スウォードの街では魔の森と呼ばている、そんな懐かしき森へと足を踏み入れる。
惨めなあの日から初めて訪れたそこは、なぜ魔の森と呼ばれるのか疑問に思うほど道中に獣も魔獣もなく、紅蓮蝶のあの丘のある林とさほどの違いも分からない。
切り株が1つ、腰掛けるのにちょうどいい。上手くいけばこれから生きるか死ぬかの大勝負を繰り広げるのに、はやる気持ちを落ち着かせる。
木々の間から漏れる日差しが、そよぐ風も心地よく不思議なほどにこの心を落ち着かせてくれる。
復讐に来た。それは間違いないがかつてのように激情に駆られてではない。
まるで儀式のよう。心にはさざなみひとつ立っていない。
遠く、獣の遠吠えが聴こえた気がする。
方角はずっと南の方。
ザッザッザッ……と軽やかに獣が駆けてくる足音。獣ではあるが、その音は2本の脚によるもの──ヤツだ。
倒木の向こうに見覚えのある筋肉質の二足歩行の狼。
低く唸るそいつは俺を敵と認識している。間違いなくこいつは俺を憶えている。
剣を抜く。青白く輝くこの剣はこいつを倒すために作られた唯一無二。両手に持ち左脚を前に、剣は右手前にひき腰を軽く落とす。
オオカミ頭が駆けて倒木を飛び越えた勢いのままその剛腕と爪で首を狩りにくる。
下を潜るようにして、よけざまに斬りつける。
しかしあの時と同じに弾かれ、傷ひとつつけられない。
この剣で試し切りはしていない。作られた時その時が最高だと聞かされていたからだ。だが肉はおろかその剛毛に弾かれた。
期待値の分だけ焦りがやってくる。
敵はこちらの攻撃がやはり通らないと知りその裂けた口で笑みを深める。