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第3話|夜の底で拾われた声
高輪コーポラス、通称失恋マンションの夜は、都会の灯りに包まれて静かだった。


いきなりドアをノックする軽い音に驚き、覗き穴を覗くとそこにはキラキラした茶髪の女の子が立っていた。


「ねえ、よかったら一緒に飲まない?」


「え…いいけど……なんでですか? 」

「いいじゃん!女同士絆深めよ」


そう言ってわたしはドアをゆっくりと開けた



「あたし、黒川菜々、隣の部屋に住んでるんだ。引っ越してきてからしばらく経つけど、ちゃんと話すのは今日が初めてだよね?」


彼女の明るい声と笑顔は、都会の煌めきをそのまま映しているようだった。


「菜々さん…私は柊美桜。よろしくね」


私は自然に笑顔を返し、彼女の部屋へと招かれた。


缶チューハイを手にした菜々さは、話し始めた。


「あたしね、銀座でキャバ嬢やってたんだ。キャバ嬢ってね、見た目は派手だけどみんな寂しがり屋なの、知ってた?」


「へえ、そうなんですね」


「ふふ、適当だね、あ、そうだ。私がこのマンションに住んでる理由話してあげよう!」


「キャバ嬢やってた時にね?2人組で指名してくれたお客さんがいたんだけど、もう1人は常連さんで、もう1人は新規さん。」


「んで、その新規さんの方がばーかイケメンで!一目惚れしちゃって、そっから色んな夜を重ねてさ…」


彼女の瞳に、ほんの少し影が差した。


「彼は忙しくて、あんまり会えなかったけど、誕生日だけは必ず来てくれて、『今日も会えてよかった』って言ってくれるの。そんな一言で1ヶ月頑張れる気がしたんだ」


私は静かに聞いていた。


「本当に好きだったんだね」


「うん。ガチ恋。会えない日は彼のことばっか考えて、スマホ見てばっか」


缶を握る手に少し力が入る。


「でもね、SNS見て気づいたんだ。その人にはかわいい奥さんと、子供がいるって。」


声が震え、言葉が詰まった。


「全部知らずに、私だけ特別だと思ってたから……」


胸がぎゅっと締め付けられた。


「SNSで彼女の写真を見つけた時、頭が真っ白になって、何度も見返した。幸せそうに子供と遊んでる動画や水族館デートしてた写真……それでも、私は彼のことが忘れられなかった」


彼女の瞳にわずかに光が戻った。


「ある夜、街中で泣いてたときに管理人さんに声かけられてさ」


「『何に負けたの?』って言われて、涙が止まんなくなった」


「こうして美桜ちゃんを誘ったのも、その日を思い出して、1人で…寂しかったからだよ」


私は彼女の手をぎゅっと握り返した。


「誘ってくれてありがとう。私も嬉しい」


笑い声が静かな部屋に広がった。





夜も更けて、部屋に戻ろうとした時、

部屋の玄関の前に細身のギターを背負った男が立っていた。


椎名


彼の目には決意と安堵が入り混じっていた。


「おかえり」


短い言葉だったけど、どこか温かさがあった。


私はぎこちなく「ただいま」と返した。


「話があるんだ」


彼はゆっくり口を開いた。


「元カノとやり直すことにした。今度はちゃんと向き合うって約束して、一緒に住むことになった」


彼の言葉に胸がざわつく。


「そう……」


震える声だったけれど、心の奥から自然に湧き上がる想いがあった。


「よかったですね」


彼は少しだけ笑った。


「ありがとう。迷惑かけてばかりで……でも、これでお互い新しいスタートが切れると思う」


私は静かに頷いた。


「あなたも…美桜さんも、きっと大丈夫だよ」


彼はゆっくり背を向けて歩き去っていった。


その背中には過去の傷も、新しい希望も詰まっているようだった。


扉が閉まる音が響き、私は深呼吸をした。


このマンションにはいろんな痛みと再生が混じり合っている。


そして、私も少しずつ歩き出そうとしていた。


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