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第23話 某食品メーカー
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に映ったまひろは、今日は灰色のパーカーにデニムのハーフパンツ。胸には遊園地のお土産で買った缶バッジをつけている。ぱっつん前髪の下の大きな瞳は、相変わらず無垢な光を放っていた。
隣のミウは、モカのブラウスに淡いピンクのカーディガン、ベージュのロングスカート。髪は後ろでゆるく結ばれ、耳には小さな丸いピアス。柔らかな笑みを浮かべて視聴者に手を振る。
まひろが少し困ったような声で切り出した。
「ねぇミウおねえちゃん。最近、あの食品メーカーが“安さのために安全を軽視してる”って聞いちゃったんだ。ぼく、ちょっと心配になっちゃった」
コメント欄に「え、マジ?」「買ってるよ…」とざわめきが広がる。
疑惑の芽生え
ミウはふんわりと首をかしげて微笑んだ。
「え〜♡ ごはんって毎日のことなのに、安全じゃなかったらイヤだよねぇ」
まひろは小さな声で無垢に続ける。
「ぼくはただ、“ほんとかな”って思っただけなんだ。でも……ぼくが食べてたお菓子、大丈夫なのかなぁ」
コメント欄は次第に「うちの子に食べさせてる」「もう信じられない」で埋まっていく。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」に並んだ記事:
記事の証言はZが捏造したチャットログをもとにミウが書き上げた。実際の原料には問題はなかったが、切り貼りした匿名発言が“真実”として記事化された。
群衆の暴走
翌日SNSは「#食の闇」で溢れた。
「X社の商品は捨てた」
「子どもを守るために声をあげよう」
街頭には「製品回収を!」とプラカードを掲げる人々が集まり、やがてスーパーの前で叫ぶ群衆へと膨れ上がった。
誰かが投げたペットボトルをきっかけに警備員と衝突し、映像が拡散される。
「暴力的な消費者運動」としてニュースに流れたが、その背景を作ったのは“はごろもまごころ”だった。
クライマックス
食品メーカーは「安全性に問題はない」と会見した。
だが翌日の記事はこうだった。
「必死に否定する企業=やはり後ろめたい?」
否定すればするほど火に油を注ぐ。
スーパーの商品棚は空になり、物流は混乱。株価も急落し、街では連日小競り合いが起きた。
結末
夜の配信。
まひろは灰色のパーカーの袖を握りしめ、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“心配だな”って思っただけなのに」
ミウはやわらかく笑みを浮かべ、胸に手を添えた。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから素敵だよねぇ。
だって、“守りたい”って声がこんなに広がったんだもん♡」
コメント欄は「ありがとう」「気づかせてくれて助かった」で埋め尽くされた。
その裏で、ミウのPC画面には「次の標的リスト」が開かれていた。
企業名と、有名人、そして政治家の名前が、赤いチェックでマークされていた。
無垢な声とふんわり同意、その裏で“心配の火種”は街を燃やす炎へと変わっていった。