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深冬芽以
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「九条さん、後ろ……!」
私の叫びは、喉の奥で虚しく潰れた。
九条刑事がハッと振り返るよりも早く
彼の背後に控えていた特殊部隊の男たちが、訓練された無機質な動きで銃口を九条の頭部へと固定した。
「……何の真似だ。標的はそこにあるタブレットだぞ!」
九条の怒声が響く。
だが、部隊のリーダー格の男は、表情一つ変えずに冷酷に告げた。
「九条警部補。いえ、元警部補。あなたは渡邉誠の遺産に触れすぎた。……上層部は、あなたの『正義』をこれ以上必要としていない」
九条の顔から血の気が引く。
彼は、自分たちが守ってきたはずの「組織」そのものが、すでに父の遺した汚職のネットワーク——
パンドラの闇に飲み込まれていることを、最悪の形で突きつけられたのだ。
『あはは!面白いね。正義の味方が、味方に殺されるなんて』
蓮がタブレットの合成音声で嘲笑う。
その瞳は、実の姉である私への情愛など微塵もなく
ただ画面の中で繰り広げられる「破滅」を愉しんでいるかのようだった。
「蓮、やめて!九条さんは私を……私たちを助けようとしてくれたのよ!」
私は掠れた声を絞り出し、蓮と特殊部隊の間に割って入った。
『お姉ちゃんは甘いね。パパが言ってたよ。「人間はデータでしかない。エラーを起こしたデータは上書きするか、消去するだけだ」って』
蓮の指が、タブレットの画面上で不気味に踊る。
パンドラ2.0のカウントダウンが始まった。
【ミッション:不純物の排除】
ターゲット:九条刑事。
執行者:パンドラに忠誠を誓う「市民」たち。
部隊の男たちが、引き金に指をかける。
九条は銃を構えたまま、私を庇うように一歩前に出た。
「栞さん……蓮くんを連れて逃げろ。ここは僕が食い止める」
「……っ、嫌、九条さん……!」
私は首を振った。
今、ここで逃げれば、私は再び「傍観者」に戻ってしまう。
大切な人を犠牲にして生き延びる、あの10年前の私に。
私は、自分のスマホを強く握りしめた。
パンドラの深淵に潜っているはずの「結衣」に、心の中で語りかける。
(結衣……聞こえてるんでしょ?演出家なら、こんな一方的な殺戮はつまらないはずよ。……カードを、私に一枚貸して)
その瞬間、私のスマホが青白く発光した。
画面には、部隊の男たち個人の「銀行口座」と「家族の居所」が、地図と共に表示される。
結衣が、彼らの「急所」をハッキングして私の手元に送り届けてきたのだ。
私は、その画面を部隊の男たちへ向けて掲げた。
声は出ない。けれど、私の目は「撃てば、あなたたちの人生も終わる」と雄弁に語っていた。
男たちの動きが、一瞬だけ止まる。