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当たり前

11 - 第11話

♥

160

2025年12月03日

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及川視点


「徹、どうしたの?おかしいわよ」


母さんの声は不気味なくらい静かで、

怒鳴られるよりもずっと怖かった。


「俺は…普通に生きたいだけだよ」


言った瞬間、胸がスッと軽くなった気がした。

でもその後に来る静寂が、身体の芯を冷やした。


「徹、あなたは普通じゃないの。だから私が指導してあげているのよ」


“普通じゃない”


何度も耳にした言葉。

ずっと刺さって、ずっと痛かった。


「そう、かもね」

「でも、、」


母さんはため息をつくように首を振り、

俺の肩に手を置こうとした。


その手が触れる前に、俺は一歩後ろへ下がった。


「触らないで」


母さんの表情が一瞬で固まる。

怒りでもなく、悲しみでもなく、

“想定していない状況”に戸惑った顔。


「徹…あなた、最近変よ」


「変になった理由、母さんは知らないんでしょ」


「なにを――」


「母さんが知らないだけだよ」


胸の奥の言葉が、堰を切ったみたいにあふれた。


「岩ちゃん、まっつん、まっきー、部活のみんなだって俺のこと心配してくれてるのに、母さんは何にも見てくれないじゃん」


母さんの眉がピクリと動く。


「徹。あなたは、周りの子より優れていないといけないの。“普通”なんて求めるな」


その言葉に、背中がじんと痺れた。


「もう…無理だよ」


その一言を、初めて母さんに言った。


母さんは固まったまま、俺をじっと見る。

怒りを隠すでもなく、涙を見せるでもなく、

ただ無表情に。


「徹。あなたがどうしたいかは関係ないのよ」


その言葉で、何かがプツンと切れた。


ここにいたら、俺は壊れる。

今日じゃなくても、近いうちに。


頭の中に浮かんだのは――岩ちゃんの顔。


あの玄関で、俺のためについた小さな嘘。

学校で言ってくれた「関係あるだろ」の言葉。

部活で、いつも隣にいてくれたこと。


守られたいんじゃない。

ちゃんと、自分の足で立ちたい。


立つために、誰かの名前を呼んでいいんだ。


「…出てくる」


母さんが目を見開く。


「徹?」


「今日は…帰ってこない」


「どこに行くつもりなの?」


「…言わない」


言ったら止められる。

だから靴も上着も鞄も何も持たず、

そのまま玄関へ歩いた。


母さんは背中に向かって言う。


「徹!戻りなさい!」


振り返らなかった。


扉を開けた瞬間、

外の空気が冷たくて、

でもやけに自由だった。


家の前の道に、誰かが座っていた。


驚いた。

信じられなかった。


「……岩ちゃん?」


岩ちゃんは膝を抱えたまま、ため息をつきながら言った。


「遅ぇんだよ」


まるで、俺が出てくるのを知っていたみたいだった。


「なんで…」


「なんとなく、こうなる気がした」


なんとなくで夜の家の前にいるかよ、と思ったけど、

それが岩ちゃんらしくて、少し笑えてしまった。


「行くとこ、ねぇだろ」


「…うん」


「じゃあ来いよ」


手を差し出されたわけじゃない。

抱きしめられたわけでもない。


ただ一言。


“来いよ”


その一言が、俺を救った。


「…ありがとう」


小さく呟いて、岩ちゃんの隣に立った。


「松川ん家、今日誰もいねぇって言ってたから」


「え?」


「安心して寝れる場所のがいいだろ」


岩ちゃんの横顔が、街灯に照らされて少し赤く見えた。


俺は初めて、

“逃げる”じゃなくて

“助けを求める”っていう選択をした。


母さんの声は、もう聞こえなかった。


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