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第12話:始まりの切符
昼下がりの笹波駅。春の陽が差し込み、ホームのベンチの金属部分がじんわり温かい。
改札を抜けてきたのは、小柄な少年。ベージュのパーカーの上にチェックのシャツを羽織り、デニムの膝には擦れた跡。髪は柔らかそうな黒で、前髪が目元にかかっている。背中には、青いランドセル——まだ新品の匂いがする。
名前は佐伯遼(さえき りょう)、小学一年生。
ホームの床に、折れ曲がった小さな紙片が落ちていた。拾い上げると、それは切符だった。
ただし、印字された日付は「2040.04.01」。まだ十五年以上も先の日付だ。行き先は「笹波駅 → 笹波駅」。出発も到着も同じ駅。料金の欄には、代わりにこう書かれていた。
《はじまりの旅》
遼は首をかしげ、切符を光にかざした。透かすと、うっすらと子どもの字でメッセージが浮かび上がる。
「きみはまだこれから なんでもできる」
ランドセルの肩紐を握る手に力がこもる。最近、転校したばかりで友達がいないことが、胸の中でずっと重たかった。
でも、この切符が言っている。「ここがスタートだ」と。
電車が到着し、遼は切符をポケットに入れた。
いつかこの日付の切符を本当に使う日が来るかもしれない。
ドアが閉まり、車窓に映る自分の顔が少しだけ誇らしげに見えた。
笹波駅は、またひとつ新しい旅を未来へ送り出した。