テラーノベル
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「……バイバイ、お姉ちゃん。物語の続きは、地獄でね」
蓮の唇が、音もなくそう動いた。
彼がタブレットの最終実行キーを叩いた瞬間
施設の深部で心臓を抉るような重低音が響き、非常用電源の過負荷による火花が天井を走った。
ガガガガッ!と、プレイルームの防火シャッターが閉まり始める。
「栞さん、早く! ここが崩れる!」
九条が私の腕を強く引き、出口へと急かす。
特殊部隊の男たちは、結衣に暴かれた「自分の家族の秘密」を守るため、パニックに陥り四散していた。
だが、私は動けなかった。
炎が燃え上がり始めた部屋の中央
蓮は逃げようともせず、父の亡霊を抱きしめるように、タブレットを抱えて座り込んでいた。
「蓮……!来て、蓮!!」
喉がちぎれるほど叫んだ。
火の粉が舞い、熱風が視界を白く染める。
10年前、父が私に課した地獄を、この幼い弟はたった一人で「完成」させようとしている。
九条の手が、私の肩を掴む。
「栞さん、無理だ! 爆発が連鎖する、もう時間が——」
私は、九条の手を振り払った。
10年前、私は誰も救えなかった。
美波に怯え、愛華に目を逸らされ、親友に売られ、ただ焼かれるのを待つだけの「ゴミ」だった。
(……でも、今は違う。私は、私の声を、私の家族を取り戻すためにここにいる)
私は燃え盛る瓦礫を飛び越え、蓮の元へ駆け寄った。
彼の小さな体を、後ろから強く抱きしめる。
「……っ、離してよ!僕はパパの最高傑作なんだ、パパが待ってるんだよ!」
蓮が暴れ、私の腕に爪を立てる。
火傷の痕が擦れ、激痛が走る。
私は、彼の耳元で、パンドラの周波数でも暗号でもない、ただの「姉」としての掠れた声を絞り出した。
「……蓮。…パパのためじゃなく……私のために、生きて」
蓮の動きが、一瞬だけ止まった。
無機質だった彼の瞳に、初めて「子供」としての動揺が走る。
その直後、天井の巨大な梁が音を立てて崩れ落ちた。
「栞!!」
九条の叫び。
視界が真っ赤に染まり、爆風がすべてを飲み込んでいく。
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深冬芽以