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小さな魔王と丸い悪魔

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小さな魔王と丸い悪魔

6 - 第6話

♥

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2025年12月09日

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「小さな魔王と丸い悪魔」



🧣✕ショタ🌵









6 🌵視点



あの日から、らっだぁは俺といつも一緒にいてくれた。

最初はまたいなくなっちゃうんじゃないかって不安で俺はらっだぁにずっとくっついて歩いてた。でもそんなことしなくても朝目覚めるとぽよぽよのまくらになっててくれて、ご飯を作るときはお皿を運んだり手伝ってくれる。お風呂だって一緒だ。

ころんだら飛んできて抱っこしてくれる。それがとっても嬉しくて、何回かわざところんだのはナイショだ。

とにかく俺が危ないときはすぐにらっだぁが抱きしめてくれて、それが本当に嬉しかった。きっと俺がこないだのらっだぁみたいに窓から落ちても、あのポヨポヨの体で助けてくれるんだろう。ちょっとやってみたいけどこの塔の高さは俺が一番知ってる。


俺は広げた地図の裏に何を描こうか悩んでいた。これから二人でやりたいことを描こうと思っていたのに、いつも一人で遊んでたかららっだぁと二人でできることがなかなか思いつかない。俺だけ本を読んでたって、きっと面白くないだろうし。

「ふたりで、したいこと……」

ちびたクレヨンを持ったまま足をユラユラさせてたら、青いものが視界に入ってきた。らっだぁが俺を覗き込んでいる。

こういう時って、普通は友達と何をするんだろう。その時初めて俺は自分の中にぽっかりと穴が空いてることに気づいた。手を伸ばしても果てがわからないくらい、とっても広い空洞が。

一人のままならこの空洞にはきっと気づかなかった。俺は多分、頭も心もすごく狭い部分だけを毎日使ってて、でも奥にはこんな大きな空洞があったんだ。

きっとその空洞には本当なら何かが詰まってるんだろう。せっかく友達ができたのに、こたえるためのものが俺の中にない。もう何年この塔にいるかわからないのに、毎日本を読んでいたのに俺は大事なことを学んでいなかった。

「らっだぁがいるのに、俺、どうしたらいいんだろう」

「ら?」

「ううん、らっだぁがいてくれるだけで嬉しいぞ!でも、俺……」

目の奥がチクチクする。鼻がツーンと痛くなって、顔が勝手にくしゃくしゃになる。

かたちにならない夢が俺の中にたくさんある。でもそれは天の川みたいにゆらゆらするだけで、手元に引き寄せてももやもやのまま見えてこない。気持ちだけがあふれかえってて、行動に移せないことがとても苦しい。

涙が出る寸前で、ぽよぽよの手が俺の頬を挟んだ。


「ぐちつぼ?」


その声で涙が引っ込んだ。口を大きく開けたままらっだぁの手を掴み返す。


「お、お、俺の名前言えるのか!?」


はじめてだ!はじめて誰かが名前を呼んでくれた!言葉にならない喜びで体が舞い上がりそうだ。俺が火花みたいに喜んだのを見てらっだぁもニコニコしてる。

「ありがとう、らっだぁ、おれ、おれ……っ!!」

「ぐちーつ」

俺を指さしてくる。惜しいなぁ、ちょっと違うぜ!

「ぐちつぼ!なあ、さっき言えたじゃん!」

「つぼー……ら」

「なんですぐに「ら」が出ちゃうんだよ!ちがーう!ぐ・ち・つ・ぼ!!」

「ぐちー……っぽ」

「ああ〜っ、らっだぁのバカ!」

俺はらっだぁを突き飛ばした。その場にコロンと転がって、クスクス笑っている。なんかバカにされてるみたいで悔しくなって俺はそっぽを向いた。さっき言えたのに、らっだぁのいじわる!!


俺はイライラしながら階段を降りた。らっだぁにはきっと俺の気持ちなんてわかんないんだ。

名前を呼ばれてどれだけ嬉しかったのか。らっだぁは気づいてくれなかったんだ。



これが俺とらっだぁのはじめての喧嘩だった。







俺はランプを片手に書庫の中をウロウロしていた。

らっだぁは怖い夢を見たときも一緒にトイレに行ってくれる。胸がチクチクしてもぎゅってしてくれる。

でもプンプンしたのは初めてだ!無意識にほっぺがふくらんで、そしてため息が出る。

ざわつく心で本の背表紙を見て回った。でもいつもみたいに心が踊らない。らっだぁの顔を見たくなくてただ時間を潰してるだけだ。そんなことはわかってる。俺は真剣だったのにからかわれてカチンときて……でも、嬉しかったんだ。嬉しかったのに、素直になれないんだ。

また目の奥が熱くなって、俺は床にぺたんと座った。ここ数日は嵐みたいに目まぐるしくて、心があちこちに飛んでっちまう。

でも、でも、とっても嬉しいんだ。それをうまく伝えられなくてもどかしい。






膝を抱えて鼻を鳴らしていたら、なにか物音が聞こえた。書庫のドアを少しだけ開ける。上じゃなくて下の階からだ。くもつはもう届いたのに、一体何が?

恐る恐る階段を降りていく。何かが壊れるような大きい音。それから壁をドンドン叩く音が聞こえて俺は震え上がった。

「ら、らっだぁ……」

階段の上に呼びかける声が細まる。呼んだっていい、らっだぁなら飛んできてくれる。でもさっきのことがあったから俺はらっだぁを呼ぶことをためらってしまった。

叩く音はずっと聞こえてくる。俺は唇を噛みながら一階に降りた。玄関と逆側、普段はあまり入らない倉庫から音が聞こえてくる。

「な、なんだよッ!?」

手がガタガタ震える。それでも俺は勇気を振り絞って倉庫のドアを開けた。

真っ暗な中に光が差し込んでいて思わず目がくらんだ。厳重に打ち付けられていたはずの正面の窓の鎧戸が開いていた。

「あ、人かな?こんにちは~」

呑気そうな声がした。窓の向こうに人影が見えた。ずっと前から置きっぱなしのがらくたを避けて俺は慎重に近づいた。

「だ、だれだ?!」

「いやいやごめんねぇ、びっくりさせちゃって」

高い窓の外、鉄格子の向こうに立っていたのは大人だった。ニット帽の下、青いタレ目がニコニコ笑っている。

「……なんだよっ」

「俺はねぇ、いい子に荷物を持ってくる……そうだね、「配達人」だよ」

「はいたつ……?」

「そ。この塔にもいい子がいるって聞いたから来たんだよ」

ぽかんとする俺に配達人さんは手をヒラヒラ振ってみせた。悪い人じゃなさそうだけど……。

「いい子……に?」

「そう、いい子」

「俺、いい子なのか?」

「もちろん!ここで全部一人で頑張って生きてきたんでしょ?……これ以上ないくらい、いい子だよ」

褒められて、俺は喜ぶより先に黙ってしまった。ランプを持ってない方の手で服をぎゅっと掴む。

俺は、頑張ってきた?頑張ってたのか?毎日生きていただけなのに?

黙ってしまった俺を見て配達人さんは首を傾げている。そして何かの箱を窓にかざしてみせた。

「だからそんながんばりやさんのいい子には、プレゼントだよ!」

「プ……プレゼント?!」

俺はガラクタの中からちょうどいい木箱を見つけて、窓の下にズルズル引きずった。よく見たら窓に打ち付けられていた板がぶっ壊れて床に落ちている。こんなのよく外から壊せたな。

重ねた箱の上に飛び乗ると、配達人さんが持ってるものがやっと見えた。青い缶のような箱だった。

「なんだよ、これ」

「じゃーん、お菓子だよ」

配達人さんがフタを開けると、宝石みたいなお菓子がいっぱい入っていた。とっても甘い匂いがして、お昼にりんごを食べたのにおなかがぐぅと鳴った。

赤くて丸いのはガラスみたいにツヤツヤしてて、レンガみたいにガサガサのはお花とか星の形をしてた。溶けそうな見た目の茶色いのはなんだろう。本で読んだことがあるような……。

そこで急に昔読んだ絵本を思い出した。お菓子を食べると、魔女が出てきて食べられちゃうんじゃなかったか?!

「……知らない人からもらったものは食べちゃいけないんだぜ」

俺はぷいっと顔を背けた。配達人さんがため息をついてるのが聞こえる。でもだまされないぜ、俺はかしこいんだ。

「君、名前は?」

「……ぐちつぼ」

「ぐちつぼ君ね。いい名前だね」

「……ほんとか?」

「本当だよ。じゃあいま知り合いになったね。はい、どうぞ」

背けた視界の中に赤いまるいのが差し出された。だめだめ、食べたら俺は恐ろしい魔女に食べられちゃって……。

ぎゅむっ、唇にまるいのが押し付けられて、口がだんだんゆるゆるになってきて……気づいたら口の中に押し込まれていた。目が覚めるような甘さと、続いて優しい酸味が口いっぱいに広がった。

「ひゃむっ……」

「美味しい?」

俺は無意識にコクコクうなづいた。配達人さんは満足そうに笑うと缶の蓋を閉めて、鉄格子の隙間から俺に手渡してくれた。

「イチゴのアメ玉だよ。ゆっくり口の中で舐めるんだよ」

「……ふぁい」

「他になにか欲しいものある?お兄さんがな〜んでも持ってきてあげるよ」

配達人さんの言葉が俺のぽかんと開いた胸の空洞に転がった。

「なんでもいいよ?食べ物でも、服でも。君が不自由しないように何でもそろえてあげる」

うながされても言葉が出ない。突然手渡された自由は刃みたいだった。

そんなことを言われても俺の中にはなにもないんだ。ほしいってなんだ?不自由ってなんだ?今までは手を伸ばしたらすぐ天井に届いたのに、急に果てがなくなってバランスが取れない。

切実に考え込んだ俺の頭にするんと何かが躍り出た。青いまんまる、らっだぁが。


「……おもちゃがほしい」


大きなアメ玉をほっぺに押し込んで小声で答えた。

「おれ、ともだちがいるんだ。そいつと遊べるおもちゃがほしい」

もっともっと欲しいって手を伸ばすのがなんだかとっても悪いことのようで、でも伸ばさずにはいられなかった。配達人さんの目が大きく見開かれ、それから優しそうに笑った。

「いいよ、おもちゃだね」

「あ!そいつあんまりわかんないかもしれないから、難しくないやつがいいな」

「バ……カじゃないんじゃないかな?結構頭いいかもよ??」

「い〜や、俺のほうが頭いいぜ。だってあいつ俺の名前も言えないんだもん!」

なぜか引きつった顔の配達人さんの前で俺は胸を張ってみせた。そうだ、からかったんじゃなくてらっだぁはバカだから俺の名前言えないんだ!だって配達人さんはすぐに言えたもんな。

「また用意できたら持ってくるよ。それまで元気でね」

鉄格子の隙間から白い手が伸び、俺の頭を撫でた。その瞬間、つい最近もこんなふうに撫でられたような気がして、もう一度配達人さんの顔を見ようとしたけど重たい鎧戸が目の前で閉じてしまった。



俺は宝石箱みたいなお菓子の缶を持って階段を登った。リビングにらっだぁはいない。まだ俺の部屋にいるのかな?見に行こうとしたら、下から階段を上がってきた。あれ?入れ違いになったのか?

「見てよらっだぁ!!荷物の配達人さんが来てさ、これ、俺に……」

缶を片手にはしゃいで駆け寄ろうとして俺は足踏みした。さっきあんなふうに言って出ていったのに、どうしたらいいんだろう。

気まずそうに言葉を失った俺のそばにらっだぁはポテポテ歩いてきた。うんと背伸びして俺の頭を撫でた。


「ぐちつぼ」


俺は口をおっきく広げて、それから叫んだ。

「お前、俺の名前言えるようになったのか?!」

「ぐちつぼ!」

ぴょんと飛び跳ねて、それから何度も呼んでくれた。呼ばれるたびに胸があったかくなって、きっとほっぺもきゅぅっと赤くなってる。名前を呼んでもらえるだけで、まるで闇夜のランプに明かりが灯ったみたいだ。らっだぁの声が俺を照らしてくれて、俺ははじめて世界から体が浮き上がったみたいだった。

「練習したのか?」

「らぁ」

「そっかぁ、ありがとな」

ほっぺをつっついたら、らっだぁはふんぞり返って得意げにしている。なんだ、頭が良いなら最初からそう言ってくれればよかったのに!

「らっだぁって頭いいんだよな」

「らぁ!」

「じゃあx^2 + 6x + 10 = 0はどう?わかるか?」

「…………ら?」

「あれ?わかんないのか?」

俺の予想に反してらっだぁはこんな簡単な問題でフリーズしている。おかしいな、でも頭はいいんだよな?喋れるし、名前も言えるし……。

「数学は得意じゃないとか?」

「ら、らぁ」

「なら俺が教えてやるぞ!」

「ら゛ぁーーーッ!!!」

お菓子の缶をテーブルにおいて、俺は数学の本を持ってきてらっだぁの腕を引っ張った。

俺が本を片手にウキウキで解き方を教える間、なんだか苦い顔をしてずっと眉間にシワが寄っててすごく眠そうだったけど、それでも何度も相槌を打ってくれた。なんか疲れてるのかな?でも頭いいらしいし、物理だったら得意かな?明日教えてあげよう。







数日後。配達人さんが持ってきてくれたのはすごろくだった。はじめてやるすごろくは本当に面白くて、俺はご飯を食べるのも忘れて夢中になって、眠いのにまだやろうとしてらっだぁにベッドに押し込まれた。

紙にオリジナルの盤面を作ったりして遊んでたら、次はトランプをくれた。トランプってすごい、いろんなゲームがあってずっと遊べちゃう。

でも神経衰弱だと圧勝できるのに、ババ抜きだと最終盤面でどうやってもバレちまう。なんでらっだぁは俺がどっちの手にジョーカー持ってるのかわかるんだ?らっだぁの表情は全然変わんないからずるい。

俺は何年も前に書庫の隅にぶん投げた絵本を、何往復もして部屋に持ってきた。絵本なんて夢物語でバカらしいってずっと前に卒業したのに、そこに二人でできることのヒントがいっぱい書いてあった。

「なぁ、この「おしばな」ってやつやってみたい!」

「らぁ!」

「……本物のお花、見てみたいな。あとこれ、水鉄砲!お風呂で遊ぼうぜ!」

「らー!」

配達人さんが持ってきてくれた真新しいクレヨンで、俺は大きな地図の裏にいろんな花の絵を書いた。




そっか、俺の胸の中の空洞は、俺を苦しめるためじゃない。こうやっていま二人でいろんなものを詰め込むためにあったんだ。

やりたいことを書いた地図がだんだん埋まっていく。らっだぁと二人の日々はここに住んでいた年月を合わせるよりももっと濃厚で、毎日がキラキラ輝いていた。

小さな魔王と丸い悪魔

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