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暗闇の奥から現れた久瀬は
壊れた補助装置を無理やり引き剥がし、剥き出しの右腕で一振りの短刀を握っていた。
全身は瓦礫と血に塗れ、その立ち姿はまさに地獄から這い上がってきた亡霊そのものだった。
「久瀬……まだやるつもりか。もう勝負はついたはずだ」
俺はロープを握る手に力を込めながら、視線を久瀬の瞳に固定した。
そこには先ほどまでの無機質な「機械の意志」はなく、ただ一人の男としての、執念だけが燃えていた。
「勝負だと? …和貴、俺たちの人生にそんな綺麗な区切りなんてねえよ。……俺は三和会に拾われたあの日から、自分を殺して生きてきた」
「だが…お前の顔を見たら、思い出しちまったんだ。あの新宿のゴミ溜めで、親父さんに拾われた日のことをな」
久瀬はふらつきながらも、一歩ずつ俺との距離を詰めてくる。
「俺はもう、まともな世界には戻れねえ。三和会の犬としても、榊原組の極道としても、俺の居場所はどこにもねえんだ。……だからせめて、最後はお前の手で終わらせてくれ」
「…久瀬。お前……」
「来いよ、和貴。兄弟喧嘩の続きだ」
久瀬が咆哮し、弾かれたように突っ込んでくる。
俺はロープを放し、足元のドスを再び抜き放った。
迎撃の体勢。
だが、久瀬の突きは驚くほど直線的で、迷いがなかった。
それは、殺すための刃ではなく、殺されるための刃だった。
──ガキィィィン!
鋼と鋼が激しくぶつかり合い、暗闇の中に火花が散る。
俺は久瀬の刃を親父のドスで受け流し、そのまま奴の懐へと踏み込んだ。
もう一振りのドスが、久瀬の胸元を捉える。
「……っ!」
刃が肉を裂く感覚。
だが、俺は土壇場で刃を返し、峰で久瀬の鳩尾を強かに叩いた。
「……がはっ……、な…ぜだ…和貴……」
久瀬が膝をつき、激しく咳き込む。
「死にたきゃ勝手に死ね。だが、俺に介錯させるな。……俺はもう、死んだ奴らのために刃を振るうのは辞めたんだ」
俺はドスを鞘に納め、久瀬の肩を掴んで無理やり立たせた。
「生きろ、久瀬。三和会の道具じゃなく、一人の人間として、地獄の先を見てこい。……それが、俺たちを拾った親父への、本当の筋ってもんだろ」
上空から、再び松田の声が響く。
「兄貴!早く!崩落が止まりません!」
俺は久瀬の腕を自分の肩に回し
大河内が瓦礫に埋もれていくのを一瞥してから、松田が下ろした救助用のネットへと久瀬を押し込んだ。
「……先に行け、久瀬。…新宿の夜明けは、すぐそこだ」
地響きと共に、地下シェルターの天井が大きく崩れ始めた。
俺は一人、崩れゆく闇の中で、最後の一仕事を片付けるために大河内の元へと歩み寄った。