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#長編
アルベルトの言葉に、目を疑った。
その右の薬指には私と同じデザインの指輪が収まっている。思わず二度見した後、背筋が凍り付いた。
「はああああああああああああああああああ! 最悪。最悪です!」
「お前っ……、そこまで言うか!」
「最悪です、無効にしたい! 解約そして弁護士を呼んでください!」
「……規格外なことばかりしやがって。大方契約術式の誤作動だろうな」
「じゃあ、今すぐクリーンオフしてください!!」
「うるさい奴だ。しかし……契約の媒体はなんだ?」
「!?」
ハッとなった。
契約の媒体。アルベルト様とは契約書を交わしていない。つまり契約書を交わさなくても縁を繋ぐ何かだとするのなら、間違いなく前世で渡されたらラフェドの指輪だ。
(でもこれって何か思い出す切っ掛けになるんじゃ?)
指輪のことを話してそれでも知らない、覚えていないのなら踏ん切りも付く。いつまでも前世のことに囚われているよりも、白黒はっきりしたほうが案外スッキリするかもしれない。
「指輪。生まれたときからアイテムボックスに入っていたのよ。それがラフェドと関係する物なんじゃない? キットソウヨ」
「は? あー、そういえばこの地に迎える時に、お前の国の結界を内側から壊したアレか」
「そう。……これに見覚えは?」
アイテムボックスに格納されていた指輪は文字化けして黒ずんでいた。手に出した時は黒ずんだ色だったが、今は銀色に煌めいている。
「確かに俺の魔力が籠もっているが、覚えはないな」
考えるまでもなく即答されたことに少しだけ胸が痛んだ。でもそれが全てだ。
「……そう。私にとっては祖国から逃げられた切り札だったのだけれど、もう使うこともないから契約解除と一緒に指輪を返すわ」
「な、なんでそうなる!? せっかくだし……持っていろよ」
なぜか必死になるアルベルト様の反応に困惑してしまう。
「でも不慮の事故ですし」
「ふざけるな。……いいか、媒体の使った契約はそう簡単に解除できないからこそ、仮契約というものが設けられている。今回はベルナールとの契約に引っ張られて誤作動だったとしても、三カ月は契約解除はしない。無理にすればお前にペナルティーがいく」
「クーリングオフが効かないなんて……面倒な。三カ月……」
「くーりんぐおふぅ?」
小首をかしげるベルナール様の愛らしさに癒されて、少しだけ回復する。
「クリーンオフというのは、契約が締結したあとに一定期間があれば無条件で契約の申請を撤回あるいは解除できる制度ですよ(いろいろそのほかにも細かな条件があるけれど)」
「うっ……僕と……解除する?」
世界の終わりだと言わんばかりに青ざめるベルナー様に、大丈夫と子竜をギュッと抱きしめた。なんと繊細なドラゴンなのだろうと、好感度が一気に上がった。
「しませんよ! ベルナール様は絶対にないですから! お断りしたいのは、アルベルト様だけです!!」
「おい! そこまで拒絶しなくても良いだろうが! 俺だって泣くぞ!」
「え、泣くの!?」
「お前は俺をなんだと思っているんだ!?」
「女遊びの酷そうな放蕩神父?」
「……」
だいたいこの男が泣くのだろうか。仕事においては面倒見が良いのは理解できたが、プライベートは甚だ信じられない。
「……アルベルト様は女癖が悪そうな印象が強いのでつい」
「ついってなんだ? 言っておくが人間との契約を結んだのは、15年くらい前だぞ。それも【使い魔】か【愛人】だ」
(よけいに最悪なのだけれど。私が死んで一年で他の人間と……いや、そう思うのはもう良い)
聞けば聞くほど下種過ぎる上に、私の前世でのことなど全く覚えていない。それともあれは別人だったのか。
「時折芽衣李この名前に心当たりは?」
「?」
知らない。そう顔が告げていた。まったくもって記憶にない、あるいは私が接していたのは彼ではないのだろうか。SF的にある別の時間軸の彼とか。
とにもかくにも眼前にいるアルベルト様はラフェドの名を持つけれど、前世の私と何の関わりがない人違い──そう思うと腑に落ちた。万が一記憶喪失だったとしても、忘れてしまっているのなら、記憶を無理に引っ張り出すこともないだろう。
(前世で縁は消えている。今世で出会ったのはまた別の縁だと思えば良い)
過去の様々な思いを呑み込んで、無理矢理納得した。心はまだ整理が付かないかもしれないが、彼を邪険にするのは辞めよう。
ステータス画面を見る限り、私とアルベルト様との契約は【盟友】。【花嫁】だとか【愛人】よりは遙かにマシだ。
「シルヴィア?」
「……ふう、分かりました。色々私の勘違いだったようです。今まで酷い態度をとって申し訳ありません!!」
深々と頭を下げた。勝手に私が決めつけていたのだ。今まで態度は初対面に対しては酷いものだった。それならキチンとケジメはつけないといけない。
「良いさ、お前にはお前でなんか事情があったんだろう。俺としてはお前と居ると美味い物が食えるし、お前を見ているのは……よく分からないが面白い。だから傍に居る理由を持っていてほしいんだ」
ジッと見つめる眼差しを直視する勇気がまだなくて、軽く目を逸らす。
「そう……ですね。若干、上司と絆を結んだとかで、職場的に大丈夫なのか不安ですが」
それでも笑えた。
私の返事にアルベルト様はどこか嬉しそうに目を細めた。これは悪戯を考えたときの笑みだ。
「まあ、魔物討伐とか荒事でもお前がいれば出動できる。クソ面倒な書類仕事や聖女たちが契約を迫ってくる退屈な日々から脱却できたのは有り難い」
(うわあぁ……結論早まったかな)
さらっと面倒なことが起こりそうなフラグが立ったが、気にしないことにした。契約が結ばれた以上、三カ月は大人しくしておこう。そう思ったのだが、アルベルト様の何か企んでそうな顔を見て、釘を刺すことにした。
「でもいきなり【盟友】だなんて、少し買い被りな気がしなくもないのですが……? 【友人】にしません?」
「大丈夫だ。竜王と相対して生き残っただけではなく、絆を結んだだけで十分お前は他の聖女候補者と違う」
アルベルト様は自分のことのように喉を鳴らしながら笑った。ベルナール様も「うん、シルヴィアはすごい」と手放しで褒めてくれる。
「……!」