「まぁさっきも言ったように、ゆかりちゃんの寿命は尽きてないんだけど──運命はなにもわからない」
運命の神様はきれいなおでこにシワを刻んで、そう言った。
「なんせこの葉の表面に本来書かれているべき運命が、なにも書かれていないんだ。だから彼女が今後どんな事故、事件に巻き込まれるか、どんな人とどんな関係を持つのか、それは一切不明のまま」
「つまり?」
「つまり今度またいつ、彼女が死にそうな目にあうかわからない」
「ははっ。運命の神が、人間の運命を読めねぇなんてことがあるのか」
「……正直、初めてだよ」
イヤミがまじったような死神さんの言葉に、運命の神様は肩をすくめただけだった。
反論することもできないんだろう。キラキラのお顔が、まゆ毛を八の字に下げている。
私、そんなめずらしい人なの?
神様でも私がいつどうなるかわからない、どんな人生を送るかわからないって、それ本当に大丈夫?
これからも私、何度も死にそうになりながら生きていくしかないってこと?
死神さんに怒られながら?
それはちょっと──あんまりじゃない?
「あの……死なないように生きる方法って、ないんでしょうか」
二人の顔が、こっちを向く。
よく考えたら変な発言だなぁと、自分でも思う。
死なないように生きる方法なんて、きっと世の中いくらでもあるんだ。
どんな時でも注意して歩く。
戸締まりをしっかりする。
よくかんで食べる。
危ない遊びはしない。
なにかあれば大声で助けを呼ぶ。
それを全部やっていても、私は死なないようには生きられない。
だけど家族に心配をかけ続けるようなこんな、こんな人生。
変えられるなら、変えたいに決まってる。
それをできるとしたら、神様二人がいる今しかない!
「本当、家族に心配かけっぱなしなんです! それがすっごく、すっごくイヤで……! 運命がわからないとしても、私がこれ以上死なないようにする方法ってないんですか!? 二人が本当に神様なら、お願いだから助けてほしい……!!」
私の訴えに、死神さんは困ったように頭を掻いた。
「気持ちは分かるが、コイツで無理ならそんなこと」
「だって死神さんも面倒だって思ってるんでしょ!? 私の寿命がくるまで毎回、私を生き返らせにこなきゃならないんだよ!?」
「それはそうだが」
「私じゃどうにもならないことじゃん! 困ってる女の子一人助けられないで、神様なんて言えるの!? そんな神様、変だよ!」
部屋の中がシーンとなる。ああ、ひどいこと言っちゃった。
私は神様のことなんてなんにも知らないのに。
助けてもらいたいなら、こんな言い方をしちゃダメだって分かってるのに。
そう思うより先に、口が動いてしまっていた。
あきれられたかな。ううん、それならまだいいかもしれない。
だって神様にこんなことを言ったんだから、もしかしたらバチが当たって、寿命をうんと短くされちゃうかもしれない。
でも、言ってしまったものはもう取り消せないんだ。
「ゆかりちゃん」
運命の神様の優しい声に、ビクッと肩がはねる。
なにを言われるだろう。
ひどいことを言ったのは私なのに、責められるのを怖がるなんて間違ってるんだろうけど、それでも手が震えていた。
「きみの意見はもっともだ。僕達は神様なんだから、きみ一人の願いを叶えられもしないのに、神様なんて名乗っちゃいけないよね」
思ってもいなかった言葉に、顔を上げる。運命の神様は相変わらずキラキラの笑顔で、私をのぞきこんでいた。
「なんとかできるん、ですか?」
「方法はあるよ」
「じゃあ……!」
「だけどそのためには、きみにガマンしてもらわなきゃいけないことがある。ツラいこともあると思うけど、死なないように生きていくためには必要なガマンだ」
青い目が私を正面から見ていた。
私の覚悟を、聞いている。
正直、どんなガマンかもわからない。
だけどこれから先、死なないように元気に、みんなみたいに生きていけるなら。
「どんなことでも、できます」
「そう。──いい目で返事をするね」
にっこりと笑った運命の神様は、そのまま死神さんに向き直った。
「じゃあ死神くん。きみがゆかりちゃんと一緒に暮らすってことで、とりあえず頼むね」
また、部屋に沈黙が落ちる。
だけど今回のは、さっきみたいに気まずいやつじゃない。
死神さんから感じるのは、意味がわからないことを言われたときのようなポカンとした雰囲気だ。
私にもよく、わからない。
死神さんと暮らすって。
死神さんと?
「えぇえええええ!?」
「はぁああああああ!?」
私が叫ぶのと、死神さんが声を上げたのはほとんど同時だった。
「あはは、息ぴったり。問題なさそうだね」
「いやいやいや問題大アリじゃないですか!?」
「問題しかねぇよ! なんでオレが巻き込まれなきゃならねぇんだ!」
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