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由利が殺されて泣き崩れた日からまる二日。
ルイと連絡が取れなくなった。
外出するにしても、私からの連絡に出ないことは今までなかった。
まさかルイの身にもなにかあったのだろうか?
ニュースを見てもそれらしいものはない。
考えられるのは、ルイは千尋のところに行った可能性がある。
ルイは由利を殺したのは千尋だと思っていた。
私が千尋を殺さないことは十分に知っているはず。
だとしたら、報復に行ったルイは千尋をどうするつもりだったのだろう?
殺さないまでも暴行は加えるつもりで行ったはずだ。
それなのに連絡が取れないのはどういうことだ?
まさか勢い余って殺してしまった?
それで私への償いから自分も命を絶ったとか?
それはないと思いたい。
いくら怒りに染まっていても、ルイはそこまで短慮ではない。
残る可能性は……千尋?
千尋がなにかした?
襲ってきたルイを返り討ちなんて千尋にできるわけがない。
それでも千尋に会ったとしたら、なにかされた。
千尋!あの女!私のルイになにをしてくれた!
おかしい。全て私の思った通りに進んでいたのに、過去の復讐も果たし、千尋の友達も奪い取った。
これだけの人数を殺しながら、警察は私に目をつけていない。
千尋の家庭に不和を埋め込むこともできた。
それなのに、今見たら由利は殺されてルイは音信不通。
どうなってるの?なにか間違えたか?
考えに考えたが、私にミスがあったとは思えない。
寝室から私と千尋の部屋へ行くと、壁一面にある千尋の写真に向かって呟いた。
「千尋。あなた何かしたの?」
その場に座って考えている間に画廊や出版社から電話が来たが無視した。
今の私はそれどころではない。
たしかに今の事態は想定外だ。
だけど私の最終目標はあと少しで達せられる。
踏みとどまっているときではない。
決意を新たにしたとき、スマホが千尋からの着信を報せた。
「千尋。こっちからかけようと思っていたところよ」
喜びで声が上ずるのを抑えながら電話に出た。
「千尋。どうしたの?」
「あなたに話したいことがあって」
千尋の声は落ち着いていた。
「明さんと庭のことでしょう」
「やっぱりあなただったのね……でもそれはいいわ。明さんのことで話したいの」
菜園より千尋は明が大事なことがわかった。
「私もその件ではあなたに謝りたいと思っていたの。あなたは嫌悪するかもしれないけど、昔からあなたに憧れていた。それが再会したら、あなたは明さんのものになって、平穏で幸せそうだった。嫉妬したの。あなた達夫婦に」
「一華……あなたのしたこと、最初は頭にきたけど、時間が経って私も考えが変わってきたわ」
思わず笑が浮かんだ。
「あなたの気持ちは、昔からなんとなく伝わってた。それが今でもあるなんて考えもしなかった。でもね一華、私は明さんを愛しているの。だから過ちを犯したとしても、許して信じていく」
なにを言っていやがる。スマホを握る手に力がこもった。
「もちろん一華のことも。今までのように、これからも友情を大切にしたい。一華と関わっていたい。もう私に残された友達は一華しかいないし」
千尋の声は落ち着いているが、どこか弱々しくもあった。
参っている。やはり千尋は精神的に参っているんだ。
だからこの状況を一刻も早く、とりあえず上辺だけでも自分が納得できる形で終わらせたがっている。
「私もやり直したい。あなた達夫婦と」
「じゃあ三人で話しましょう。実は私のこうした気持ち、明さんにはまだ話していないの。もしかしたらもう気持ちは私にないかもしれない。私より一華の方が好きなのかも。でも伝えてはおきたい。その上で明さんが一華を選ぶなら仕方ないわ。だから一華にもその場にいてほしいの」
願ってもないことだ。
自分の方からわざわざ舞台をしつらえてくれるとは。
本来なら私から三人で会う場を設けたかったくらいだ。
「千尋がそう言うなら立ち会うわ。でも、あそこまでしておいて言うのもなんだけど、本気で壊そうとか思ってないの。明さんもきっと千尋と同じ気持ちのはずよ」
「それが一華の本当の気持ちなの?」
「ええ。いくら妬んでも私はあなたの幸せを願っている。改めて気がついたわ」
その後も私は、千尋に合わせて心にもないことを並べ立てた。
電話を着る頃には千尋の声から安堵を感じた。
三人で会う場所は私の家にした。
「ああ……千尋」
写真を見ながら声を発すると、身体が上気するのがわかる。
「もうすぐ私だけになる」
ダメだ。喜びで我慢できない。
待ちに待った瞬間はもう目の前に迫っていた。
これさえ叶えれば、あとは逮捕されようが死刑になろうがどうでも良かった。
そして二日後。
私の家で三人で話すことになった。
千尋と明は午後八時に私の家へ車で来た。
ナイフを隠し持ちながら二人を出迎えてリビングに通す。
そして千尋の言う「話し合い」が始まった。
「千尋、一華さん、ほんとうにすまなかった」
まず明が謝罪した。
「誘惑したのは私よ。あなた一人が悪いわけじゃないわ」
千尋は黙っている。
どう出るか私は神経を集中して千尋を見ていた。
明が何か話していて、ようやく千尋が口を開く。
「私、今回のことで改めてわかったの。私はやっぱり明さんのことが好き。愛しているの」
この言葉が私の衝動を激しく掻き立てる。
顔に出ないように必死に抑えた。
「ありがとう千尋。俺も千尋を愛している」
もうダメだ。お前は今すぐ死ね。
「ごめんなさい、飲み物をお出しするのを忘れていたわ」
私はキッチンに行こうとして立ち上がると、明の後ろを通りざまに隠し持っていたナイフで延髄を突き刺した。
渾身の力を込めて突き刺した。