護衛艦みょうこうが西統連邦の魚雷攻撃を受け航行不能になってから10分がゆっくり経過していた。あの攻撃で無傷だった乗組員たちが艦内の消化用ホースを使って炎を消化しようと試みていた。しかし、みょうこうの燃料である石油を受け取った炎はその勢いを止めぬまま燃え広がっていた。みょうこう後部の艦内には、海水が浸水し亡くなった乗組員が海水の上に浮いてした。
第2話 命の尊さを知る者
護衛艦みょうこうの艦橋。中田は艦橋の生きている無線機を使い懸命に救助を求めていた。しかし、人間からすればここは広大な日本海。救助船舶が到着するには相応の時間が必要になる。
「こちら護衛艦みょうこう艦長!中田!本部!応答せよ!繰り返す!」
中田は、無線機に向かって呼びかけ続けた。その時、ザーザーっという無線機の雑音が止み無線機から男性の声が聞こえてきた。
「こちら舞鶴海上本部。返事を求む」
「!!こちら護衛艦みょうこう艦長、中田…!」
「な、中田一佐!?ど、どうしたんですか!?」
「派遣された現場海域を潜航していた西統連邦の潜水艦から攻撃を受けた…。現在、機関は完全に停止……浮いてはいるものの航行は不能。負傷重傷者ともに大多数出ている……至急、救助を求める!!」
「わ、分かりました……!しかし…舞鶴基地からその海域となると……救助が到着するのは2時間以上です……」
「クッ……。あ、」
中田は何かひらめいた表情で再度無線機を取る。絶望が目に浮かんでいた中田だが、今は希望が浮かぶ目をしている。
「ち、近くに訓練航海中の護衛艦は!」
「は、はい!えっと……」
無線機から、紙をめくる音がサラサラと聞こえてくる。しばらくして返事が入ってくる。
「えっと、その現場海域から300マイル(約30万キロメートル)先の海域を、佐世保基地から訓練航海に出ている護衛艦”あきづき”が航行中です。」
「あきづき……直ぐに救助を要請してくれ!乗組員270名以上の命がかかっている!」
「は、はい!分かりました!」
中田は、無線機を手から落としその場に座り込む。彼の目には、潜水艦への激しい憎悪が宿っていた。
「絶対に……絶対に……許さない……」
みょうこうのいる海域から300マイル離れた海域。この海域も、青い空が広がり穏やかな海が広がっていた。海上本部の言う通り、この海域を航行している1隻の船がいた。
日本国 海上自衛隊 護衛艦”あきづき”
護衛艦あきづき艦長 矢野賢治
矢野は艦長席の隣に立ち、艦首を眺めていた。そんな矢野に1人の乗組員が海上本部からの要請を伝える。
「艦長、舞鶴基地の海上本部から救助要請です。この海域から300マイル先の海域に、護衛艦みょうこうが西統連邦の潜水艦から攻撃を受け航行不能になっているとの事。」
「何?西統連邦の潜水艦が攻撃してきたのか?」
「はい。そのようです。」
矢野は1つのため息をつき呆れた表情で艦長席に座り足を組んだ。
「戦争でもしたいのか……あの野蛮国家は……。」
彼は、艦長席の横にかけてあった無線機を取り艦内放送で全ての乗組員に指示を出す。
「艦長から全ての部署へ。本艦はこれより、訓練航海を中止し護衛艦みょうこうの救助に向かう。みょうこうの乗組員を受け入れる用意をしろ。」
無線機を切り、今度は航海長に指示を出す
「航海長、取舵30度。速力は40ノットを維持せよ。」
「了解。取舵40度!ヨーソロー!!」
あきづきの艦首は少し傾き、みょうこうのいる海域に向けて航行していく。
2時間後─
艦橋で慌ただしい動きがあった。
「艦長!あれ!」
「むっ……なってこった……」
あきづきの艦橋から見えたみょうこうは、まさに絶望的だった。海水がみょうこうの艦内にさらに広がり船体が大きく左に傾いていた。みょうこうの乗組員たちが海に落下しているのも分かった。
「艦長!このままではみょうこうは……!」
「…沈むのも時間の問題だ……!本艦はこれよりみょうこう乗組員の救助活動を開始する!全乗組員は救助活動に専念せよ!!」
あきづきは、みょうこうのすぐ近くまで船体を寄せる。あきづきの右舷船体の側面には、折りたたみ式の乗艦用階段がある。すぐにそれを展開し、あきづきの乗組員が海に浮くみょうこうの乗組員を次々と救助していく。
「大丈夫ですか!手を伸ばしてください!」
「あぁ……」
この時、あきづき乗組員の手を取ったのはみょうこうの艦長である中田だった。中田は乗組員に引っ張られ階段下のボートに乗せられた。
「!!中田艦長であられますね…!」
「あぁ…そうだ。貴艦の救助に感謝する……」
その後、みょうこうは轟音と、亡くなった数人の乗組員と共に暗黒で冷たい海底へと姿を消していった。中田は、肩にタオルをかけあきづきの艦橋を訪れる。
「中田一佐。ご無事で何よりです。」
「矢野二佐…。貴艦の救助に感謝申し上げる……」
中田は矢野に向かって一礼する。矢野は、それを遠慮するように中田を気にかける。
「いえ、とんでもありません……。中田一佐、本部からの救助要請と共に、西統連邦から攻撃を受けたと報告がありました。」
「あぁ…そうだ。偵察哨戒機の報告では領海侵犯を警戒すべきは駆逐艦だと聞いたが…いたのは潜水艦だった。1回目の潜水無線による警告を行ったが無視、2回目はデコイによる警告を行ったが…攻撃を受けた……その後、潜水艦がどうなったかは分からない……」
「……西統連邦の奴ら……一体何を考えているんですかね……」
「さぁな。あの野蛮国家の事だ。どうせ汚い手口を使っているのだろう。」
その後、あきづきは舞鶴基地に帰投した。日本国民は今、他国の攻撃により数十人の自衛官が亡くなった事を知る由もなくいつも通りに生活していた。もちろん、亡くなった乗組員の親族は、愛する人がもうこの世には存在していないと言うことなんて知らずに生活していた。日本政府は海上自衛隊から報告を受け、すぐさま西統連邦に緊急の国家的外交を申し出た。しかし、西統連邦は外交に応じる事はなく日本の一方的な外交願いだけで幕を閉じた。亡くなった乗組員達は、今も尚、あの海域の海底でみょうこうの残骸と共に暗黒で沈黙の海底に眠っている。
コメント
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ほんとに第2章出てるじゃんw