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#一次創作 #コメディ #自殺
「死ぬの?」
「うわ…どちら様?」
「天使様」
「さいですか。随分とまぁパス味のある天使様だこと」
「ある?パス味」
「ビルのフェンスの向こう側に立ってる人間に『死ぬの?』は普通の人ならまず言わない」
「ふーん」
「空飛んでるから一旦信じておくけど、『天使』とか突拍子もないワードも加点対象」
「へーん」
「あと黒目がなんかぐるぐるしてるから」
「それはなんか納得できないなぁ」
「『ほーん』の流れだったからいけるかなって」
「言っとくけど、僕馬鹿じゃないからね?」
「それは失礼つかまつった」
「あー、馬鹿にしてる。せっかくわざわざ仕事しに来たのに」
「仕事?…俺に関係ある話?」
「あるよ。商談相手は君だもの」
「俺ー?」
「君ー」
「駆け引きできる金なんかないよ」
「商談をポーカーか何かと思ってる?」
「実際やってることは金の駆け引きだろ」
「否定はしないけど」
「ほら」
「そんでもって金も要らない。必要なのは君のその魂だけ」
「魂に関しては宗教に触れそうで気軽にイジれないんだけど」
「そのままイジらないでおいてね。作者が怯えてるから」
「作者とかいるのか」
「メタは好みが別れるからさっさと話戻すけど、君の魂を貰う代わりに君をとっても幸せにするってのが取引内容」
「要領を得ないな」
「じゃあ契約してくれる?」
「接続詞があってない」
「いいじゃん、別に。僕だけ最近全然契約取れなくて尻に火付いてるの。助けると思ってちゃちゃっと結んじゃってよ」
「見ず知らずの不審者のクソ胡散臭い取引に情で頷いてやれる人間じゃなくてごめんな」
「ボロクソ言われとる」
「というか、とっても幸せって何。対価の説明だけぼやけ過ぎてて嫌なんだけど」
「知らないよ」
「説明責任に対してあまりにも無責任すぎる」
「いいから結ぼうよー。どうせ死ぬ予定なんでしょー」
「…はぁ。じゃあ決断する前に一つだけ質問してもいいか?」
「どうぞ」
「お前、名前は?」
「メフィストフェレス」
「やっぱり悪魔じゃねぇか」
「あ」
「あーあ、飛び降りちゃった」
ふわりと旋回して地面を見てみると、小さく赤が見える。
「天使も悪魔も、人間が都合良く使い分けてるだけのただの呼び名なのに。どうしてこうも人間はこだわるのかなぁ。分かんないなぁ」
するすると淀みなく話す、心の淀みきった青年の姿が浮かぶ。
「あの子は僕が人間のこと分かってたら契約してくれてたのかなぁ。分かんないなぁ」
ちらりと彼だったものを遠目に見て、天使でも悪魔でもないものはあっさりと去っていった。
一つだけ抜け落ちた白金の羽がそっと地面に降り立って、やがて淡雪のように溶けてなくなる頃には、何事もなかったかのように世界は動き初めていた。