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葬儀の日
重苦しい空気に包まれた会場。
祭壇に飾られた写真の中で、ないこは笑っていた。
それが、もう二度と見られない笑顔だと気づくと、胸が締めつけられる。
誰も口を開けない。
ただ、すすり泣きと、静かな読経の声だけが響いていた。
後悔
りうらは、ないくんの隣にいた時間が何気に長かった。ないくんの の疲れた顔も、無理して笑う姿も、全部知っていた。
「りうらが、もっと気づいてあげてれば……」
頭の中で何度も繰り返す。
あの日、声をかけることができなかった。
「落ち着いて」と言うだけで精一杯だった。
本当は「大丈夫?」「しんどいなら休んでいいよ」って言えたはずなのに。
写真に向かって呟く。
「……ごめん。りうら、弱かった」
涙
「僕、あの時『怖かった』なんて……」
そう言ってしまった自分が許せなかった。
本当は、ずっと尊敬していた。
リーダーとしてみんなを引っ張る姿が眩しかった。
でも、あの瞬間だけは、どうしても言葉を選べなかった。
――ないちゃんはきっと傷ついただろう。
その顔を思い出すたび、胸の奥が痛んだ。
「ごめんね、ないちゃん。僕は、唯、守りたかっただけなんだよ……」
声が震えて、手を合わせながら涙が止まらなかった。
沈黙
初兎はずっと黙っていた。
人前では涙を見せないタイプだから、周りからは「平気そう」に見えただろう。
けれど、心の中は嵐のようだった。
「あの時、庇ったらよかったんや……」
後悔が頭を離れない。
ないこは初兎にとって、憧れであり、追いかける目標だった。
「俺、もっと頑張らなあかんわ」って、隣でよく言っていた姿を思い出す。
「ごめんな……俺、弱かった」
声に出した瞬間、初めて大粒の涙がこぼれ落ちた。
自責
「俺、あんなこと言うんやなかった」
いふは、あの日の会話を何度も反芻していた。
「リーダーとしてどうなん?」――軽く言ったつもりだった。
でも、それが最後の一押しになったのかもしれない。
本当は誰よりも信じていた。
冗談を飛ばしても受け止めてくれる人だったから、つい甘えていた。
「……お前、やっぱすげぇ奴やったよ。俺らのこと、全部守っとったんやな」
声を震わせ、拳を握りしめる。
「ごめんな、ないこ」
懺悔
あにきは強いふりをしていた。
みんなの前では涙を見せない。
でも、夜ひとりになると、声を押し殺して泣いた。
「俺も、よう責めたよな……」
厳しく言うことでチームをまとめるつもりだった。
けれど、それはないこに全ての負担を背負わせることになっていた。
――気づいた時には遅かった。
「お前がおらんと、何も回らへんのや……」
その言葉はもう届かない。
ただ静かな空席に響くだけだった。
そして、残された5人
ステージのセンター、ないこのマイクだけが空しくライトに照らされていた。
そこに立つはずだった人は、もういない。
「これから、どうすればええんやろな……」
誰かが呟いた。
誰も答えられなかった。
ただ全員が思っていた。
――あの日、もっと優しくできていたら。
――あの瞬間、手を伸ばせていたら。
後悔は消えず、罪悪感だけが彼らを繋ぎ止める。
ないこの存在は、彼らの胸に永遠に刻まれたまま、決して消えることはなかった。