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嫉妬
楽屋裏の通路。
人の気配が消えた、角。
「……柔太朗」
低い声で呼ばれて、
振り向いた瞬間――
背中が、壁。
ドン。
片腕が壁につかれて、
逃げ道が消える。
「はやちゃん……?」
驚きより先に、
空気が変わったのが分かる。
「さっき」
視線が、真っ直ぐ。
「誰と話してた」
「え、あれ?スタッフさん……」
「近かった」
「……それだけ」
柔太朗が言い終わる前に、
はやちゃんの眉が、ほんの少し下がる。
「分かってる」
「分かってるけど」
距離が、さらに詰まる。
「見せられるのは、嫌だ」
声は静か。
でも、抑えてるのが分かる。
「俺のだって顔で」
「笑うの」
柔太朗の喉が鳴る。
「……嫉妬?」
「悪いか」
即答。
「控えめにする約束だっただろ」
「今は」
一拍。
「無理」
壁ドンの腕が、
少しだけ緩む。
「嫌なら、言え」
柔太朗は、目を逸らさない。
「……嫌じゃない」
その返事で、
はやちゃんの理性が一段、落ちた。
キス。
短く、でも確実。
逃がさない角度。
離れた瞬間、
額を軽く合わせて、低く言う。
「……これ以上は、戻れなくなる」
「知ってる」
柔太朗は、赤いまま笑う。
「でも」
「追い詰めたの、はやちゃんだよ」
一瞬、はやちゃんが固まって、
次に小さく息を吐いた。
「……主導権」
「取り返されたな」
「まだ」
柔太朗が、指先で袖を掴む。
「完全じゃない」
「続きは?」
「あとで」
二人だけの、
ちゃんとした場所で。
その約束だけ残して、
はやちゃんは一歩下がった。
嫉妬は消えてない。
でも、暴れもしない。
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