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パラレル・ゲーマー
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臣桜
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――臭い。痛い。力が強い。
――嫌だ。なんでこんなおじさんに……。
――どうしてこうなるの? ただでさえお父さんを喪って不幸のどん底にいるのに。
――お母さんの理不尽な要求にも耐え続けて、いい子で生きてきたはずなのに。
――どうして私ばっかりこんな目に遭うの!?
全力で岩淵に抵抗している間、彼の爪がかすって春佳の顔に傷を作った。
腕も脚も乱暴に掴まれ、押さえつけられ、心と体が悲鳴を上げている。
「んんんっ、――――あぁあああっ!」
渾身の力で男の体を押し戻そうとしたが、体勢的に不利だ。
「大人しくしろっ!」
とうとう、業を煮やした岩淵が怒声を上げ、春佳の頬を厚い掌で叩いてきた。
「うぐっ」
顔全体に強い衝撃が加わったように思え、口内で変な味が広がった。
春佳が怯んだその一瞬に、岩淵は少女を殴った嗜虐的な喜びに表情を彩らせた。
「あぁ、可愛いなぁ。春佳ちゃん、可愛いなぁ」
彼は何かに取り憑かれたかのように「可愛い」を繰り返し、春佳を叩いてはその反応を見て、喜色の籠もった笑みを浮かべる。
「やめ……っ、うっ、――――うぅっ」
こんな男に屈服したくないと思うものの、春佳は痛みにまったく耐性がなかった。
叩かれる頬が熱くなり、醜く腫れ上がったように感じられる。
逆らう気力を失って脱力した頃、彼女は頬を腫らし、鼻血を垂らして唇も切っていた。
何度も叩かれて耳が遠くなり、すべての音がボワボワと不明瞭に聞こえる。
「手間とらせやがって」
悪辣に笑った岩淵は、力任せに春佳のパジャマの襟元を引っ張った。
途端、ボタンがはじけ飛び、室内の照明を受けてキャンディのようにまろく光る。
ぐったりとした春佳は、宙に飛ぶボタンをぼんやりと見るしかできなかった。
晒された若い乳房に、岩淵の節くれ立った太く短い指が食い込む。
生まれて初めて男性に胸を揉まれたが、痛みと屈辱しか感じない。
(おっぱいを揉まれてもちっとも気持ちよくない。世の中の人はこんな事をして喜んでるの? 馬鹿みたい)
茫洋とした視界の中、岩淵が下卑た笑みを浮かべて、自分の服を脱がそうとしているのが見える。
ニタニタと笑って唇には涎を滲ませ、まるで悪魔のようだ。
同時に、自分は〝強者〟に対して何も抵抗できない〝弱者〟なのだと痛感した。
処女を大切に守ってきた訳ではない。
好きな人すらいないから、処女の貴重性などほぼ意識していない。
そもそも、自分が性行為をするなんて想像もしなかった。
ただ、いつかするのなら、似た年齢の若い男性だろうと思っていた。
――なのに、どうしてこんなクソジジイに。
逆らえばまた叩かれるし、痛い思いはしたくない。
セックスをするのにどれぐらい時間が必要なのか分からないが、我慢していればそのうち終わるだろう。
「へへっ……、綺麗だなぁ。春佳ちゃん」
完全に全裸にされ、岩淵も服をすべて脱いだ時だった――。
何かが視界に入り込んだかと思うと、ドスーンッと大きな音を立てて岩淵がベッドから落ちた。
そのあと、岩淵が物凄い悲鳴を上げ、鈍い音が立て続けに聞こえる。
何が起こったのかよく分からないが、音だけ聞いていると、まるで地獄にいるようだ。
やがて静けさが戻ったあと、カシャッカシャッとしつこくシャッター音が鳴った。
「……あんたが警察に行くのは勝手だが、こっちもあんたの弱みを握っている事を忘れるなよ? 念のため名刺はもらっていくからな」
物凄い怒気を孕んだ、それでいて凍てついた声がした。
痛む体に鞭打ってノロノロと顔を上げると、息を荒げた冬夜が拳を赤く染めていた。
彼は岩淵の服をまさぐると名刺入れから名刺を一枚とり、自分のポケットに入れる。
冬夜はその目に暴力を振るった興奮を宿していたが、春佳の姿を見ると眉間に皺を寄せ、今にも泣きそうな顔をする。
引き結んだ唇が震え、いつも淡々としている兄が、声を上げて泣くのではと思った。
「……春佳、大丈夫か? 電話くれたから間に合った」
冬夜は手を伸ばし、彼女の腫れた顔を気遣うようにそっと撫でてくる。
そして顔にかかった乱れ髪をよけ、熱を持った彼女の頬に震える指先を添えた。
「……あり、……がと、……」
かすれた声で返事をすると、冬夜は大きく息を吸って細く長く吐き、脱がされた春佳の下着を手にし、穿かせる。
「起きれるか?」
冬夜は春佳を抱き締めるようにして優しく起こし、壁にもたれかけさせる。
それからクローゼットからTシャツとハーフパンツを出すと、春佳に着せた。
「乗って」
春佳に服を着せたあと、冬夜はベッドの脇にしゃがんで彼女に背中を向ける。
彼の意図する事を察した春佳は、大人しく兄に背負われた。
――お兄ちゃんの匂いがする。
逞しい背中に身を預けた瞬間、そう思った。
ずっと岩淵の悪臭ばかり嗅いでいたので、兄がつけている香水の残り香が鼻腔をかすっただけで、鼻が浄化された気になった。
冬夜は春佳をおんぶして部屋を出ると、そのまま玄関で靴を履き家を出る。
「……鍵は……?」
「構うな。ここは鬼の棲まいだ。春佳はもう戻らなくていい。俺も戻るつもりはない。必要な荷物はあとで俺が持ってくる」
夜の遅い時間だったので、エレベーターに乗って一階に着きエントランスを出るまで、マンションの住人には会わなかった。
外に出ると、夏の夜特有のモワッとした空気が全身を包む。
湿度が高くとても不快感が強いはずなのに、家から出られたと思っただけで、とてつもない解放感を得た。
マンションの前には冬夜の車が停まっていて、彼は慎重に春佳を後部座席に乗せたあと、運転席に乗って車を走らせた。
「……どこ行くの……?」
まだ現実に戻れていない春佳は弱々しく尋ねる。
「もう俺たちが虐げられないところ」
その言葉を聞いて初めて、春佳は自分が岩淵に暴行されたのだと実感する。
だが〝たち〟と聞いて、『自分はともかくお兄ちゃんは何も虐げられていないんじゃない?』とも思った。
しかし立て続けにショッキングな出来事が起こり、『何も考えたくない』と思った彼女は思考を放棄する。
そのまま、春佳は目を閉じて車の振動に身を任せた。
**
それから数日、顔の腫れが酷いので大学に行く事ができなかった。
せっかく後期講義が始まったばかりだというのに、踏んだり蹴ったりだ。
千絵にはメッセージで【ちょっと怪我をしたから休む。ノートお願い】と頼んだので、勉強の遅れは少しで済むだろう。
冬夜は翌日には実家に向かい、春佳の荷物をごっそりと持って戻ってきた。
母とどんな会話をしたのか尋ねたが、兄は何も答えなかった。
コメント
1件
第11話、めっちゃ重かったけど一気に読んだ……。春佳の絶望と痛みが生々しくて、ずっと心臓が痛かったよ。でも冬夜が間に合った瞬間、鳥肌立った。「もう俺たちが虐げられないところ」って言葉にグッときた。お兄ちゃんの匂いで浄化されるって描写がすごく好きだわ。暴行シーンは見てて辛いけど、そこから救い出す強さと優しさが際立つ回だった🔥 続きも気になる!