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(――聖女の力?)




他の魔術師でも、出来るんじゃ無いかと文句を言いたくなったが、確かに、私の魔力がそこら中から感じられる。でも、全て吸い取られた感じじゃなくて、ちょっとの力で、私がここ一帯、奈落の底を花畑に変えたのだと、すぐにでも分かった。

降り注ぐ恵みの雨は温かくて、少し甘い気もした。




「ほんとに成功するもんだね」

「待って、成功しないと思ったの?」

「だって、俺がやったのは、エトワールの魔法を活性化させる魔方陣だし。実際に、魔法を使ったのは、エトワール。俺は、その手助けをしただけ。全部、エトワールの功績ってこと」

「じゃあ、少ない魔力で、魔法を展開させられたのは?」

「それも、エトワールだよ。本当に、自分のこと何にも知らないんだね」




と、プッと馬鹿にするように笑うラヴァインの頭を、グランツは、剣の柄で殴っていた。まあ、今のは、代弁といっても良いだろう。


痛そうに、ラヴァインは頭を抑えつつも、足下に広がった花畑を見て、優しく笑ったと同時に、その場に倒れ込んだ。




「あー良い匂い」

「びっくりしたじゃん。つかれて、倒れたのかと思って」

「俺が倒れる?甘く見られたねえ。でも、つかれたのは本当。それに、この花畑で眠ることが出来たら最高かなって思ったのも、本当」

「死亡フラグ?」

「何それ」




私の言葉に対し、ラヴァインは、素っ気なく返しつつも、草花の上に寝転がって、うーんと、猫が伸びるように手足を伸していた。相変わらず、長い手足だなあ、と見ながら、私は、自分の魔法によって創り出された、奈落の花畑を見渡す。一滴、真実の聖杯を垂らしただけでこんなことになるとは思っていなかった。魔法って凄いなと思うと同時に、真実の聖杯って、実際、飲んだ人に嘘をつかせなくするアイテムじゃなかった? って、思ってしまう。他にこんな効果があるなんて、誰も思いもしないだろう。




「今、エトワールが考えてること当ててあげよっか」

「何、よ……」

「何で、真実の聖杯が、嘘をつかせなくするっていう効果以外に、こんなものがあるのかって、不思議に思ってる」

「え、え、え、アンタも心読めるわけ?」

「アンタもって、何?他にもいるって言いたいの?」

「い、いや……ちょっと、言葉間違っただけじゃない」




実際に、ベルがそうなんだけど、とは言えずに、私は、目線を逸らすしかなかった。本当にめざとすぎる。

でも、不思議って思っても、仕方ないでしょ、と開き直って、ラヴァインを見れば、彼は、うとうととし始めていた。つかれていたのだろうかと思ったが、ここで寝られても、と、雨も降っているし、風邪ひくんじゃ、と近付いてみれば、起き上がった彼に、ぐいっと腕を引かれ、彼に覆い被さるようにして、倒れてしまう。




「ちょ、ちょっと何するのよ」

「エトワールが俺の腕の中にいる」




スンッと、私の髪に顔を埋めて、ラヴァインが嬉しそうに声を上げる。

いきなりの行動に、驚いてしまったのは、勿論、幸せそうに、ラヴァインが私にすり寄ってきたので、逃げることも拒むことも出来なかった。嫌じゃなかった。というか、懐かしい気持ちになったから、尚更振りほどけなかったというか。




(何でだろ……)




花の匂いと、ラヴァインの、チューリップの香りが混ざって、なんとも言えないフローラルな匂いが、鼻孔をくすぐるのに、それがちっとも嫌って感じなかった。不思議と、それがよく覚えているものだって、身体が認識してしまったような。




「また、エトワール様にっ!」




そう、突っかかってきた、グランツに対して、ラヴァインは、しーと人差し指を口元に当てると、グランツに対して、まるで黙ってろと言わんばかりに、ニヤリと笑った。グランツは何か言いたげに、彼を見つめていたが、グッと拳を握ると、それ以上は何もいってこなかった。珍しく、素直だなあ、なんて思いながら、ラヴァインに目を向ければ、彼は、これ以上幸せなことはないといわんばかりに私を見つめていた。

満月の瞳が、私を射貫いている。




「ラヴィ?」

「このまま、ずっと抱きしめていたいくらい」

「そんなことしたら、私のやりたいことが出来ない……から」

「そりゃそうだ」




と、ラヴァインは、クスクスと笑う。冗談で言ったつもりはないけれど、彼には半分冗談に聞えたと顔がいってきているようで、本気で捉えてくれていないのかな、とちょっぴり悲しい気持ちにもなる。でも、それがラヴァインって男だし。


多分、だけど。


さくっと、草花を踏みしめて、立ち上がったラヴァインは大きく背伸びをした。紅蓮の髪は少し長くなっていて、風で揺れ、そして、降り注いだ雨にしんなりと濡れて、額に髪が張り付く。




「何?見惚れた?」

「見惚れてないわよ、別に……てか」

「てか?」

「何でもない」

「えー教えてよ。気になるなあ、エトワールってそうやってよく隠すから、余計に気になっちゃうんだよ」

「ずっと、気になっとけば良いじゃない」




私が冷たく突き放せば、彼は、抗議の声を上げる。そんな声で言われても、いいたくないものはいいたくないのだ。




(言うわけないじゃん……)




そんなことで惚れていたら、あと何回惚れれば良いんだって、口が裂けても言えなかった調子に乗られるのも嫌だけど、何というか、いってしまったら、それはそれで、リースを裏切るような感じだから。

まあ、惚れているというか、ちょっとは見直したって言う意味ではあるんだけど、それでも、恋愛的には見ていないしって、言い訳をしたい。

私も立ち上がって、服についた草を払いながら、落としてしまった杯を手に取った。確かに、零れ出てしまった水は、私が杯を手に取った途端あふれ出して、とぷんと涼しげな音を鳴らす。

本当に魔法って不思議だし、このお助けアイテムは、実は、効果が二つついていますって言うオチなんじゃないかと、いつも思ってしまう。現にこの杯がそうなんだし。




「うぅぅ……」

「何唸ってんのさ」

「いや、本当に、奥深いなって思って。ほら、杯の水を一滴垂らしたら、一面がお花畑になって。聖女の力があってしても、ここまでなるのかなって思ったから」

「俺達も、その原理はよく知らないよ。世の中、知らないことだらけじゃん」

「いや、そうなんだけど……さあ……はあ」




ラヴァインに言われたら、もうそのままの通りだなって思った。私達は知らないことだらけの世界で生きているわけだし、世界には謎が溢れているわけで。知らないことの方が多いだろう。逆に全部知っていたら知っていたで、怖すぎるわけだし。

分からない事だらけだから、互いに、探り探りやっているという感じなのだろうか。




「グランツも、詳しいことは知らないんだよね」

「はい。まあ、そうなりますね」

「そう……」

「基本的に、その杯や、万能薬は、人智を越えたものなので、理解しようとする方が難しいです。研究が長らくされても、きっと全てを解き明かすことは出来ないでしょうから」




と、グランツは静かにいって目を伏せた。


グランツの言うとおりだと思う。まず、これらのお助けアイテムはすぐに手には入るものじゃないし、沢山存在しているわけじゃない。だからこそ、研究がおくれているのも納得できる。そもそも、手に入っていないんじゃ研究のしようがないし。

降り注ぎ続ける雨を浴びながら、ひとまず、私の仕事は済んだのかな、と二人をみる。どうなったら、成功とか全然分からないから、ラヴァインやグランツ頼りになってしまうけど。




「こ、これでいいのかな」

「何で、カタコトなのさ」

「だって、分からないから、分からないもん!」

「ああー、駄々こねないでよ、エトワール。多分、地上に上がれば、そこら辺がオアシスになってるんじゃない?」

「適当すぎない!?」

「だって、そりゃ、俺達は、聖女じゃないわけだし。エトワールが分からない事を、分かるって言うのも、ねえ」




こういう時だけ、意気投合するのか、うんうん、とグランツは頷いていた。全くどっちの味方か分からない。

二人の言葉は全然信用ならないけれどさっきの一瞬の出来事で、聖女としての力が発揮できたのだというのなら……と私は、杯を握る。ギュッと握れば、形を変えてしまいそうなほど、杯は、柔らかく感じた。

そもそも、この真実の聖杯を持ち帰ろうって思ったわけは、自分の無実を証明するためであって、こんなことをするためにきたのではない。でも、ついでと言えば、ついでで、これで少しは皇帝陛下の考えが変わるんじゃないかっていう淡い期待も抱いているわけで。




(大丈夫……だよね……)




さすがに、私が席を外している間に、リュシオルが殺されている……何てことはないだろうけれど、考えると恐ろしくなってしまい、途端に手が震えてきた。先ほどまではそれどころじゃなかったから、気にしていなかったけど。

すっかり、色んなことに対して遠回りになってしまったけど、このまま帰って、報告して、無実を証明しようと思った。リュシオルの為にも、私の為にも……皆のためにも。




「ラヴィ、グランツ。帰ろう」




私はそう、二人に声をかけて、真っ直ぐと前を向いた。下を向いて何ていられないから。

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