとディナータイムの間時間でゆっくり本を読むのが最高っなんだよねぇ!」
馴染みの本屋さんに喫茶店。
誰にも話したことがない、私だけの居場所。ここを紹介するのは麗華が初めてで、どんな反応されるかとヒヤヒヤしていたけど、気に入ってくれたみたいで良かった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!