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海上自衛隊の護衛艦みょうこうが西統連邦の潜水艦に撃沈されてから3日が経過した。相変わらず外交に応じない西統連邦に対して日本政府は徐々に警戒を強めていった。いつなんどき日本の領海に西統連邦の軍艦が現れるか分からない状況に日本政府は海上自衛隊の全艦隊に※海上警備行動を発令した。また、米海軍の艦艇も日本海域に多く展開し、日本海域防衛の要が揃っていた。
(※海上警備行動とは、日本の海洋における他国の脅威に対し国の安全と国民の安全を最優先決定事項とし、海上自衛隊に警備行動を発令する。この発令が出ている中では、海上自衛隊は最悪の場合は武器の使用が許可される。)
第3話 それでも海は優しく吠える
6月4日 午前10時30分。日本海域西部。ここに2隻の軍艦が航行していた。
日本国 海上自衛隊 護衛艦たかなみ
米国 米海軍ミサイル駆逐艦 カーティス・ウィルバー
日本政府から海上自衛隊に海上警備行動が発令され、西統連邦への警戒を強めていた頃だった。この日、米海軍のミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーと海上自衛隊の護衛艦たかなみが合同で沖縄南部の警戒に当たっていた。この時期は梅雨前時期ということもあり、小雨程度の雨が降り注いでいた。
護衛艦たかなみ 艦長 寒竹茂
寒竹は、たかなみの横を航行するカーティス・ウィルバーを横目で見ていた。カーティス・ウィルバーのマストには米国の国旗が掲げられ米海軍の圧倒的存在感が漂ってくる。現場海域を20分ほど航行していたその時であった、たかなみのソナーが艦影を捉える。その情報はすぐにソナー室から艦橋に報告される。
「ソナー室から艦橋へ。ソナーに感あり。本艦から5キロ離れた海域に潜水艦のビーコン音あり。」
寒竹は、微笑み艦長席を立ち上がる。
「おいでなすったな……。」
彼は、すぐに艦橋を出て廊下を歩く。彼が向かったのはCICだった。CICとは”Combat Information Center”の略で日本語で”戦闘指揮所”という。ここは文字通り、護衛艦における対水上、対潜、対空戦闘を指揮する場である。寒竹はCICの艦長席に座り艦ロゴの入った青い帽子の上から黒いヘッドホンをする。
「こちら寒竹。CICより総監する。ソナー室、現在のソナー探知位置は?」
「こちらソナー室。現在も目標に変化なし。しかし、ビーコン音は継続的に探知しています。おそらく、本艦とカーティス・ウィルバーの位置を把握しているものと思われます。」
「やはりか。カーティス・ウィルバーにも状況を共有せよ。」
「了解いたしました。」
たかなみは、ソナーの探知情報をカーティス・ウィルバーに共有した。共有した情報はカーティス・ウィルバーのCICにインプットされていた。
ミサイル駆逐艦 カーティス・ウィルバー 艦長 フランシス・F・ラングラー
「キャプテン(艦長)、TAKANAMIよりソナー探知状況の共有がありました。」
フランシスは、フッと息をつき微笑む。
「相変わらず親切なのが日本人だな…。大丈夫だ。本艦でもソナーは探知している。ここから南西5キロの海域だろぅ? 」
「本艦はこれよりTAKANAMIと共にソナー探知海域に向かう。航海長、TAKANAMIの後ろを航行せよ。」
たかなみが加速し、カーティス・ウィルバーの前に出た。カーティス・ウィルバーはたかなみの真後ろを航行していく。現場海域に向かうにつれ雲行きも怪しく、かつ雨も強さを増している事に不気味さを感じる。そして、2隻の軍艦は現場海域に到着した。何も無い海域に見えるが、たかなみとカーティス・ウィルバーのソナーはしっかり潜水艦を捉えていた。寒竹は、早急に指示を出す。
「CIC、艦長より各員各部に達する。本艦はこれより西統連邦潜水艦に接近する。海上警備行動が発令されている。もし、西統連邦の潜水艦が攻撃してきた場合は自衛権行使のため攻撃を実行する。総員、気を抜くな。」
たかなみは、潜水艦の潜航している海域に向かってゆく。艦内は静まり返り、CICの時計の秒針がチックタック、チックタックと響く音を奏でていた。ソナー員が近づくにてれカウントダウンを行う。
「潜水艦直上まで、5秒……4秒……」
「3秒……2秒……」
「1秒……。潜水艦直上、通過します。」
たかなみは、西統連邦の潜水艦の真上を航行していく。そうして、完全に上を通過する。だがその時、西統連邦の潜水艦が魚雷発射管を開く。ソナー員はすぐに魚雷発射管の開口音を探知し報告する。
「ソナー室よりCICへ!魚雷発射管の開口音を探知!」
「……ッ!!やはり喧嘩腰だったか……。総員!戦闘配置!対潜戦闘用意!!」
たかなみは、舵をきり潜水艦から離れて行く。後方にしたカーティス・ウィルバーも潜水艦の魚雷発射管開口音を探知していた。
「キャプテン!西統連邦の潜水艦より魚雷発射管開口音!!」
「チッ……。喧嘩を売るなら買ってやろう……。対潜戦闘用意!たかなみに魚雷を近づけさせるな!!」
潜水艦は、たかなみに向かって4本の重魚雷を発射した。長く重量のある魚雷が海上を航行しているたかなみに向かって潜航していく。
「ソナー探知!潜水艦が魚雷発射!魚雷4本!本艦に接近中!!」
「クッ……!この距離ならデコイは使えない……!航海長!取舵いっぱい!魚雷をかわせ!!」
カーティス・ウィルバーはカバーしようとしたが、距離が近く間に合わなかった。4本の重魚雷はたかなみの側面に全弾命中する。
「うわぁぁぁ!!!!!」
たかなみの側面には巨大な穴が開き海水がものすごい勢いで艦内に浸水していく。海水は、あっという間に広がりCICにまで到達する。
「クッ!!総員、離艦せ……!!うわぁぁぁ!!」
寒竹が無線で艦内の全部署に離艦命令を出そうとしたが、鉄の扉を突き破って勢いよく入ってきた海水に飲み込まれてしまった。CICの浸水した海水の上には、一つの艦ロゴが入った帽子がただただゆらゆらと浮いていた。