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第24話 視聴者の影
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは今日は水色のTシャツにベージュの短パン。胸には小さなキャラクターのプリントがついていて、ぱっつん前髪の下の大きな瞳がきらきらと輝いていた。
隣のミウは、モカのブラウスに淡いラベンダー色のカーディガン、グレーのロングスカート。髪はサイドで結び、耳には小さな丸いイヤリング。柔らかな笑みを浮かべ、画面を見つめていた。
まひろが少し心配そうに声を出す。
「ねぇミウおねえちゃん。最近さ、街のイベントで“ある政治家さん”が笑いながら挨拶してたんだけど……なんだか、本気で国民を見てないように思えちゃったんだ」
コメント欄:「え?誰?」「知ってる!」「そう感じてた!」
疑惑の芽生え
ミウはふんわりと首をかしげ、声をやわらげる。
「え〜♡ もしそうなら悲しいよねぇ。みんなからお金もらってるのに、笑ってごまかしてたら……国民はつらいよね」
まひろは無垢な瞳でカメラを見つめ、
「ぼくはただ、“ほんとに大事に思ってるのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄には「やっぱり偽善だ」「あの笑顔は嘘だ」と怒りの声が広がった。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
記事はイベント映像から都合の良い瞬間だけを切り取り、笑顔が「嘲笑」に見えるよう加工されていた。
群衆の暴走
翌日SNSは「#国民を笑う政治家」で埋まった。
レイNewsを読んだ視聴者の一部は「声をあげなきゃ」と集まり、政治家K氏の事務所前に押し寄せた。
最初はシュプレヒコール。
だが「偽善者!」と叫んだ若者がペットボトルを投げつけ、警備員と押し問答になった。
やがて小競り合いは暴力沙汰に発展し、ガラスが割れ、負傷者が出た。
その様子はスマホで撮影され、拡散。
「国民が立ち上がった!」と賛美する声と、「ただの暴徒だ」と批判する声が入り乱れた。
クライマックス
政治家K氏は「暴力は民主主義を壊す」と会見。
だが翌日の記事はこうだった。
「批判から逃げる政治家=やはり市民を見ていない」
事件の原因が“はごろもまごころ”にあるとは誰も思わず、怒りは政治家に集中した。
結末
夜の配信。
まひろは水色のTシャツの裾を握りしめ、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに、みんなケガしちゃった」
ミウはふんわりと笑みを浮かべ、胸に手を当てた。
「え〜♡ でも、それで声をあげられる人が増えたんだから素敵だよね。
民主主義って、やっぱりみんなで考えることだもん♡」
コメント欄は「ありがとう」「気づかせてくれて勇気出た」で埋まり、事件そのものより「覚醒のきっかけ」として歓迎されていった。
その裏で、ミウのPCには次のターゲット――教育者、企業、そして芸能人の名前がリスト化されていた。
無垢な声とふんわり同意、その裏で“はごろもまごころ”の視聴者は現実に血を流し始めていた。