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翌日。
美晴は離婚専門の弁護士事務所を訪れた。アプリが教えてくれた住所を訪れたのだ。
美晴の住む町からそう遠くなく、駅前の静かな商業ビルにその事務所はあった。美晴は緊張して、事務所の扉を叩く前に何度も深呼吸を繰り返した。
しかしここまで来たのだから、と勇気を振り絞って扉を開けた。いつも内向的で大人しい美晴が、自分のためにここまでできるのだと驚いたほどだ。
「こんにちは、相談に来ました」
「いらっしゃい」
「あ、あなたは……!」
目の前の女性は、高級感のある黒のスーツに身を包み、赤いルージュをひと塗り。鋭い瞳と漆黒の髪色にショートカットが似合う彼女――つい数日前、旅館で美晴を助けてくれた女性だった。目の前の彼女を見て、美晴は息を呑んだ。
「アズミ……さん?」
「そうです」アズミは微笑んで美晴に答えた。
なぜ、アズミがここにいるのだろう?
彼女は復讐アプリを運営していると言っていたはずなのに。
「驚かせてしまったようですね」アズミは軽く笑いながら、美晴を応接スペースに置かれた本革の高級ソファーへと誘導した。「実は私、表向きの仕事として弁護士をやっています。復讐アプリの運営にも携わっておりますが、現在、弁護士としての仕事と両立しています」
こちらをどうぞ、と名刺を受け取った。
橘総合法律事務所 橘 亜澄(たちばな あずみ)――これが彼女のほんとうの名前だ。
「私たちの目的は、あなたたちのような女性たちをサポートすることです。単に復讐を助けるだけではありません。復讐の過程で得た証拠をもって、法的な手段を取ることが最終的な目的なのです」
「そうだったのですね。これで納得ができました」
美晴は頷いた。
「復讐の先に明るい未来があるのではありません。’あなたが勝ち取った栄光’の先に幸せがあるのです。それを依頼者に気づかせ、サポートするのが私たちです」
亜澄の言葉に美晴は頷いた。確かに復讐の先にあるものは新しい未来。ただ単に復讐をするだけではなく、自らの人生をより良いものに変えていくために動いてきた。
「集められた証拠は十分です。これを基に離婚訴訟を有利に進めていきましょう」
美晴は、初めて法律家との相談に緊張しながらも自分の意向を伝えた。離婚は必須、今まで虐げられてきたことや失った子供への罪を認め、慰謝料を支払うこと――これが美晴の条件だ。亜澄は美晴の集めた証拠を今一度確認した。
「これらの証拠を使えば、離婚訴訟は有利に進めることができるでしょう。しかしながら、訴訟には時間と費用がかかります。それでも進めたいですか?」
美晴は亜澄を見つめ返し、確かな決意を込めて答えた。
「はい、進めたいです。私はこれからの自分の未来のために、この訴訟を進めます!」
美晴はもう以前のおどおどした彼女とは違っていた。
幹雄からのモラハラにも屈することもない。目が覚めたのだ。松本家の異常さにも、自分が置かれていた状況についても。
これからは幸せになるのだ。
それには自分の力で立ち、幹雄と戦い、勝利するしかない。
「わかりました。最善を尽くします」
亜澄が力強く答えてくれた。
「まずは内容証明を送りましょう。避難用のマンションを完備しているので、そちらに移ってもらいます。大丈夫です。美晴さんの安全は私が必ず守ります!」