翌朝。
俺が起きたのは昼過ぎで、ぺんさんはちょっと前に家に帰ってしまったらしい。
最近は暖かくなってきたみたいで、家の周りの雪が溶けて小さな花が咲いてるのを見つけたら、らだおくんが嬉しそうに笑っていた。
「みどりは親御さんとの連絡手段あるの?」
「?」
「一応預かってますよって言いに行かないとじゃん?向こうはみどりがどうしてるか分かんないわけだし」
「…手紙、送レル」
「じゃあ今から書こうか」
そう言われて鉛筆を握ってから、かれこれ数時間は経っている。
手紙を書こうと言われても、何を書けばいいのかなんて分からない。
「字は書ける?」
「習ッタ…ドウ書ケバイイノカ、分カラナイ……」
「みどりの好きなようにやりな…絵は?ホラ、これ貸してあげる。好きなもん描きな」
そう言って奥の戸棚から取り出したのは、いくつかの色がついたカタマリ。
匂いも全然しないし、なんとなく直接紙に擦ってみても、思うような色は出ない。
コトン、と近くに水が置かれた。
飲み水にしては少ない…隣には筆が並んだ。
「…コレ、コウ?」
「うん。そう使うの」
筆を水に浸して、たっぷり水を含んだ筆をカタマリに押し付けると、水がジュワッと筆から溢れてカタマリの表面を少し溶かした。
「ワッ…!!」
「ふふっ…喜びすぎ……」
白い筆にはらだおくんような青が滲んでいて、俺の顔は美味しいお菓子を食べた時のレウさんのようにパッと明るくなっているに違いない。
筆と同じように真っ白でスベスベした紙に向かって好き勝手に筆を走らせる。
らだおくんは、ただ眩しいものを見るように俺を見つめていた。
「フワァ〜…」
「おー、いいじゃん。ところで誰?この猿」
「ェ?ラダオクン」
「ゑ?俺ですか?」
ニット帽を被った人間の男。
服は和服で、青に近い黒。
髪の毛も同じ色で、肌は白いに近い色…そう言ったら「最近はちょっと引きこもってたからね」と呟いていた。
瞳の色は夏の、雲一つない晴れた空の色。
隣には申し訳程度に俺を書き入れた。
「猿ジャナイヨ、ラダオクン人間ダモン」
「……そうだね…あー、手紙はどうやって送んの?郵便とか使う感じ?」
「ユービン?ナニソレ…コウスルンダヨ」
手紙の送り方も知らないらだおくんのために見やすい位置に移動してから、鳥の形に折った紙の上に傷を付けた指を向けた。
噛み切った時にらだおくんが変な声をあげていたけど、無視して流れた一滴の血を紙に垂らす。
途端に魔力を帯びた紙製の鳥はパタパタと羽ばたいて、窓の隙間から家の方まで飛んでいってしまった。
「ネ?簡単デショ?」
「……魔力操作のレベル高ッ…流石だわ、こんなに警戒心がゼロでも魔竜は魔竜…」
「?」
若干腰が引けているらだおくんに首を傾げながら指先の傷をチロリと舐めると、らだおくんが「あ”ー!!汚い汚い、細菌が……」と言いながら救急箱を持ってきた。
「はい、ぐるぐるー」
「…レウサンモ、同ジコト言ッテタ」
「ぐるぐるーって?」
「ンーン、包帯ダッタカラ『まきまきー』ッテ…」
「そっか、いいね」
「…ン。イイデショ」
仲直り、どうすれば良いかな。
今までとは違って、らだおくんの所に逃げてきちゃったから…
「…家族との仲直りは、ごめんなさいって一言だけでも言えれば良いんだよ」
「…家族?」
「そ。家族でしょ?」
「……ウン。家族ダヨ」
家族。家族だ。
同居人でも、育ててくれる人でもない。
仲間で、友達で、家族。
それってすっごく素敵な事だ。
「アノネ、ラダオクン、俺__」
家に帰ってみんなに謝りに行く。
そう言おうとした時、玄関の方から激しい音がしてらだおくんが情けない悲鳴を上げた。
「何!?何なの!?……エグブッ!!」
ギャンギャン言いながら俺を背後に玄関へ向かったらだおくんの顎に、綺麗なアッパーがめり込んだ。
「ェ…!?」
「どりみー!無事か!?」
そこには倒れたらだおくんに絞め技で追い打ちをかけるきょーさんがいた。
ぶち破られた玄関の向こうからは、レウさんとコンちゃんが走ってきている。
……………え?
ー ー ー ー ー
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コメント
3件
あ、、、らだおー!!!!w すごく面白いです!!同時に出してくれるとかありがたすぎて泣けてきます😭💓