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#ヤンキー
964
羽海汐遠
10,738
廃屋の玄関だ。意外なほどしっかりと「家」として残っている。だが倒壊も進んでいるところがあるし、不用意に歩き回るのはやめた方がいいだろう。
広い土間に上がったところには、開け放たれたままの戸が見える。
入って左側、玄関の西口だ。落ちてきた梁の向こうに、荒れた室内の様子が見える。台所だったのだろうか。奥の暗がりにうっすらとカマドらしきものが見えている。格子窓から落ちる夕日が、荒れた室内を照らしている。落ちてきた梁に阻まれて近づくことはできそうにない。
入って右側、玄関の東口だ。タンスや荷物、壊れた農具のようなものが散乱していて足の踏み場もない。奥の方は入り口からの光が届かず、よく見えない。この奥には行けそうにないな……。
玄関はどんよりと暗く、土埃で覆われている。土間には誰かの姿もない。さっきの「助けて」って声は、もっと奥から聞こえたように思う。……行ってみるか?
玄関から入って正面の戸口をくぐると、廊下へ出た。北と東に、それぞれ廊下が伸びている。
「うわっ!」
踏んだ床が妙に柔らかくて、俺は慌てて右足を引っ込めた。所々床板が腐っているようだ。気をつけないと……。
廊下は北と東にそれぞれ廊下が延びているが、手前の床が崩れているため北へは行けそうにない。
東に進むと、廊下が続いている。手前に両引き戸が、奥の突き当たりに片開きの扉がある。
「!」
廊下にたまった土埃に、足跡らしきものがある。つい最近誰かがここを歩いたようだ。やっぱり、奥に誰かいるのか……?
土埃に残った足跡は、手前の引き戸へと続いているようだ……。
手前の両引き戸だ。外へ通じているのだろうか。わずかに開いた戸の隙間から、夕焼けの光が差し込んでいる。舞い上がった塵が、戸の隙間から差し込む光でくっきりと浮かびあがらせている。
廊下の奥にも扉がある。……開かない。鍵がかかっているのか壊れているのかどちらかわからないが、とりあえず扉は開かない。
手前にある両引き戸は、わずかに開いていた。その隙間から入ってきた夕焼けの光が一瞬途切れる。人の気配。
「誰か……いる?」
俺は開きかけの引き戸に両手をかけ、横へと引いた。そこで俺が目にしたものとは。枝からだらりとぶら下がる、着物姿の少女だった。
「う……わあああああっ!!」
俺の悲鳴に、木のそばで立っていたもう一人の少女が振り返った。その時、俺たちを衝撃が襲った。突然地上の重力が倍になったような感じだ。ぐうっと体が重くなる。
(な、なんだこれ……!)
空気がいつもの何十倍もの重さを持って、体にのしかかってくる。顔を上げていられない。肺が押し潰されて、うまく息ができない。たまらず膝をついた。何が何だか分からないまま、とにかく耐える。少しでも気を抜いたら、地面に押し潰されそうだ……!
そしてやっぱり何が何だか分からないでいるうちに、それは終わった。ふっと体が軽くなる。
「な、なんだったんだ、今の……」
急激に軽くなった体に違和感を覚えながら、俺は顔を上げた。ーーえっ? 思わず目を疑う。いつの間にか、庭は闇に包まれていた。あれ? だってさきまで夕方で……。……そんなバカな! いくら山の中だからって、こんな一瞬で陽が落ちるなんてこと、あるかよ!
慌てて立ち上がり、辺りを見回す。ふと、庭の中央で陰気に佇んでいる木の姿が目に止まった。その木には何もぶら下がっていない。そんな。だって、さっき確かに……!
「!……」
混乱する俺の横で人影が動いた。さっき俺が悲鳴を上げた時、木のそばに立っていた子だ。彼女はこちらに目もくれずに、開け放たれたままの引き戸から廊下へ飛び出す。
「あっ、オイ! ちょっと待っ……」
俺も彼女を追って廊下へと走り出た。
「!?」
廊下を駆け抜け、玄関へと走り出した俺は思わずその場で立ち尽くす。
土埃にまみれた床。散乱する家具や荷物で足の踏み場もなかった土間。所々落ちていた梁。けれど今目の前にある玄関は、朽ちてなどいなかった。
「うそ、だろ……」
ぼんやりと灯る行燈。磨き込まれ黒光している床。掃き清められた土間。家具や農具はもちろん、自分のあるべき場所に鎮座している。どこにも、風雨になぶられた跡は見当たらなかった。
咄嗟に背後の廊下に顔を突っ込む。駆け抜けた時は慌てていて気づかなかったが、廊下も同じだ。床板が崩れ落ちていたはずの廊下は、行く手を拒む穴などない。ど……どうなってんだよっ!?
混乱して立ちすくむ俺の耳に、物音が届いた。
「く……!」
見るとさっき中庭から飛び出していった子が、玄関の戸を開けようとしている。俺は、ハッと我に返った。
「あ、手伝う!」
駆け寄ると場所を変わってもらい、戸を引く。
「う……くくっ! なんだこれ。全然動かねーんだけどっ……!」
戸が全く横に滑らない。
「あ……何か刺さってる」
そう言って彼女は、戸の下の方を指さした。その指摘に改めて戸を見下ろすと、戸のかかとのキワに釘が打ち込まれているのがわかる。それがつっかえていて、戸が引けないのだ。調べてみると、反対側の戸にも釘が打ちこまれていた。これじゃ、開くわけもない。
釘を抜こうと引っ張ってみたが、結構奥まで打ち込まれているらしい。素手ではビクともしない。
「ダメだ……抜けない……」
「…………」
てことは。
「もしかして、閉じ込められたとか……?」
「…………」
自分で言ってからゾッとした。
コメント
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うわあ……第2話、めっちゃ怖かった……! 廃屋の描写が細かくて、自分もそこに立ってるみたいな臨場感があったよ。特に、足跡とか突然の重力変化とか、時間が飛んだところがゾッとした……。着物の少女が消えてたのも不気味すぎる。最後の「閉じ込められた」で終わるのも、続きが気になりすぎるよ……! カナリアさんのホラー、じわじわ来るタイプで好きだなあ。