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彼女は自分の名前に触れるときだけ、少女のような誇らしげな顔をした。
「いつか暗い夜が終わる、希望の光だって。だから、お二人が現れたとき、本当に神様が『希望』を遣わしてくれたんだって思いました」
無邪気に笑う彼女の言葉を、私は氷のような沈黙で受け止める。
神? いいえ、ダイキリ。
貴方の前にいるのは、貴方の母を壊した男の血を引く「毒婦」と、心を去勢されたただの「怪物」よ。
私たちを神の使いだなんて、なんて残酷な買い被りかしら。
「……希望、ね。素敵な名前だわ」
私はダイキリを一口啜る。
ライムの鋭い酸味とラムの熱さが、喉を焼く。
冷たさと熱さが同時に食道を通り抜ける感覚は、今の私たちの心境そのものだった。
隣でアルベルトが、無表情にグラスを見つめていた。
彼の瞳には、この健気な少女に対する同情など微塵もない。
ただ、彼女がどれだけ利用価値のある「証拠」であるかを冷徹に査定しているのだろう。
その横顔は、彫刻のように美しく、そして死体のように冷え切っていた。
「でも、お父さんの顔はよく覚えていないんですよね。お名前も」
私が確認するように問うと、彼女は寂しそうに頷いた。
私はその小さな希望を、一息に踏みつぶす準備を整える。
「……そう、ダイキリ。なら貴方のためにも単刀直入に言うわ。貴方のお母様を植物状態にしたのは、私の父──ローゼンタール伯爵よ」
「え……?私の父って……え?どういう、ことですか……?」
ダイキリの手から、拭いていた布が力なく滑り落ちた。
板張りの床に落ちた布の音が、異常に大きく響く。
「貴方の父親は私の父親でもあるってこと。貴方のお母様の不倫相手である父には妻がいて子供がいた。その子供とは私のこと。……つまり、私たちは腹違いの姉妹なのよ」
彼女の表情から、一瞬にして温度が奪われる。
血の気が引き、陶器のように真っ白になった顔で、彼女は唇を震わせた。
「嘘……そんなの、ありえない……!不倫なんて一言も…お母様だって、お父様は私たちのことをいつでも見守ってくれているって……」
「見守ってる? 彼は、ただ見ていたのよ。自分と関係を持つことで破滅する女たちを、宝石を集めるように楽しんでいただけ。あなたのお母様も……そして、私の母も。そして、私も」
「じゃあ……私のお父さんって、本当に、悪い人、なんですか……? と、というか……私、あなたの腹違いの妹ということですか……っ?」