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#一次創作
ruruha
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「あの女はあなたを生んでなどいない」
「……えっ?」
唐突に予想外のことを普通に言われたので、一瞬自分が言葉を忘れてしまったのかと思った。
「聖女アーシュラ。百四十年ほど前、央魔の血を啜って”村”を追い出された女だ」
「…………何言ってるの?」
おうまのち?むらを追い出された?
彼は祭壇のお母さんを振り返る。
その横顔に冷たい色が浮かんだ。
「……アーウィン」
私は彼を呼ぶ。
けれど彼女に視線を投げたまま、皮肉っぽく呟いた。
「まあ、その力と知識は『聖女』と讃えられるだけのことはあったが……」
「アーウィン!」
言いしれぬ不安を覚えて、アーウィンの両腕を強く揺さぶる。
「こっち見て、アーウィン!どういう……!」
ゆっくりと目を合わせた。
黒い目が赤く塗り変わっていく。
何かに引きずられるように、赤い瞳の奥を見つめた。
焼けつく赤色。
ふいに網膜が焼かれる痛みを覚える。
「!!」
思わず目を瞑った瞬間、私の脳は赤い波に飲まれた……。
世界は暗かった。
薄暗い世界で眠っている。
いや、うつうつと起きていたのかもしれない。
何か分厚いもので全身を包まれている感覚がして、体を動かそうとしてみても重くて動けない。
けれど体にのしかかる重みは、安心させてもいた。
世界には音も映像もなく、ただ匂いが。
微かに届く色々な匂いが、私を包んでいく。
水の匂い、北風の匂い、森の匂い、墓土の匂いーー血の臭い……。
やがて、暗かった世界に光が差した。
厚い繭がひび割れて、次第に隙間から光が漏れてくる。
私を包み込む何かが、乾いて剥がれ落ちていくのを待った。
重みが失せて目を開けると、頬を何か乾いたものがパラパラと滑り落ちていく。
土の塊だっただろうか?
それよりも、目の前にはヒトが……女の人が……。
ーーレナ。
ーーお母さんよ。
そのヒトはそう言った。
おかあ、さん?
ーーそうよ。レナ。
レナ?
ーーあなたの名前よ。
ーーあなたはレナ・タウンゼント。七歳の女の子よ。
私は私を見下ろす。
レナ……おんなのこ……?
そうだったんだろうか。
そうだったかもしれない。
乾いた砂が水を吸うように、急速に言葉が染みていく。
私が作り上げられていく。
ーーそうよ、レナ。
ーー私はあなたの母親。それからーー
女は横の男を指差した。
男の人は、赤い目で私を見ている。
初めて認識した赤はとても鮮やかで、私の白い心にくっきりと染みた。
ーーこれは……そうね、お手伝いさんだわ。アーウィンというの。
アーウィン?
その顔はなぜか懐かしい気がして、口を開きかけて……けれど何を言いたかったのか、途中で分からなくなる。
赤い目の人の後ろに、人のカタチに盛り上げられた土の繭が見えた。
……あれもそのうち、乾いてひび割れるのだろうか?
ーー私たちは家族なの。
女の人は私の頬を両手で包む。
じんわりと頬が温もっていく。
かぞく。
ーーそうよ、レナ。家族なの……。
そのひとがわらうから。頬をなでる手があたたかかったから。私はとても幸福な気分になった。
だから私は、『レナ』は答える。
はい……おかあさんーー
「そ……んな……」
頭の中に蘇った光景が私を襲った。
「そんなの、そんなの嘘よ!!」
私は誰?
「私は私だわ!!」
自分に叫ぶ。
あの時、母親と名乗った人物は誰なの?
「お母さんはお母さんよ!!決まっているじゃない!!」
「落ち着きなさい」
アーウィンが差し伸べた手を、乱暴に振り払った。
「いや、嫌あああっ!!」
「レナ!」
暴れる私の両肩を押さえて、自分の方を向かせる。
「あなたはあなただ。怯えてる必要はない。例えあなたがーー」
鈍い衝撃に彼の赤い目が揺れた。
「あ……」
私の両肩を掴んでいた手が滑り落ちる。
「アーウィン!」
膝をついたその背中に、細いナイフが深々と突き刺さっていた。
ナイフは真っ黒に焼けこげ、うっすらと煙を上げる。
カツン。
大聖堂に澱む闇の中、足音が響いた。
カツン。
その人は三本の銀のナイフを手に、ゆっくりと近づいてくる。
カツン。
「お、かあさ……」
「忘れたの?レナはあなたのものじゃないのよ。そういう”約束”だったでしょう?」
「……………」
そこに立っていたのは、祭壇に寝かされていたはずのお母さんだった。
お母さん?違う!
あの時、母親と名乗ったのはいったい誰なの?
私は、この人は……!!
いったい誰なの!
痙攣する震えが全身を襲う。
自分で自分の体がコントロールできない。
傍らでアーウィンが血を流しているのに、それを助け起こすことさえできずただ震えていた。
「こうなると思って、わざわざ女の子に造り上げたのに」
彼は自分の肩越しに女を見返すが、何も言わない。
「生意気な目ね。そういう目は嫌いじゃないけれど」
女は少し目を伏せた。
「思い通りにならないものは嫌いだわ」
白い手が振り上げられたのと同時に、アーウィンの肩に二本目ナイフが突き刺さる。
同時にじゅわっと音を立てて、ナイフが黒く変色した。
嫌な臭いの煙が立ち上がる。
「!!」
「アルブム銀で作られたナイフよ。お前たち冥使が最も嫌う金属ね。ナイフ二本で、もう動けないでしょう?」
「…………」
「思い上がらないことね。私はいつだってお前を狩れるのよ。ここで狩られたくなければ、レナの催眠をかけ直しなさい」
彼女は顎をあげて命令した。
墓土の匂い。
重い闇。
突然開かれた世界。
造られた『私』。
突然、それらは全て繋がった。
私は『憶えて』いる。
「どうし……」
声がうまく出せないのは、喉が裂けているからだけじゃない。
歯がカチカチと鳴って、うまく喋れない。
「どうして……どうして!?」
どうしてアーウィンが刺されなくちゃいけないの。
どうしてこんなことが起きてるの。
どうして私は私でなかった頃を憶えているの。
どうして私はあなたがお母さんでないことを知ってるの!!
力が……抜けていく。血が抜けていく。
私の悲鳴に近い絶叫を受けて、その人はただ微笑んだ。
大好きだった青い目が、冷たく輝く。
不意に押さえがたい衝動が、お腹の底から湧き上がってきた。
コワイ……。
痙攣が止まらない!
「……行きなさい」
下から小さな声がふる。
膝をついたまま、アーウィンが吐息で告げた。
「道を選びなさい……あなたが選んでこその道だ。あなたが何を選ぶのか、私はそれを知りたい」
私が選ぶもの?
「ああ、レナ……」
その人は両手を広げて、困った顔で微笑む。
「ごめんね、びっくりさせちゃったわね。でも大丈夫よ。何も怖いことなんてないの。今説明するから……こちらへいらっしゃい」
カツンと床が鳴って、その人が一歩私へ踏み出した。
イヤダ……。
「どうしたの?さあ……」
カツン。
クルナ……!
「レナ……」
コワイ!キライ!
「行けッ!!」
突然痙攣が治まった。
コメント
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みぅです🤍🥀 38話、めっちゃ重かった…最後の方、息するの忘れてたよ。 「お母さん」が本当のお母さんじゃなくて、しかもアーウィンを刺すなんて…あの優しかった青い目が冷たく光るシーン、ゾッとした。あと「レナ」って名前も記憶も“作られた”ものだったって衝撃すぎる。 でもそんな中で「道を選びなさい」って血を流しながら言うアーウィン、かっこよすぎて泣きそう…レナがどう決断するのか、もう次の話が待ちきれないよ😢