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#一次創作
ruruha
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血の長れる喉を押さえながら、素早く聖堂内を見渡す。
「!」
祭壇の奥に小さな扉があるのが見えた。
あの扉!
でもあそこに行くためには、彼女をやり過ごして横を通らなければならない。
それに、あの扉がどこに繋がっているのかも分からない。
開いているだろうか、行き止まりじゃないだろうか。
ああ、でも迷ってる暇なんてない!!
「ねえ。喉の傷をお母さんに見せ……」
私へ踏み出そうとした女が、不意によろけた。
「!」
見ると伸びたアーウィンの舌が、彼女の足に絡みついている。
「!」
今しかない!!
私はその機を逃さず、転がるように女の脇を走り抜けた。
走り抜けざま、床に転がっていた銀の銃をさらう。
「レナ!このッ……!」
走りながら振り向くと、女がナイフを振り上げていた。
振り下ろされた刃が彼の長い舌を断ち切る。
アーウィンはその場に倒れ、切断された舌から大量の血が噴き出した。
一瞬、足が止まりそうになる。
しかし振り向いた女の形相が、私を奮い立たせた。
全てを振り切って、奥の扉へ飛び込む。
扉の向こうには、螺旋階段が上へ上へと伸びていた。
「待ちなさい、レナ!」
背後から足音が迫る。上へ!!
上りながら、影だった時の思考と体験した時の思考が巡る。
ーーさあ、血を啜れ、私のために。
ーー誰かが”影”を無理やり狂わせている
レナ
ーーあの子を呼ぶのよ、そして融合を。
ーー央魔の血を得た者は強大な力を得る
レナ
ーー血を!もっと血を!若さを!命を!力を!栄光を!!央魔の血の奇跡を!!
レナ……タスケテ……。
必死の思いで階段を駆け上がると、ヒョオと風が吹いた。
塔の上は、鐘つき堂になっている。
真ん中に青緑色の重そうな鐘が吊られていて、大きくくり抜かれた窓と柱が屋根を支えていた。
壁は腰くらいの高さまでしか無く、うっかり乗り出せば落ちてしまいそう。
黒い空は東の方が藍色へ変わり始めていた。
夜明けが近い……。
「怖がらなくていいのよ、レナ……」
「!!」
ビクッと振り返ると、私に遅れてお母さんがーー女が階段から頭を出した。
ぎらつく目と優しい声が、不協和音を奏でている。
「どうし、て……」
私の髪とスカートを風がなぶり、掠れる声を掻き消していった。
フラッシュバックのように蘇った、見たことないはずの光景と声が、私の中の温かい思い出を急に蝕んでいく。
「どうしてなの、お母さん!」
口に出してみると、それは不思議な違和感が伴っていた。
気づいた時、私はもう在った。
じゃあ、お母さんってーー何?
その女は、あなたを生んでなどいない……。
「……あなたは……」
耐えきれなくて叫ぶ。
「あなたはいったい誰なの!!」
私、変なこと言ってる。
お母さんはお母さん以外の何者でもないはずなのに。
だけど、頭の中に甦る声が!光景が!
女はスッと背筋を伸ばした。
「私はアーシュラ。聖女の称号を受けた最高の祓い手……」
「祓い手……フレディと同じ?」
その名前を聞いて、微笑んだ唇の端が歪む。
「そうね。でもあれは入蝕されて死んだのでしょ。情けないこと!オーゼンナートも落ちたものね」
ショックで何も返せなかった。
まるで……フレディが死んだのが嬉しいみたいに……。
「私は聖女。救い主と称されたもの。オーゼンナートの直系とて敵ではないわ」
陶然とした表情の中に、傲慢さが煌めく。
「そ……んなひとが……どうして……?」
どうしてここに?
どうしてこんなことを?
私の問いに、アーシュラはふと空の彼方を見上げた。
「百四十年ほど前。まだ私が”村”での地位に満足していた頃、私は偶然にも央魔の誕生に立ち会ったの」
唐突な話題の変換に戸惑う。
それに百四十年前って?
「最初わね、ちゃんと村へ連れて帰るつもりだったのよ。央魔は狩ってはいけないと決められていたから。だけど途中で事故に遭って、彼女怪我をしたの。その血を見た時ーー」
空を彷徨っていた視線が、私に戻った。
その目は大きく見開かれている。
「私は天啓を得たの」
天啓?
「央魔は希少な存在よ。その誕生に立ち会うなんて、滅多にない。でも、私はそこに居合わせた。それには『意味』があるわ。そう思わない?」
「…………」
口調は穏やかなのに、その目は異様に迫力があった。
その気配に圧され、私は何も答えられない。
「選ばれた私には、その恩恵に預かる権利があるわ。だから」
女は艶やかな笑みを浮かべた。
「それを受け取ることにしたのよ」
「?……それってどういう意味」
血を!もっと血を!央魔の血を!
脳天から氷の針が差し込まれた気がする。
目の前の迷いのない美しすぎる微笑み。
一つの想像に、冷たい汗がじわりと浮かんだ。
「ま、まさか……」
ソノ血ヲ得タ者ハ 強大ナ力ヲ得ル
怪我をした産まれたての央魔。
血を流していたという。
ソノ女ハ アナタヲ生ンデナド イナイ
「央魔の血を……!」
央魔ノ血ヲ 吸イ尽クシテ 村ヲ追イ出サレタ 女
その人はただ笑っていた。
その笑顔には、何の曇りもない。
不自然なまでの清廉さ。
押し付けた低い壁が、ぎりぎりと腰を擦って痛い。
それでも、背中を押しつけずにはいられなかった。
理解してしまった。
この人が欲しかったのは、央魔となった私の『血』ーー。
込み上げる震えが走る。
恐怖?いいえ、これは絶望……。
「私も……殺すの?昔殺したその子みたいに……!殺して、血を……!!」
そのためだけに、生かされていた?
愛情だと思っていたものは、全部嘘?
家畜のように飼育されていただけ?
力が抜けた。
背中で壁をすりながら、その場に座り込む。
じゃあ……。
知らず、涙が溢れた。
私のやってきたことは何だったの。
必死で守ろうとした世界は、自分は……。
なんて無意味だったの。
コメント
1件
いやあ、今回の展開は心臓に悪かったですね……。追い詰められて銃を拾い、螺旋階段を駆け上がる緊迫感が画面からビシビシ伝わってきました。そして何より、アーシュラの告白。母親だと思っていた存在が実は140年前の聖女で、央魔の血を吸い尽くすためにレナを生かしていたなんて。愛情が嘘だった絶望、「私のやってきたことは何だったの」というセリフが刺さりました。設定の奥行きと伏線回収の巧みさに脱帽です。