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リフェアリー
128
商店街の銀行は、文房具屋の、隣の空き店舗で、開いた。
元は、本屋だった。棚は、空だった。本は、二年の間に、燃料になるか、交換に使われるかして、なくなっていた。空の棚が、壁一面に、並んでいた。
要は、その棚に、三冊の台帳を置いた。
「空っぽだな」瑠衣が言った。
「これから、埋まる」
店の奥に、机を三つ、並べた。三つの机に、三人。会長。権田の枕元の男。どっちでもない御殿の長。三人が、別々に、三冊を書く。
そして、四つ目の机。
四つ目の机には、画面が、一つ。鷺沼の部屋から、線を引いてきた。商店街の発電機は、電気工事の男が直した。御殿の倉庫の燃料で。画面が、光っていた。
「……画面、使うんだ」会長が言った。
「使います。信じないけど」
*
仕組みは、こうだった。
預けたい人が、店に来る。現金を、持ってくる。
三人が、別々に、数える。番号を、三冊に書く。三人の数が合えば、本物。
四つ目の画面にも、入力する。瑠衣が。画面は、計算する。合計。履歴。残高。速い。
でも、画面は、信じない。
毎日、夕方、画面の数字を、紙に写す。一枚。『本日の預金、合計〇〇。件数〇〇。残高〇〇』。
その紙と、三冊を、照らす。
合えば、画面は、今日、正しかった。合わなければ、画面に、何かが入った。
「合わなかったら、どうする」会長が聞いた。
「三冊を信じる。画面は、三冊に合わせて、直す」
「画面を、何のために使うの」
「速いからです。千人が預けたら、三冊で計算するのに、一日かかる。画面なら、一秒。一秒で、大体わかる。大体わかったら、動ける。夕方、紙で、確かめる。確かめるまでは、仮に信じる」
「それ、大剥離の前と、同じじゃない?」
要は、少し、考えた。
「……半分、同じです。大剥離の前も、画面で計算してた。でも、夕方に、紙で確かめてなかった。画面を、ずっと信じてた。それが、違いです」
「それだけ?」
「それだけです。それだけで、大剥離は、起きなかった」
*
鷺沼が、四つ目の画面の前に座った。
「ゼロが、入ってくる。この画面に」
「入ってくる前提です」
「入ってきたら、どうなる」
「画面の数字が、千二十四通りになる。全部、正しい。でも、夕方、紙と照らしたら、合わない。合わないことが、わかる。わかったら、画面を、三冊に合わせて、戻す」
「戻しても、また入ってくる」
「また入ってきたら、また戻す。毎日。ゼロは、疲れない。でも、僕らも、毎日、夕方に、一枚書くだけだ。疲れない」
鷺沼は、画面を見た。それから、画面の横に、小さな窓を、一つ、開いた。
「……ここに、ゼロの動きを、表示する。ゼロが、この画面に入ってきたら、ここが、赤くなる」
「できるんですか」
「ゼロの穴の一つだ。ゼロは、入るとき、必ず、一つ、痕を残す。私が作ったとき、そうした。不正を見つける道具だったから。自分が入ったことを、隠さないように」
瑠衣が、鷺沼を見た。
「それ、穴のリストに、書いてなかった」
「書いた。十七番。君は、読んでいなかった」
瑠衣は、三冊目の穴のリストを開いた。十七番。鷺沼の字。『ゼロは、入るとき、痕を残す。鷺沼の申告による。他の二人は確認できず』。
「……信じるしかないやつだ」
「信じるしかない。だから、確かめる。赤くなった日に、夕方の紙が、合わなかったら、私の申告は、正しかった。赤くならなかった日に、合わなかったら、私の申告は、間違っていた」
要は、うなずいた。
信じたことを、記録する。記録したことを、確かめる。確かめたことを、また、記録する。
*
開業の日、店の前に、列は、なかった。
誰も、来なかった。午前中。昼。午後。
「……来ないな」瑠衣が言った。
「来ない」要は言った。「銀行に、現金を預けて、燃やされる。そんな店に、誰が来る」
「じゃあ、なんで開いたんだ」
「最初の一人を、待ってる」
夕方、日が傾きかけた頃。商店街の入口に、人影が見えた。
担架だった。四人が、担いでいた。黒い作業着の、四人。担架の上に、人が、寝ていた。
要は、立ち上がった。
「……権田さん」
コメント
1件
いやあ、今回のエピソード、すごく好きです。「画面を信じるけど、紙で確かめる」という二重の検証システム、要さんの設計思想が明確で、読んでいて気持ち良かったです。特に「大剥離の前は、画面をずっと信じてた。それが違いです」という台詞、この一言で物語の核心を突いている感じがしました。鷺沼の「ゼロが入った痕を残す」仕掛けも、ちゃんと伏線として機能していて、設定の積み重ね方にニヤリとしました。最後の担架の権田さん、どういう意味なのか…続きが気になります!