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麗太
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「ひぃぃぃ……暗い……寒い……怖いよぉ……」
私は、光の届かない奈落の底で、岩陰に隠れてガタガタと震えていた。
ほんの数十分前、床が崩れた。
その結果、カエデは暗闇の底へ落ち、サクラたちとも分断され──。
私はたった一人、この真っ暗な迷宮に取り残されてしまったのだ。
(こんな湿った洞窟で死ぬなんて嫌ぁぁぁ!! せめて月夜の古城で死なせてぇぇ!!)
(いや!死にたくなぃいいいいい!!)
「サクラー……カエデー……ローザー……誰か助け──」
──ズドゴォォォォォォンッ!!!
「ひッ!?」
突然、少し離れた広場の方から、地盤を揺るがすような轟音が響いた。
魔神族!? やばい、誰か戦ってる!?
私は息を殺し、岩の隙間から恐る恐る広場を覗き込んだ。
そこで私が見たものは──。
「オラァァァッ!! 聖女様をどこへやった化け物どもォォォッ!!」
メイド服をなびかせながら、巨大なモンスターの顔面に『飛び膝蹴り』を叩き込んでいるローザの姿だった。
「ギェェェェェ!?」
三メートルはある獣型モンスターが、ただのメイドの膝蹴りで宙を舞い、岩壁に激突する。
さらにローザは、分厚い『カメリア聖典(ハードカバー特装版)』を両手で持ち、ハンマーのように振りかぶった。
「我が祈り(物理)を聞けェェェ!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
聖典の角がモンスターの脳天にクリーンヒットし、巨体が光の粒子となって消し飛んだ。
「…………」
私は岩陰で、無言で震えていた。
強い。めちゃくちゃ強い。
私がホーリービーム♡を出さなくても、あの子一人でこの奈落を生きていけるんじゃないだろうか。
「ハァ……ハァ……聖女様……ツバキ様……!! どこですかぁぁ!!」
モンスターを全滅させたローザが、血走った目で周囲を見渡し始めた。
怖い。あのままにしておきたい。
でも、ここで合流しないと一生迷子だ。
私は震える膝を必死に抑え、左目に手を当てて岩陰からゆっくりと歩み出た。
「……フッ。騒々しいわね、我が第一の使徒よ」
「ツ、ツバキ様ァァァ!!」
私の姿を見た瞬間、ローザは血まみれ(魔物の)の聖典をサッと背後に隠し、いつものポンコツメイドの顔に戻って駆け寄ってきた。
「ご無事で何よりです! しかし……さすがでございます」
「え?」
「ツバキ様が岩陰で気配を消し、私に敵の位置を誘導してくださっていたのですね!」
「……そ、そうよ」
(全然そんなことしてない。隠れて震えてただけ)
私が引きつった笑顔で頷いた、その時だった。
──カァァァンッ!!
「……いったぁぁぁい!!」
「ツバキ様!」
突然、何もない頭上から、銀色の金属の鉢(タライ)が勢いよく落ちてきて、私の頭に直撃した。
「今、わざと頭で受けましたね?」
ローザが目を輝かせた。
「受けてない! 普通に痛い!!」
「敵の罠を御身で確かめ、私たちへの危険を事前に排除してくださった……!」
「落下物を頭で確かめる戦術なんてないから!!」
シャシャシャシャシャッ!!
「『聖女様、頭部で罠を解除。天才』……っと」
「メモするな!! こんなギャグ漫画みたいな落ち方してくる罠があるわけないじゃん! 絶対これ、カエデのせいだ!!」
「えっ? カエデ様は今、奈落の底へ落ちていかれたはずでは……」
「わからないけど、わかるの! カエデのあの『マイナス53万のバグ運』が巡り巡って、ピタゴラスイッチみたいに私の頭に落ちてきたんだよ!! 絶対そう!!」
カエデと長く旅をしてきた私の野生の勘が、そう告げている。
シャシャシャシャシャッ!!
「『聖女様、遠く離れたカエデ様の不運をも身代わりとなって引き受ける。慈愛』……っと」
「人の話聞いて!!」
私がポンコツ侍女にツッコミを入れ疲れて息を吐いた、その時だった。
「……グルルルルッ」
通路の奥から、追加のモンスターが三体、重い足音を立てて姿を現した。
「ひっ!?」
「ツバキ様、お下がりください! ここは私が、この『盾(タライ)』で防ぎます!」
ローザが、何の魔法的効果もないただの金ダライを構えて前に出た。
ダメだ。タライでは防げるわけがない。
「ああもう! なんでこんな時に限って!! カエデのバカぁぁぁぁ!!」
私は半泣きになりながら、ヤケクソで左目に魔力を集中させた。
「『ヤケクソ・ホーリービーム♡』ッ!!」
ビィィィイイイイイィィィム♡♡♡
ズドバァァァァァァァァンッ!!!!!
私の左目から放たれた極太のピンク光線が、三体のモンスターを跡形もなく吹き飛ばし、分厚い岩壁すらもドロドロに溶かして貫通していった。
「おおお……!」
背後で、ローザが震える声で呟いた。
「『ヤケクソ』……『捨て身の覚悟で放つ』という意味でしょうか……! 自らの感情すら兵器に変える……なんという境地……!」
「ヤケクソはヤケクソだよ!! 意味そのままだよ!!」
シャシャシャシャシャッ!!
「『聖女様、感情を武器に昇華。人智を超えた悟り』……っと」
「超解釈!!」
──その時。
【ツバキのレベルが上がりました】
久しぶりのレベルアップの通知が!!
「え!やった!……でも」
──今まで口からビーム解放されたり良いことは無かったことを思い出した。
【警告:ダンジョンの壁(約800メートル)の過剰な損壊を確認。修繕費として、今後の獲得経験値から天引きします】
【現在の経験値残高:マイナス 45,000】
「……マイナス?……経験値って、リボ払いできるの……?」
私は目を疑った。
【再計算したところ、ツバキのレベルが下がりました】
「まさかのレベルダウン!?」
やっぱりロクでもなかった──。
「さすがです……!」
ローザが私を見つめながら震えている。
「なにが!?」
「通常ならレベルアップで終わるところを、あえてレベルを下げることで、更なる高みを目指しておられる……!」
「そんな修行僧みたいなシステムある!?」
*
「い、行くわよ、ローザ。漆黒の闇(サクラたちのところ)が、我らを呼んでいるわ……」
内心では「怖いよぉ……早くサクラに会いたいよぉ……」と泣き叫んでいるが、私は決してポーズを崩さない。
瓦礫の山を越えようとした、その時だった。
岩陰に、美しい漆黒の布──重厚な『マント』が折り畳まれているのを見つけた。
「……フッ。奈落の底で出会うとはね。この闇の装束、我が身に相応しいわ」
私は流れるような動作で、そのマントを肩に羽織った。
同時に、マントから大人の女性の声が響いた。
『……ククク。千年の封印を超え、我が闇衣に触れる愚か者は誰だ』
「えっ?」
『……待て……』
『…………』
『……この魔力波長、ツバキか?』
「ええっ?」
(いや誰!? 初対面のマントになんで名前バレてんの!?)
(いや、マントに名前バレって何?)
(……あれ?ちょっと待って!!マントが喋ってる!?)
(今何が起きてるの!?怖いぃいいいいい!!)
──私はフリーズした。ローザは書いてた。
(つづく)