コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(これが、真実の聖杯?)
お助けアイテム的な存在だって、一目で分かってしまう見た目に、圧倒的な魔力を感じ、私は固唾を飲み込んだ。確かに、危険を冒してしか、取りに行けないアイテムだなあって言うのが伝わってくる。
上からパラパラと砂や、埃が落ちてくるのに、その液体は美しく透き通っていて、ゴミ一つは言っていないようだった。不思議な力で守られていると言ってもおかしくないほど、美しさを保っている。
「エトワール?」
「へ、何?」
「口あいてる」
何て、隣にいたラヴァンに指摘されてしまって、私は無意識に空いていた口を閉じた。恥ずかしすぎる。でも、それくらい魅入られてしまうほど美しい杯なのだ。
「あ、あれを、持って帰るの?水、零れたりしない?」
「大丈夫、大丈夫。多分ね」
「多分って言葉が一番信用ならないのよ!」
私が、ラヴァインの胸倉を掴んで揺さぶれば、ラヴァインは「ごめんって」と、全然謝る気もない謝罪の言葉を並べた。本当に、知っているのか知らないのかよく分からないことをいう、と私は呆れつつも、零れないかだけは心配していた。
もし、真実の聖杯に入っている水が零れたら、杯だけ持って帰っても仕方ないだろうと思ったから。その水を飲んだら嘘がつけなくなるって言うアイテムだし、それで、無実の証明をするわけだから。大切なのは、杯じゃなくて、水の方。
私が、ギャーギャーと、ラヴァインと言い合っていれば、グランツがスッと割って入るように、私の名前を呼ぶ。
「エトワール様」
「何!?」
「お、怒ってるんですか」
と、不安げな瞳で見られてしまったため、私は一旦落ち着いて、深呼吸をした。怒っているわけじゃないけど、感情は高ぶっていた。それは、怒っているカウントに入るんじゃないかっていわれたら、そうなるのかも知れないけど。
「怒ってないわよ。で、ごめん、何だっけ」
「いえ……水は、零れたとしても、聖女の力があればわいて出てきます。というか、それは飲んだら自然と水が湧きます」
「え、え、何それ、魔法みたい」
「魔法の一種ですから」
「そ、そう……」
もの凄く、冷たい目で返されてしまって、何も言えなくなってしまった。
確かに、魔法。魔力は感じるし、この杯自体に、私達では解読できない魔法がかかっているんだろうと、それは、想像ついたのだが。
(グランツって、たまあに、こういう所あるのよね……)
出会った時からそうなんだけど、バカが嫌いというか、自分が正しい事を言っているのに、相手に伝わらないって分かったら、冷めるというか。それが、何故か、他の感情は表に出ない癖に出るから、嫌になる。
私の事馬鹿にしているのか、尊敬しているのか分からないくらいには。
まあ、少し舐められているのだろうなって言うのは、分かるんだけど、それが、グランツだし。
「じゃあ、このまま持って帰っても平気ってことだよね」
「そうですね。ですが、エトワール様は、やることがあるのでは?」
「やること?」
「ほーら、エトワール。聖女として、ここ一帯を水源にしてよ。ここから、人が追い出された理由って、それなんだからさ」
と、私の肩をポンと叩くラヴァイン。
そういえば、聖女の力があれば、ここ一帯をオアシスにすることも可能なんだっけ……もう、色々ありすぎて、忘れていることの方が多いので、その都度色々と言ってくれるのは嬉しい。
私の記憶力が乏しいのではなくて、単純に色々ありすぎたんだ。
(でも、どうやってやるのよ)
魔力量があってもやり方が分からないし、ただの水の魔法って訳にもいかないだろう。だったら、ブライトとかでもいい訳だし。
「ど、どうやって、やれば」
「準備はしてあげるから、その杯から一滴水滴を垂らして、そして、聖魔法をここ一帯にかけるんだよ」
「ひぇ……」
分からない、とつい口に出してしまいそうになったが、どうにか引っ込めて、私は、準備、といって動き出したラヴァインを見ながら、杯の前まで歩く。ご丁寧に台座に乗せられたそれは、光輝いていて、手に取ったら指紋がべったりつきそうなほど、誰がどう見ても、純金の杯だった。触れるのを躊躇うくらいには。
台座の周りをぐるっと回ったラヴァインは、何やら自分の魔力を放出し、準備とやらを行っていた。何をしているのか、さっぱり分からなかったから、見ているだけだったけど、準備を終えた、ラヴァインが、こちらを振向いたとき、ばっちりと目が合ってしまった。
「エトワール、こっちは準備出来たけど、出来そう?」
「ええっと、どうすれば」
「さっき言ったよね?」
「え!あ、うん、出来る、出来るから。睨まないで」
別に睨んでないよ、何て言われて、いや怒ってるでしょ、とツッコミを入れたくなったけど、それも全部飲み込んで、私は言われたとおりにやってみることにした。
ごめんなさい、なんて心の中で謝罪して、杯を手に取る。その瞬間ブワッと、身体の中に何かが入り込んでくるような不思議な感覚におそわれた。魔力の逆流なんて実際あるのだろうか。入り込んでくる感じと言うより、流れに逆らって何かが押し上げてくる感じというか。今まで味わったことのない感覚に、私は、思わずバランスを崩す。
「っと、大丈夫?エトワール」
「え、ああ、うん。多分」
「どうしたの?いきなり倒れそうになって」
「この杯、少し不思議な力を感じるというか。光の魔法と闇の魔法の反発に似たかんじの……魔力が逆流してくるような変な感覚がして」
「変な感覚?」
と、ラヴァインは、不思議そうに私の顔を覗き込んだ後、杯に手を伸ばそうとした。だが、何を思ったのか、途中で手を下げて、私の方を見た。
どうしたのだろうか、と顔を除けば、何やら深刻そうな顔で、唸っている。
「今度はこっちから聞くけど、どうしたの?」
「いや、魔力の逆流……表現は正しいし、ない訳じゃないけど、別に杯に拒絶されているわけじゃないんだよね」
「うん、多分。痛くは無いし。何というか、奥の奥まで入り込んでくるような感じ」
「……うーん」
分からないなあ、とラヴァインはさらに頭を捻らせた。ラヴァインが分からないなら、私が分かるわけないのだ。グランツを見ても、さっぱりといった感じに首を傾げる。
聖女にだけ、現われる現象だったり、なんて考えたけど、一番筋は通っているかも知れない。実際どうかは分からないけど。
「無害……なら、いいんだけど。エトワールに何かったら、俺達があの皇太子殿下に首着られちゃうからねえ」
「た、確かに……」
リースなら、私が死んだらまず、周りにいた人を切っちゃうかも知れない。後追い以前に、私を追い詰めた人に徹底的な制裁を加えるとも思う。
「でも、無害だと思う。嫌な感じはしないし。何か、杯の方から、私に呼びかけてきているような」
「ええ、エトワール頭ぶった?」
「失礼な!ラヴィ、ほんと、失礼すぎる」
私がそういえば、無言でスッとグランツが、剣を抜いたので、そうじゃない、そこまで言っていないと、私の感情を何一つ代弁できていないからと、グランツを止めた。本当に、すぐ手が出そうになる、グランツは、私がいないと、本気でラヴァインとやり合っていそうだ。でも、ラヴァインとグランツが戦ったらどっちが勝つか気になるところでもある。だって、ラヴァインは、魔法がなくても、そこそこ強いわけだし、自分に魔法を付与する分には、グランツだって切れないわけだし?
なんて、また話がそれることを思いながら、私は、グランツと、ラヴァインを見た。二人睨み合っている(睨んでいるのは、グランツだけなんだけど)ので、このままじゃ、話が進まないと、私は、少し不安はありつつも、先ほどいった、儀式的なものを始めようかと思った。
ここら辺に水が、オアシスが出来れば、住める人も出てくるかも知れないし、何よりも、私のイメージアップにも繋がる。
まだ、私の事を聖女だって思っていない人も、さすがに、オアシスを作れば、それは聖女しか出来ないことだって認めてくれるかもだし。
エトワール・ヴィアラッテアや、皇帝陛下のせいで、私のイメージはさらに悪くなっている一方だった。そういう点に関しては、エトワール・ヴィアラッテアは、トワイライトに手を出していないなあと思う。彼女は、本来、トワイライトを恨むべき人間だったのに、何故だろうか。
(私を恨んでいる理由って、私が順番抜かし、したからだとは思うけど)
本当に理由はそれだけなのだろうか。だったとしたら、本当に迷惑な話だけど。でも、それが、エトワール・ヴィアラッテアにとっては、一番嫌なことだったのかも知れない。後は、愛されない自分を知って、愛される私に嫉妬しているっていう理由か。
(でも、それって、努力すればどうにかなるよな……)
努力すれば、何でも出来るわけじゃ無いけれど、エトワール・ヴィアラッテアの本来の性格を考えると、無理なのかなあ、何ても思う。
私は、色々とぬぐえない中、杯をギュッと握りしめた。とぷんと、中の水が揺れて、跳ね上がる。
「これって、またわいて出てくるんだよね」
「大丈夫だよ。エトワールだから、やっちゃって」
と、何処か、軽いノリで、ラヴァインが言うので、私は、大きなため息をつきつつも、彼を信じてみようと、もう一度杯を握り直す。
そして、ラヴァインが準備してくれた、薄くひかれた魔方陣の真ん中で、私は杯から一滴水を垂らした。すると、足下にまばゆい光の魔方陣が浮かび上がり、それらは、奈落の底を一気に花畑にする。色とりどりの花が咲き乱れ、風が吹き付け、花弁が舞い上がる。そうして、ポツリ、ポツリと頭上から水滴が降り注ぎ始めた。それは、温かい、恵みの雨で、私は杯を握りしめながら、上を見上げた。