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善悪に言いつけられていた、各種名物のお土産を買い込みつつ、名古屋駅まで戻って来た時だった。
お買い物の為に一旦改札から出て、一路目的の店へと急ぐコユキの前方から、見るからにタチの悪そうな二人組みが歩み寄ってきた。
一人は顔の右脇全体がケロイド状になった男で、そちらには耳も頭髪も無く、酷(ひど)い火傷だったことが窺(うかが)えた。
もう一人は、一体何があったというのか、顔面にX字の傷跡が対角線上に走り、眉間の少し下で綺麗に交差していた。
チョット見ただけでも|堅気《かたぎ》には見えない男達は二十台後半であろうか、火傷の方はそれさえなければ可愛い感じのさわやかな美青年、X字の方も傷を見なければ切れ長の目のクールな美青年であっただろう。
コユキは失礼にならない様に一瞥(いちべつ)して、勿体無い(もったいない)と心から思うのだった。
そのままお互いに歩き続け、そろそろすれ違うといった所で、火傷の男が不意にコユキの方へとスライドして来て今にも当たりそうになった。
男は尻餅を着くと大声で怒鳴った。
「おいおいオンドレ、何処に目を付けてやがるんだ! オンドレっ! あぁー痛えーオンドレー! どうするんだ! オンドレ!」
おんどれ? と小首を傾げているコユキに向かって、今度はバッテン傷の男が低い声で言った。
「あーこれ骨までいったんじゃねぇーかー? 兄貴はこう見えて虚弱体質なんだよ? 分かるか? 特に小魚とか牛乳嫌いだから骨が弱いんだわー、どうしてくれるんだぁーオッサンよぉー」
ぴくっ
「オンドレ、人にぶつかって置いてシカトぶっこいてんじゃねーぞ! オンドレ~! 何とか言えや、オッサンっ! おーオンドレぃ!」
ぴくぴくっ
「まぁ、おっさん、俺たちも鬼じゃねーんだからよ、な? ちっとばっかし治療費ってやつを包んでくれりゃ、水に流してやるからよ! わかんだろ? おっさん」
ぴくぴくぴくっ
当たりそうになった瞬間、アヴォイダンスで二メートル程後方に下がって衝突を防いでいたコユキが、無表情のままス――――と体の|何処《どこ》も動かさずに近付いて行った。
「な、なんだオンドレ、やろうってのか、お、おおぅ、オンドレ」
オドオドし始めた火傷の男と、警戒して目を細めているバッテン印の男に向けて、
「当たって無いんだけど? 避けたから! なんなら出る所出てやろうじゃない! 今から鉄道警察に行こうか? ん、んん?」
黙りこくる二人に対して今度は一瞬で背後に回りこみ、
「あんた如きを避けられないほど鈍く無いツーんだよ! あ? 見えたか、今? 見えたのかよ!」
青褪(あおざ)めてワナワナし始めた二人に対してもう一度、音も無く元いた位置へと戻るとツナギのジッパーを腹辺りまで下げて言葉を続けた。
「んで! さっきからアタシの事見て『おっさん』って言ってる様な気がしてるんだけど? まさか…… 言って無いわよね?」
言いながら胸元をガバっと広げて、ショッキングピンクのブラを見せ付けるようにしたのだった。
「あわわわ…… おんどれ……」
「あ、兄貴、こいつ女ですぜ」
こそこそと何やら話している二人を睨みつけながらコユキが、
「男ならセコイ真似してんじゃないわよ! 食っちまうよ! 分かったら…… 去ねっ!」
一喝(いっかつ)すると、そろって『とんずら~』とか言いながら一目散に逃げて行ったのであった。
すっかり気分を害されたコユキであったが、プンスカプンスカ言いながらも、名古屋市内での買い物を終え、電車を乗り継ぎながらその日の内に、幸福寺へと戻り着くのであった。