途端、分厚い雲の中に小さな穴が出来る。
それは、地球の下付近で
机上に見える靴先の跡を追っていたら
たまたま目に入ったものだった。
それはカタツムリのような速さで、
雲を掻き分け、穴を広げているようだった。
と言っても、やはり僕の爪先程度の穴で。
「うんわ、マジ重すぎぃ!」
「あわわ、危ないよ! 棒ごと、梯子から落ちないでよ!!
「うんうん、健気に頑張るのは若い子だけで十分だねぇ」
「いや、貴方様も手伝って下さいよ!」
その僅かな穴を開けるにも、
小人達にとっては大きな力仕事のようだ。
この速さでは到底、
地球儀から埃を取り除くのは果てがない。
僕は地球儀にかかる雲を、
一大陸分掴んでは埃を払い除けていく。
その間、僕は音がしない空間で一人
身体を動かしていた。
誰かから視線を感じるようなそれを受けながら、
僕は手を止めることはなかった。
わたあめのように柔らかな雲。
それが机上の横で山になる頃。
作業は終わっていた。
「よっし!では、これからスイッチを付けるとするぞ!」
小人の一人が声を上げると、
瞼の向こうから光が生まれたのが分かった。
目を開けると、
灰色に覆われていた地球儀から
暖かな光が溢れ出していた。
「やったわ!直ったのよ!」
「良かったですほんとに。これでやっと、屋敷にもあかりが…」
「わーい!久しぶりの地球だ!眩しい!」
彼らは喜んでいるようだった。
目を閉じれば歓声が。
目を開ければ輝かしい光が。
僕が瞼を開けているときでさえも、
歓声が聞こえてくるようだった。
その光は、地球の内側から発光しているようで
大陸は逆光で見えないが
光の輪郭が、
国を際立たせているようだった。
「ボタンを押そう!屋敷の部屋一つ一つに、明かりを戻すんだ!」
「我々がお手本を見せてあげるべきだ!」
…。
カチッ…。
地球儀から、
スイッチを押すような音が聞こえる。
途端、目の前がパッと明るくなる。
頭上のスポットライトが地球儀を照らしていた。
どうやら、電気室の明かりだったようだ。
「ええ、やっぱり当たりだわ!南半球の大陸は、この階の電気ですわ!」
「さすが…早く、全部のボタン押そう…」
「うんうん、早く屋敷に明かりを戻そう!」
僕は小人達の声に合わせて、
地球儀の浮いている大陸や国を押していく。
カチッ…カチカチ…。
パチ……カチカチッ…。
場所によって音も違うようで、
僕はなんだか光とともに
楽しい気持ちになっていた。
…ペチッ…。
カチッ…カチカチ…。
…。
地球の表側のスイッチを押し終える。
地球の裏側に手を伸ばしたその時。
カランッ…。
コロコロッ…。
コテッ…。
…。
足先に、
僕のガーネットのブローチが落ちた。
けれど僕は、
先に裏側のスイッチを付ける事にした。
なんだか、スイッチを押すのが楽しくて
しょうがなかった。
目の前の光に魅了されながらも、
まだ浮いている国を押し込めていく。
パチッ…。
…。
全部押し終えると、
開けていたままの扉から
廊下に明かりがついているのが見えた。
「屋敷の明かりが戻ったようだね…」
僕は小人達に呟きながら、
彼らの声を聞くために目を閉じる。
…。
…。
「ガーネットだ!ガーネット!赤い宝石だよ」
彼らは確かに
そう呟いていた。
「これは本物か…?艶がいいな」
「当たり前ですよ!お偉い様が住んでいた屋敷ですよ?」
「彼のような薄汚い人形にも、宝石をあしらうくらいの余裕はあったでしょう…」
「こらなんてこと言うのよ。彼は動くんだから、人形ではないはすよ」
僕は、言葉にならなかった。
「いやー、これで万事解決ってね!明かりが戻ればまた、宝石探しにいそしめるぞ!」
「ほんとだっつーの。手始めにこの宝石から使ってしまうか」
「そうね、赤があれば飾り付けもいい感じに出来そう}
「元から狙っていた通り、持って行こうか」
小人達は、
僕のブローチを盗む計画を話していた。
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