テラーノベル
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短編読切。
衝動書きです
続きは出ない、果たして完結となるのか
短編練習です、下手でも許してね
割と緩めの百合。想ってるだけ
ではどうぞ
俺がその人と会ったのは、
新月の日だった。
春の始まり、
どこかじっとりとした空気。
真夜中、特にやる事もない俺は、
目的もなく夜の街を彷徨い歩いていた。
俺はヴィランだ。
普段、魔物を操り街を襲う側。
気が緩んでいたのだろう。
気付けば、周りを魔物に囲まれていた。
周りの悲鳴が響く中、
一掃するか、従わすか
のんびりと考えている最中。
一人の少女が躍り出た。
淡い金髪のボブに、白い目の少女。
星の光を浴びて、魔物に向かう。
その姿が異様に気になった。
よくいるヒーロー。
他と何ら変わりのない。
きっと、これは恋だったのだろう。
俺は、ヒーローに恋をした。
【拝啓、大嫌いな貴方へ。】
あの少女は朝霧楓と言うらしい。
“アサ”と呼ばれ、
親しまれているあの街の“ヒーロー”。
それから、ヴィラン活動をする傍ら
あの街に行き、朝霧楓を見る事が多くなった。
と言うか無意識で見ていたんだと思う。
ヴィランで集まった時に言われる位には。
「リコリス〜」
巨漢にニヤニヤとした顔のまま
話しかけられる。
「何だ阿呆ヅラ」
「言い方酷くね〜?」
「チッ」
「うーわ舌打ちしたよこの子!!」
馴染みのヴィラン、シラク。
赤い短髪に黒い目の巨漢。
一応、幼い頃からの知り合いだ。
「で、何の用だ」
「せっかく話しかけてんのに
そんな不機嫌なんなよぉ」
「俺はお前ほど暇じゃないんだよ」
「やだ口が悪いっ!お父さん悲しい!」
「誰が娘だ誰が。」
ため息を吐くと、
シラクは腰に手を当てて話し出す。
「いいんだな!俺は気づいているんだぞー!」
「何がだよ」
「リコリスがとあるヒーロー気になってるの」
…ヒーロー…
「…あぁ、朝霧楓か」
「ほらフルネーム覚えてるー!
激レアじゃん!!」
「うっせぇ」
確かに気になってはいるが…そんなにか?
「お前普段名前とか全然覚えてないじゃん」
「これは恋では…!?」
「うっせぇつの、騒ぐな」
「騒いでたら面倒なのが来る」
「誰が面倒なのやって?」
後ろから一人のしかかってくる。
情報通のヴィラン、ランカ。
紫髪のポニーテールに金色の目、
サングラスを掛けた少女。
「あーほら来たじゃねぇか」
「そんな害虫みたいな扱いせんといてや」
「僕は面白そうな話が
気になって来ただけやで〜?」
「それで集ってくる辺り害虫だろ」
えー、と笑うランカ。
「んで何々?
遂にリコリスに青春が来たんか?」
「気になるだけだ」
「またまた照れちゃって〜」
変わらずイジってくる二人。
「大体、ヴィランである以上
青春なんて滅多に出来ないだろう」
そう言うと二人は一瞬顔を見合わせ、
シラクは苦笑を、ランカは再度
揶揄うような笑みを浮かべる。
「いや〜、リコリスなら
いけるかもしれへんやん?」
「そうそう、父さんとしては
青春送って欲しいのよ」
「娘じゃねえっつってんだろ」
「ほら、そろそろ会議始まるぞ。
さっさと座れ」
「へーい」
「はーい」
離れるリコリスを見てランカと話す。
「…青春送って欲しいけどなぁ」
「まぁムズイやろなぁ、
当の本人があの調子やし。
…別にしてもええと思うけどなぁ」
「まだ14歳だもんね…
…少しでも、幸せになってほしいなぁ」
始まりはただの気まぐれだ。
またあの街に行き、朝霧楓を見ていた時。
危なそうだったから軽く肩を引っ張っただけ。
…それなのに。
「さっきはありがとうございました!」
「あの、お名前聞いてもいいですか!?」
「…」
…どうしてこうなった?
「アサおはよー!」
「おはよ〜」
道端を歩く子供に声を返す。
私は朝霧楓。
一応ヒーローやってる者です!
…誰に言ってるんだろ?まぁいいや
いつも通り巡回中。先輩からの連絡を受けて
移動すると、いっぱいの魔物が。
「多すぎませんか先輩!?」
「口を動かすより手動かせ!!」
即答された…
何とか全部退治し、
街の人達もちらほらと戻ってくる。
「…異様に多かったですね」
「ヴィランの仕業…?」
「ヴィランなら姿表してるだろォ」
「少し異常な自然発生と見るべきかしらね」
そう口々に答える先輩達。
姉弟でやっているベテランヒーロー、
アップの黒髪に紫色の目の女性、
霜月紫音、通称オトと
黒髪短髪にオレンジ色の目の男性、
霜月日向、通称ヒナタ。
皆には月姉弟と呼ばれています。
「異常な、ですか」
「何もなしにこの量は珍しいからねぇ」
「もう少しは警戒しとけよ」
はい、と返事する直前。
どこからか魔物が現れ、襲ってくる。
「ッわ、!?」
咄嗟に身を守る。
ぐい、と引っ張られ体が後ろに傾き、
引っ張った人が魔物を蹴り飛ばす。
「…へ」
…つ、つよくない…!?
ギリギリでその人を見ると、黒いフードを
被っており、白髪が微妙に出ている。
と、取り敢えずぜんぶ倒さなきゃ!
戦闘が終わり、
報告を先輩に頼んでさっきの人を探す。
ありがとうも言えてないし…
それに、とっても強かったから気になって。
道の端の方、その人は電話をして立っていた。
徐に歩き出し、
去ろうとするその人の腕を掴む。
その人は不思議そうにこちらに顔を向ける。
「あ、ごめんなさい!」
直ぐに手を離し、真っ直ぐ顔を見る。
襟足長めのウルフカットに赤い目の少女。
「さっきはありがとうございました!」
「あの、お名前聞いてもいいですか!?」
勢いに任せそう言うと、
少女は少し眉を顰めて口を開く。
「…俺の名前、か?」
はわ…話し方かっこいい…!!
「あー…」
「…蓮月夜だ」
「えと、じゃあ夜ちゃん!」
「私は朝霧楓だよ〜!楓って呼んでね!」
「…おぉ」
少したじたじになる夜ちゃん。
「さっき蹴っただけで魔物飛んでったの!
めっちゃ強かったね!」
「夜ちゃん何かしてるの?」
「…まぁ」
「昔ヒーローに憧れてたんだよ」
「それでまぁ…鍛えた」
「それであれなの!?すっごぉ…」
そう話していると、
連絡デバイスから振動が伝う。
見てみると、先輩からの要請連絡だった。
「ごめんね、行かなきゃ…」
「ここで会えたのも何かの縁!
また話そうね〜!」
「…あぁ」
手を大きく振りながら走り去っていった。
あれから。
朝霧楓…楓と会う度に話すようになった。
話して、やっと自覚した。
俺は、楓に恋をしている。
楓は、正にヒーローを
体現したような少女だ。
底抜けに明るく、優しく、素直で純粋。
酷く眩しく、…羨ましい。
「夜ちゃん夜ちゃん!」
犬のように懐いてくる楓。
共にいるのは楽しかった。
ただ、
…何だか、太陽に身を灼かれるような、
自分が立っている影が消えていくような、
感覚がした。
会えば会うほど、話せば話すほど、
好意が増えると共に、
妬ましい、と言う気持ちも増えていく。
いくら手を伸ばしても、
太陽には触れられない。
共にいられない。
俺は、
『ヴィランなのだから』
「夜ちゃん?」
心配げに名前を呼ばれる。
「…何だ?」
「…体調悪いの?ぼーっとしてたけど…」
「…いや、考え事をしていただけだ」
未だ心配そうに見て来る
楓の頭を大雑把に撫でる。
にへら、と笑う楓。
「…なぁ」
「楓は…何でヒーローになったんだ?」
そう聞くと、楓は少しきょとんとし、
照れくさそうに笑う。
「あのね、昔ヒーローに助けられたんだ!」
「だから私も、されたみたいに
誰かを救いたくて!」
「…そうか」
愛憎混じる感情を押し込んで笑い返す。
…本当、眩しい。
あぁ、だが。
こうして悩む日々もこれで終わりだ。
一週間後、満月の夜。
ヒーローとヴィランの全面戦争が始まる。
月の光が照らす夜、街を駆け回る。
急にヴィランが動き出した。
あーッ、もう!
「夜ちゃんと話したいのに…!」
魔物を倒しながらそう叫ぶ。
夜、蓮月夜ちゃん。
最近知り合った、大切なお友達であり、
…私の片想い相手。
一週間会えておらず、
今日こそは…!と思っている最中にこれだ。
「ヴィランらしき影発見!」
「アサ、用心しとけ」
「はい!」
先輩にそう声をかけられ、真っ直ぐ前を見る。
その先には、人影が三つ。
紫髪ポニーテールの女性と
赤髪短髪の男性が
黒いフードを被った人を守るように
左右に立っている。
「お、ヒーロー来よったな」
「気づくの早いねぇ」
こちらを視認し、そう話す左右のヴィラン。
紫髪の方が紫音先輩に迫る。
「さ、お嬢さん遊ぼうや!」
「…受けて立つわ」
「んは、それでこそヒーローやな!」
「僕はヴィランのランカ。
よろしゅうな、ヒーロー?」
助けようと動こうとした
日向先輩の元に赤髪の方が迫る。
「君の相手は俺だよ」
「俺はヴィランシラク。
よろしくね、ヒーローさん」
「…チッ」
「アサ、ヘマすんなよォ!!」
「はいッ!」
2人別れた姿を見送り、
残ったフードの人を見る。
「…あぁ。アサが残ったのか」
瞬間聞こえた、聞き慣れた声に一瞬耳を疑う。
嘘だ。きっと、声が似てるだけで_
その人が、フードを取る。
襟足が長いウルフカットに、紅い目。
「…夜、ちゃん?」
その人_夜ちゃんはしっかりと私を見て、
貼り付けたような笑顔を浮かべる。
「今はヴィラン、リコリスだ」
「よろしくな、ヒーロー」
言葉が出ない。
あの夜ちゃんがヴィラン?
あの、私を助けてくれた、夜ちゃんが?
「…ッ、なんで」
「夜ちゃん…は、ヒーローに憧れてたって、」
「憧れてはいたよ」
「だが、結局ヒーローは
救ってくれなかった。
…もう、ただの敵だ」
そう吐き捨てるように言い、
手を広げる夜ちゃん。
「どうした?戦わないのか?」
「ヒーローだろ?
目の前にヴィランがいるんだぞ」
「…夜ちゃんと戦いたくないよ」
「甘い事を」
…分かってる。
私がヒーローで、夜ちゃん_リコリスが、
ヴィランである以上、敵だ。
戦わなければ、いけない。
リコリスの後ろに魔物が並ぶ。
「…誰かを救いたいんだろ?」
「ここに誰にも救われなかった
子供がいるんだぜ?救ってみろよ、ほら」
「出来ないんなら、
ヴィランとしてヒーローを殺すだけだ」
後ろの魔物が動き出す。
戦いの火蓋は、切って落とされた。
地面に崩れ落ちる。
負けた。
途中で他のヒーローが介入したとは言え、
誰1人持っていけなかった。
「…はは…ッ」
そりゃそうか。
ヒーローはヴィランを倒して
平和を取り戻しました、 めでたしめでたしが
一般人に求められてる展開だ。
ふら、と体が揺れて仰向けに倒れる。
「夜ちゃん…ッ!」
泣きそうな声が前の方から掛かる。
直ぐに顔の近くに座り込み、
顔を覗き込む朝霧楓。
目に涙を溜め、今にも落ちてきそうな
それをぼんやりと見上げる。
「…何で泣いてんだよ」
「ヴィランを打ち倒したんだ。喜べよ」
「喜べないよ…ッ」
「血、止めなきゃ…ッ!早く病院にッ」
「もう無理だよ」
散々血が流れた。
何なら片足が真ん中で斬られてる。
それに、魔物の攻撃で傷付いた
一般人を優先するのが普通だ。
この状態で来るヴィランが助かる訳が無い。
終わりだ、これで。
頬に一粒、水が落ちる。
見上げると、
朝霧楓がぽろぽろと涙を流していた。
「…夜、ちゃんは…ッ」
「ヴィランとかッ敵とか以前にッ!
私の大切な人、で、ッ」
「大好きな人なんだよぉ…!!」
「やだよ…置いて行かないでよぉ…」
片手を握って泣き続ける朝霧楓。
やっと分かった。
ずっと、憎らしかった理由。
羨ましかったんだ。
理想のヒーロー像そのままであるこいつが。
救われ、救っている
完璧なヒーローのこいつが。
こいつは…楓は、
ただの“朝霧楓”として、
俺と一緒にいてくれたのに。
「…いい加減、泣きやめよ泣き虫」
掴まれていない方の手で涙を拭う。
「俺は…楽しかったよ。」
「ただの夜として、お前と話すのが。」
「苦しくもあったけど…
それ以上に、救われていた」
そう言うと、楓は泣きじゃくるまま俺を見る。
「でもッ私ッ、結局救えないで…ッ」
「夜ちゃんが、
死ななくていいように、もっと…!!」
「…なら」
「一つ、約束してくれるか?」
こくこく、と何度も頷く楓。
「俺の代わりに…
もっと、色んな人を救ってくれ」
「んで…あの世でも、 来世でも。
会ったら、その話を聞かせてくれよ」
「…うんッ!」
「ぜったい…!!やくそくする!!」
段々、視界がぼやけていく。
…言いたりてない気もするが…いいか。
これ以上の言葉は、きっと楓には重い。
「…頑張れよ、ヒーロー」
この気持ちを伝えるのは、次会った時。
【拝啓、大嫌いな貴方へ。
どうか、幸せで。』
コメント
8件
よすぎる!!!!!!!!ほまにむり、泣くて
泣いた 相模湖できちゃった、やめてほしい!!!!こんな夜にこれみたら泣いちゃう
駄作感はあるけど供養という事で…